TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
「訓練開始。」
板垣の号令とともに、シミュレーター室の照明が少し落とされた。
第三班の五人は、それぞれのコックピットへ乗り込む。
今日で四日目。
「今日は立ってみせる。」
朝倉が気合いを入れる。
「昨日も聞いた。」
真壁が短く返した。
結城は緊張した表情でヘルメットを被る。
九条はいつも通り静かだった。
迅は深く息を吸う。
(焦るな。)
(昨日より、一歩だけ前へ。)
九条の言葉を思い出す。
『機体を見るな。自分の身体だと思え。』
板垣の声が通信回線に響く。
「課目は変わらん。」
「立て。」
《訓練開始》
演習場の映像が映し出される。
朝倉の機体が勢いよく起き上がる。
三秒。
四秒。
「よし!」
その瞬間。
《姿勢制御喪失》
「またかー!」
盛大に尻もちをつく。
結城は慎重だった。
ゆっくりと重心を移し、
五秒。
六秒。
七秒。
前回より長く立っている。
だが、最後は小さく揺れ、そのまま倒れた。
「惜しい。」
板垣が短く言う。
真壁も安定していた。
九条は十秒以上姿勢を維持し、その場で静止している。
一ノ瀬もほぼ同じだった。
二人の差は、ほとんど見えない。
迅はその姿を見ていた。
(すごい。)
(でも。)
(見るな。)
視線を前へ戻す。
操縦桿を握る。
ゆっくり。
呼吸を合わせる。
足元へ力を伝える。
《姿勢制御……正常》
武御雷がゆっくりと立ち上がる。
(まだだ。)
身体に余計な力が入る。
倒れる。
そう思った瞬間。
力を抜いた。
武御雷は静かに姿勢を保った。
三秒。
五秒。
七秒。
迅は目を見開く。
(立ってる。)
十秒。
まだ倒れない。
板垣は何も言わない。
教室も静まり返っていた。
やがて。
「そこまで。」
訓練終了の号令が響く。
迅は操縦桿から手を離した。
胸が大きく上下する。
コックピットを降りると、朝倉が駆け寄ってきた。
「武田!」
「やったじゃねぇか!」
結城も嬉しそうに笑う。
「立ってました!」
真壁は小さく頷いた。
「ようやくだな。」
九条も穏やかな表情で言う。
「おめでとう。」
迅は照れくさそうに笑った。
「ありがとう。」
その時。
板垣が歩いてくる。
全員が姿勢を正した。
板垣は迅の前で止まる。
「武田。」
「はい。」
「なぜ今日は立てた。」
迅は少し考える。
「……倒れないようにするのをやめました。」
板垣は静かに頷いた。
「そうだ。」
学生たちが耳を傾ける。
「武御雷は、倒れないように動かすものではない。」
「立つべくして立たせるものだ。」
少し間を置く。
「武田。」
「はい。」
板垣の口元が、ほんのわずかに緩んだように見えた。
「ようやく、お前が立った。」
迅は一瞬、その意味が分からなかった。
板垣は続ける。
「お前が立った。」
「だから武御雷も立った。」
その言葉は、不思議なくらい胸へ響いた。
教官室へ戻る板垣の背中を見送りながら、迅は白いシミュレーターを振り返る。
まだ歩けない。
まだ走れない。
それでも今日、自分は確かに一歩前へ進んだ。
武御雷へ近づいたのではない。
衛士へ、一歩近づいたのだった