TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第四章 刃を執る者 第36話 刃を執る者

朝の武道場。

 

床板の上を吹き抜ける風だけが静かに音を立てていた。

 

第三班をはじめとする学生たちは、一列に並び木刀を構えている。

 

富田はゆっくりとその前を歩く。

 

木刀を握る手。

 

足の位置。

 

呼吸。

 

視線。

 

一人ひとりを確かめるように見て回る。

 

誰にも声は掛けない。

 

武田の額から汗が落ちる。

 

構えているだけなのに、腕は鉛のように重い。

 

朝倉も歯を食いしばっていた。

 

「まだ動くな。」

 

富田の一言で、全員がさらに力を込める。

 

静かな時間だけが流れていく。

 

やがて富田が歩みを止めた。

 

「納刀。」

 

学生たちは一斉に木刀を下ろす。

 

朝倉が思わず息を吐いた。

 

「今日はここまでだ。」

 

その言葉に、学生たちは顔を見合わせる。

 

振ることもなく終わる。

 

そんな授業だった。

 

富田は武道場の中央へ立つ。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「刀は何のために抜く。」

 

武田はしばらく考えた。

 

これまでなら。

 

敵を斬るため。

 

そう答えていただろう。

 

だが、今は違う。

 

「護るためです。」

 

富田は静かに頷く。

 

「朝倉。」

 

「はい!」

 

「お前は。」

 

朝倉は照れくさそうに頭をかいた。

 

「仲間を護るため……です。」

 

「真壁。」

 

「任務を果たすためです。」

 

「結城。」

 

「生きて帰るためです。」

 

富田は結城を見つめた。

 

「生きて帰る。」

 

「はい。」

 

「自分だけじゃありません。」

 

「班のみんなと一緒にです。」

 

富田は小さく頷いた。

 

最後に九条へ視線を向ける。

 

「九条。」

 

「帝国を護るためです。」

 

富田は目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。

 

「答えは一つではない。」

 

学生たちが耳を傾ける。

 

「だが、一つだけ忘れるな。」

 

富田は木刀を正眼に構えた。

 

「刀は。」

 

「怒りで抜くな。」

 

「憎しみで抜くな。」

 

武道場の空気が張り詰める。

 

「護るべきもののために抜け。」

 

「それができる者だけが。」

 

「最後まで刀を握ることができる。」

 

武田は木刀を見つめた。

 

ただの木だった。

 

しかし、その重さは昨日までとは違って感じられる。

 

授業が終わる。

 

学生たちが武道場を後にする。

 

朝倉が大きく伸びをした。

 

「なんかさ。」

 

「刀って怖いな。」

 

武田は苦笑した。

 

「ああ。」

 

「でも。」

 

「だからこそ持つ意味があるんだろ。」

 

九条も静かに頷いた。

 

「私たちは、まだその意味を学んでいる途中だ。」

 

五人は並んで歩き出す。

 

その後ろ姿を、富田と板垣が武道場の縁側から見送っていた。

 

板垣が口を開く。

 

「どう見ますか。」

 

富田は少し考えた。

 

「まだ未熟だ。」

 

「ええ。」

 

「だが。」

 

富田は第三班の笑い声へ耳を傾ける。

 

「刀に振られなくなった。」

 

板垣は静かに頷く。

 

「次は、機体があいつらを試します。」

 

富田は小さく笑った。

 

「ああ。」

 

「速さは人を焦らせる。」

 

「だからこそ。」

 

「心が試される。」

 

板垣は武道場を見渡した。

 

「焦るな。」

 

それは学生たちへ何度も掛けてきた言葉だった。

 

富田はその言葉を聞き、小さく頷く。

 

「良い教えだ。」

 

初夏の風が武道場を吹き抜ける。

 

遠くから聞こえる第三班の笑い声は、少しだけ昨日より頼もしく聞こえた。

 

富田はその背中を見送り、小さくつぶやく。

 

「悪くない。」

 

その言葉を聞いた者はいない。

 

だが、その一言は確かに、学生たちが「刃を執る者」として一歩前へ進んだ証だった。

 

――第四章 了

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