TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

36 / 50
第一部 蒼き日々 第三章 白き武御雷 第28話 五機一組

「本日の課目を告げる。」

 

板垣が演習室の中央に立つ。

 

学生たちはシミュレーターへ搭乗したまま、その声を待っていた。

 

「本日より、班行動訓練を開始する。」

 

迅は思わず九条を見る。

 

九条も静かに頷いた。

 

何度も聞いた言葉。

 

「班」。

 

その意味が、今度は戦術機を通して試される。

 

「課目は単純だ。」

 

板垣は演習場の立体地図を表示する。

 

五機の青い光点が並び、その前方には赤い光点がいくつも現れた。

 

「前進。」

 

「停止。」

 

「方向転換。」

 

「以上だ。」

 

朝倉が通信越しに呟く。

 

「……歩くだけ?」

 

板垣は即座に答える。

 

「歩くだけだ。」

 

「だが、一人でも隊形を崩せば全員失格。」

 

室内が静まり返る。

 

「斯衛軍は、一機で戦わん。」

 

「五機で戦う。」

 

「覚えておけ。」

 

《訓練開始》

 

五機の武御雷がゆっくりと歩き始める。

 

先頭は九条。

 

右前方に真壁。

 

左前方に武田。

 

後方左右を朝倉と結城が受け持つ。

 

「速度合わせろ。」

 

九条の落ち着いた声が通信回線に流れる。

 

「了解。」

 

迅は前を見据えながら応じた。

 

歩幅を合わせる。

 

速度を合わせる。

 

たったそれだけのことが難しい。

 

「朝倉、少し速い。」

 

「悪い!」

 

朝倉が慌てて減速する。

 

その瞬間、今度は結城との間隔が開く。

 

「結城、前へ。」

 

「はい!」

 

演習場では何度も練習した隊形。

 

だが、戦術機になるとまるで別物だった。

 

「止まれ。」

 

九条の指示。

 

五機が同時に停止する。

 

……一拍遅れて。

 

朝倉の武御雷だけが半歩前へ出た。

 

《隊形乱れ》

 

電子音が鳴る。

 

「くっ……。」

 

朝倉が悔しそうに歯を食いしばる。

 

「気にするな。」

 

九条の声は落ち着いていた。

 

「もう一度。」

 

《訓練再開》

 

今度は少し良かった。

 

歩調が合う。

 

停止も揃う。

 

しかし方向転換で武田がわずかに遅れた。

 

「武田。」

 

「すまん!」

 

「謝るな。」

 

九条は短く言う。

 

「次を合わせろ。」

 

その一言で迅の焦りが消える。

 

もう一度。

 

また一歩。

 

五機はゆっくり進む。

 

何度失敗しても、九条の声は変わらない。

 

焦らない。

 

怒らない。

 

「前へ。」

 

「停止。」

 

「右へ十五度。」

 

短い指示だけが通信回線を流れる。

 

その声を聞いていると、不思議と機体の動きも落ち着いてくる。

 

訓練終了のブザーが鳴る。

 

五人はコックピットを降りた。

 

汗で制服のシャツが背中へ張り付いている。

 

朝倉が大きく息を吐いた。

 

「歩くだけで、こんなに疲れるとは思わなかった。」

 

「俺も。」

 

結城が苦笑する。

 

真壁はヘルメットを抱えたまま言った。

 

「班で動く方が難しい。」

 

九条は少し考え込んでいた。

 

「一人なら立てる。」

 

「だが、五人ではまだ歩けない。」

 

その時、板垣が近づいてきた。

 

「九条。」

 

「はい。」

 

「班とは何だ。」

 

突然の問いだった。

 

九条は迷わず答える。

 

「五人で一つです。」

 

板垣は首を横に振った。

 

「違う。」

 

全員が息を呑む。

 

板垣は五人を見渡した。

 

「五人で動くのではない。」

 

「五人で、一機だ。」

 

その言葉に、迅は目を見開いた。

 

「一機……。」

 

「そうだ。」

 

板垣は演習場を指差す。

 

「敵は、お前たちを五人とは見ない。」

 

「一つの部隊として見る。」

 

「ならば。」

 

「お前たちも、自分たちを一つだと思え。」

 

沈黙が流れる。

 

第二章で学んだ「五人一組」。

 

その意味を、五人はようやく理解し始めていた。

 

班とは、人数ではない。

 

心を一つにすることだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。