TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第四章 刃を執る者 第34話 託す者

整備実習棟。

 

武御雷の脚部が整備架台へ固定され、数人の整備科学生が工具を手に作業を進めていた。

 

金属を叩く音。

 

トルクレンチの乾いた音。

 

油の匂い。

 

神谷は長刀を両手で持ち、整備台へ静かに置いた。

 

「刃先に傷がある。」

 

教官が手袋をはめながら言う。

 

「昨日の訓練ですね。」

 

「そうだ。」

 

教官は刃を指でなぞる。

 

「この程度なら研磨で済む。」

 

神谷は傷を見つめた。

 

ほんの数ミリ。

 

だが、教官は見逃さない。

 

「神谷。」

 

「はい。」

 

「衛士は、この傷に気付くと思うか。」

 

神谷は少し考えた。

 

「……気付かないと思います。」

 

教官は静かに頷く。

 

「その通りだ。」

 

「だから整備士が気付く。」

 

作業台へ長刀が固定される。

 

教官は砥石を当てながら続けた。

 

「衛士は命を預ける。」

 

「整備士は、その命を預かる。」

 

神谷は黙って聞いていた。

 

教官は作業の手を止めない。

 

「戦場では、一ミリの傷が命を奪うこともある。」

 

「だから。」

 

「一ミリを笑う整備士は、一人前ではない。」

 

神谷は深く頷いた。

 

「はい。」

 

その日の午後。

 

整備科はシミュレーター棟で訓練を見学していた。

 

第三班が長刀を構える。

 

武田。

 

九条。

 

朝倉。

 

真壁。

 

結城。

 

五人とも真剣な表情だった。

 

朝倉が勢いよく長刀を振る。

 

「違う。」

 

富田の声が響く。

 

「力で振るな。」

 

朝倉は照れくさそうに頭をかく。

 

武田も何度も構えを修正されていた。

 

神谷は、その姿を静かに見つめる。

 

(みんな、頑張ってるな。)

 

隣にいた整備科の同期が話しかける。

 

「衛士って大変だな。」

 

神谷は小さく笑う。

 

「俺たちも同じだよ。」

 

「え?」

 

「俺たちが整備した機体に、あいつらは命を預ける。」

 

「だから失敗できない。」

 

同期は黙り込んだ。

 

神谷は演習場を見つめる。

 

武田が何度も長刀を構え直している。

 

九条は静かに反復し続ける。

 

朝倉は転びそうになりながらも食らいついていた。

 

「俺も負けてられないな。」

 

その夜。

 

実習棟には、まだ灯りがついていた。

 

神谷は一人、長刀の整備記録を見直している。

 

刃の状態。

 

固定部の緩み。

 

重量測定。

 

一つひとつ確認し、丁寧に記録していく。

 

実習棟へ教官が戻ってきた。

 

「まだ帰らんのか。」

 

「もう少しだけ。」

 

教官は神谷の記録を見て、小さく頷く。

 

「神谷。」

 

「はい。」

 

「衛士は、自分の腕を信じる。」

 

「整備士は、道具を信じる。」

 

少し間を置く。

 

「だが、本当に信じるべきものは違う。」

 

神谷は顔を上げた。

 

教官は静かに長刀へ視線を向ける。

 

「人だ。」

 

「お前が整備した長刀を握る衛士を信じろ。」

 

「その衛士も、お前を信じて戦う。」

 

神谷はゆっくりと長刀へ手を添えた。

 

冷たい鋼の感触が掌へ伝わる。

 

武田たちは戦う者。

 

自分は支える者。

 

役目は違う。

 

だが、目指す場所は同じだった。

 

神谷は整備記録を閉じる。

 

「明日も頼むぞ。」

 

誰に言ったのか、自分でも分からなかった。

 

それでも、その言葉は確かに、明日この長刀を握る仲間たちへ向けたものだった。

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