TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第三章 白き武御雷 第29話 見失うな

シミュレーター室には、静かな緊張が漂っていた。

 

板垣は学生たちを見渡し、淡々と告げる。

 

「本日の課目は隊形維持訓練。」

 

演習場の立体映像が映し出される。

 

五機一組。

 

前進、停止、方向転換。

 

昨日と同じ課目だ。

 

そう思った瞬間だった。

 

「課目を変更する。」

 

室内の空気が変わる。

 

板垣は名簿へ目を落とした。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「本日の隊長を命ずる。」

 

迅は一瞬、自分の耳を疑った。

 

「……自分が、ですか。」

 

「そうだ。」

 

「返事は。」

 

「は、はい!」

 

朝倉が通信越しに声を上げる。

 

「武田が隊長か!」

 

真壁も少し驚いた表情を見せる。

 

九条だけは静かに迅を見つめていた。

 

「訓練開始。」

 

《プログラム開始》

 

五機の武御雷が演習場へ展開する。

 

迅は深呼吸した。

 

(落ち着け。)

 

(いつも九条がやっていることを、そのままやればいい。)

 

「第三班。」

 

通信回線を開く。

 

「前進。」

 

「了解。」

 

五機が動き始める。

 

しかし、迅は前方ばかり見ていた。

 

隊形を確認する余裕がない。

 

「武田。」

 

真壁が呼ぶ。

 

「右が開いてる。」

 

「あ……!」

 

迅は慌てて修正を指示する。

 

「朝倉、少し左!」

 

「了解!」

 

その声に反応した朝倉が動く。

 

今度は結城との間隔が狭くなる。

 

「止まれ!」

 

指示が遅れた。

 

五機はばらばらの位置で停止した。

 

《隊形乱れ》

 

電子音が響く。

 

迅の背中を汗が流れる。

 

(駄目だ……。)

 

「前進!」

 

焦って次の命令を出す。

 

その瞬間。

 

朝倉の機体が真壁へ接近した。

 

「近い!」

 

「分かってる!」

 

慌てて回避する。

 

隊形は完全に崩れた。

 

《訓練終了》

 

板垣の声が響く。

 

「武田。」

 

「はい……。」

 

「隊長任務、終了。」

 

迅は俯いた。

 

「申し訳ありません。」

 

板垣は首を振る。

 

「謝罪は不要だ。」

 

「原因を言え。」

 

迅は少し考えた。

 

「周りが見えていませんでした。」

 

「前しか見ていませんでした。」

 

「そうだ。」

 

板垣は頷いた。

 

そして九条を見る。

 

「九条。」

 

「はい。」

 

「なぜ武田を助けなかった。」

 

九条は迷わず答える。

 

「本日の隊長は武田でした。」

 

「隊長の指揮へ介入するべきではないと判断しました。」

 

板垣は静かに首を横へ振る。

 

「違う。」

 

室内が静まり返る。

 

「隊長は一人だ。」

 

「だが。」

 

「隊長を支える者は四人いる。」

 

迅は顔を上げた。

 

板垣は五人全員を見渡す。

 

「隊長は万能ではない。」

 

「見えないものは教えろ。」

 

「遅れた命令は補え。」

 

「隊長を孤立させるな。」

 

誰も返事をしなかった。

 

その言葉の重さを、それぞれが噛み締めていた。

 

「以上。」

 

板垣はそれだけ言うと、教官室へ戻っていった。

 

夕暮れ。

 

寮への帰り道。

 

五人は並んで歩いていた。

 

朝倉が口を開く。

 

「今日は難しかったな。」

 

「……ああ。」

 

迅は苦笑した。

 

「隊長って、大変なんだな。」

 

「九条、いつもこんなこと考えてたのか。」

 

九条は少し笑う。

 

「今日、初めて分かった。」

 

「何が?」

 

「私は今まで、班長でいることばかり考えていた。」

 

迅が首を傾げる。

 

「でも今日は。」

 

九条は空を見上げる。

 

「班員として隊長を支えることができなかった。」

 

「それが一番の失敗だ。」

 

迅は立ち止まった。

 

「九条。」

 

「ん?」

 

「次は助けてくれ。」

 

九条は少し驚き、それから穏やかに笑った。

 

「ああ。」

 

「もちろんだ。」

 

その様子を見ていた朝倉が笑う。

 

「じゃあ俺は、また余計なことしそうになったら止めてくれ。」

 

「毎回止めることになるぞ。」

 

真壁が真顔で言う。

 

「ひどいな!」

 

結城が吹き出した。

 

夕暮れの校舎に、五人の笑い声が響く。

 

今日の訓練は失敗だった。

 

だが、その失敗は確かに第三班を一歩前へ進ませていた。

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