TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第三章 白き武御雷 第30話 百歩

第三章 白き武御雷

 

第30話 百歩

 

「修了試験を行う。」

 

板垣の一声で、シミュレーター室の空気が張り詰めた。

 

学生たちは、それぞれのコックピットへ搭乗する。

 

これまで何度も座った席。

 

それでも今日は違う。

 

試験という言葉だけで、胸の鼓動が速くなる。

 

板垣は演習内容を簡潔に告げた。

 

「課目は百メートル歩行。」

 

「班単位で行う。」

 

「途中転倒、隊形崩壊、接触。」

 

「いずれか一つでも確認した場合、不合格。」

 

朝倉が思わず息を呑む。

 

「百メートル……。」

 

「長いな。」

 

真壁が静かにつぶやいた。

 

九条は全員の通信回線を開く。

 

「第三班。」

 

「はい。」

 

四人の返事が重なる。

 

「焦るな。」

 

「いつも通りで行く。」

 

「了解。」

 

《試験開始》

 

最初は第一班だった。

 

一ノ瀬の号令が響く。

 

「前進。」

 

五機が滑らかに歩き始める。

 

無駄がない。

 

隊形も崩れない。

 

停止。

 

百メートル。

 

静かな拍手が起こる。

 

「合格。」

 

板垣はそれだけ告げた。

 

一ノ瀬は敬礼し、自席へ戻る。

 

笑顔はない。

 

それが第一班だった。

 

続いて第二班。

 

小さく隊形は乱れたものの、全員で修正し、課目を終える。

 

「合格。」

 

そして。

 

「第三班。」

 

九条が深く息を吸った。

 

「行くぞ。」

 

「了解。」

 

五機が動き出す。

 

一歩。

 

また一歩。

 

昨日までとは違う。

 

誰も速く歩こうとしない。

 

誰も遅れまいと力まない。

 

互いの動きを感じながら歩く。

 

三十メートル。

 

異常なし。

 

五十メートル。

 

隊形維持。

 

七十メートル。

 

朝倉の武御雷がわずかに左へ揺れた。

 

「しまっ……!」

 

九条が指示を出そうとした、その時だった。

 

「朝倉。」

 

迅の声が飛ぶ。

 

「呼吸を合わせろ。」

 

「……!」

 

朝倉は大きく息を吐く。

 

操縦桿を握り直す。

 

揺れが収まる。

 

真壁が短く続けた。

 

「速度そのまま。」

 

「了解。」

 

結城が計器を確認する。

 

「間隔正常。」

 

九条は四人の声を聞いていた。

 

(私が言わなくても……。)

 

小さく息を吸う。

 

「そのまま前進。」

 

「了解!」

 

五機は再び歩き始めた。

 

九十メートル。

 

九十五メートル。

 

百メートル。

 

「停止。」

 

五機がほぼ同時に止まる。

 

静寂。

 

誰も声を出さない。

 

板垣がゆっくり歩いてくる。

 

隊形を確認する。

 

記録を確認する。

 

長い沈黙だった。

 

朝倉が小さくつぶやく。

 

「頼む……。」

 

板垣は記録表を閉じた。

 

「第三班。」

 

「はい!」

 

「合格。」

 

その一言で、朝倉は思わず拳を握った。

 

「よっしゃ!」

 

「静かに。」

 

真壁がすぐにたしなめる。

 

「……悪い。」

 

朝倉は照れくさそうに頭をかいた。

 

板垣は五人を見渡す。

 

「勘違いするな。」

 

全員の表情が引き締まる。

 

「今のお前たちは、歩けるだけだ。」

 

誰も反論しない。

 

その通りだからだ。

 

「歩くだけでは戦えん。」

 

「次課程より、機動訓練へ移行する。」

 

学生たちの間に緊張が走る。

 

機動訓練。

 

いよいよ武御雷を本格的に動かす訓練が始まる。

 

試験終了後。

 

第三班の五人はシミュレーター棟を出た。

 

夕暮れの空が、格納庫の屋根を赤く染めている。

 

朝倉は大きく伸びをした。

 

「やっと歩けるようになったな。」

 

迅は笑って首を振る。

 

「やっと入口だ。」

 

「厳しいな、お前。」

 

「板垣教官なら、そう言うだろ。」

 

九条も静かに頷いた。

 

「その通りだ。」

 

結城は格納庫を見上げ、小さく笑う。

 

「でも。」

 

「少しだけ近付けた気がします。」

 

真壁も珍しく口元を緩めた。

 

「ああ。」

 

五人は肩を並べ、歩幅を合わせて歩き出した。

 

その進む先には、巨大な格納庫が静かに佇んでいる。

 

あの扉の向こうには、白き武御雷。

 

入学した日。

 

ただ見上げることしかできなかった機体。

 

今もまだ乗ることは許されない。

 

それでも、五人の歩みは確かにあの白き巨人へ続いていた。

 

教官室の窓から、その背中を板垣が見つめていた。

 

記録表を閉じる。

 

小さく息を吐く。

 

「……悪くない。」

 

その声を聞いた者はいない。

 

格納庫の奥で、白き武御雷は夕日に照らされながら静かに立っていた。

 

未来の衛士たちを待つように。

 

彼らは、まだ歩けるだけだった。

 

だが、その百歩は確かに衛士への百歩だった。

 

 

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