TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
午後のシミュレーター棟。
学生たちの武御雷には、訓練用長刀が装備されていた。
腰に一本。
それだけで昨日までとは機体の印象が違う。
「本日の課目を告げる。」
板垣の声が静かに響く。
「班連携訓練。」
演習場のモニターに地形図が映し出される。
平坦な演習場。
中央には青い光点が一つ。
その周囲を五つの赤い光点が取り囲んでいた。
「中央の目標を護衛しろ。」
「敵役機は教官用プログラムを使用する。」
学生たちが息を呑む。
教官用プログラム。
候補生用とは比較にならない性能を持つ訓練AIだ。
朝倉が小さく呟く。
「勝てるのか……。」
板垣は即座に答えた。
「勝つ必要はない。」
「護れ。」
その一言で、演習場の空気が変わった。
《訓練開始》
第三班の五機がゆっくり展開する。
中央には補給車両を模した目標。
九条が通信を開く。
「武田、前方。」
「真壁、右。」
「結城、左。」
「朝倉、後方。」
「了解。」
四人が散開する。
その瞬間だった。
《敵機接近》
白い訓練機が高速で接近する。
「速い!」
朝倉が叫ぶ。
敵は武田の正面を無視し、一気に中央へ向かった。
「止める!」
武田が長刀を抜く。
しかし。
間に合わない。
《目標撃破》
電子音が響く。
訓練終了。
朝倉が悔しそうに操縦桿を叩く。
「何だよ、今の!」
板垣は学生たちを見渡す。
「なぜ負けた。」
誰も答えられない。
九条が口を開く。
「敵を止めようとしました。」
「そうだ。」
板垣は頷いた。
「だから負けた。」
学生たちは顔を上げる。
「お前たちは敵を見た。」
「護るべきものを見ていない。」
沈黙が流れる。
「もう一度。」
《訓練開始》
今度は武田が目標の前へ出る。
敵が接近する。
武田は飛び出そうとした。
その時。
九条の声が響く。
「出るな。」
「え?」
「武田。」
「そこを動くな。」
武田は踏みとどまる。
敵は武田を避けようと進路を変える。
その瞬間。
真壁が右から間合いを詰める。
結城が左を塞ぐ。
朝倉が後方へ回り込む。
敵の進路が狭まる。
九条が静かに命じる。
「今だ。」
武田が長刀を振るう。
訓練機はわずかに後退した。
《目標防衛成功》
電子音が鳴る。
五人は顔を見合わせた。
「やった!」
朝倉が思わず叫ぶ。
九条は小さく息を吐いた。
「……ぎりぎりだった。」
訓練終了後。
板垣は五人の前へ立つ。
「武田。」
「はい。」
「なぜ二回目は成功した。」
武田は少し考える。
「敵を追わなかったからです。」
「そうだ。」
板垣は全員を見渡す。
「刀は敵を倒すためだけに振るうものではない。」
「敵を寄せ付けないために振るうものだ。」
その言葉に、富田の授業が重なる。
『刀は護るためにある。』
武田はようやく、その意味を少しだけ理解した気がした。
板垣は最後に静かに告げる。
「今日、お前たちは初めて五機で戦った。」
「覚えておけ。」
「一人の技量より。」
「五人の連携の方が強い。」
夕暮れの演習場。
第三班の五人は並んで歩いていた。
朝倉が笑う。
「結局、俺、一回も敵を斬ってないな。」
真壁が肩をすくめる。
「だが、護れた。」
結城も頷く。
「それで十分だったんですね。」
武田は腰の長刀へ目を向ける。
敵を斬るための刃ではない。
仲間を護るための刃。
富田と板垣。
二人の教官の教えが、ようやく一本につながった気がした。