TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第五章 疾風 第38話 止まる勇気

 

六月下旬。

 

学生たちの間には、朝からどこか落ち着かない空気が流れていた。

 

「今日らしいぞ。」

 

朝倉が小声で武田へ話しかける。

 

「何が?」

 

「跳躍ユニットだよ。」

 

武田は思わず笑う。

 

「また噂か。」

 

「いや、今度は確実だ。」

 

その時、九条が二人の横を通り過ぎる。

 

「私語はそこまでだ。」

 

「板垣教官が来る。」

 

二人は慌てて姿勢を正した。

 

シミュレーター室へ入ると、板垣は演習区域ではなく、武御雷の立体図を映していた。

 

背部に装備された二基の跳躍ユニット。

 

推進ノズルがゆっくりと回転している。

 

板垣が静かに口を開く。

 

「本日の課目。」

 

「跳躍。」

 

学生たちの表情が引き締まる。

 

朝倉だけは少し嬉しそうだった。

 

「ついに……。」

 

板垣は朝倉を見た。

 

「浮かれるな。」

 

「はい。」

 

「跳ぶことは難しくない。」

 

学生たちは顔を上げる。

 

「難しいのは。」

 

少し間を置く。

 

「着地だ。」

 

《訓練開始》

 

武御雷の背部ユニットが唸りを上げる。

 

武田は操縦桿を握る手に力が入った。

 

「出力二〇パーセント。」

 

「跳べ。」

 

九条が最初に動く。

 

武御雷がゆっくり地面を離れる。

 

一メートル。

 

二メートル。

 

三メートル。

 

そして静かに着地した。

 

《着地誤差 一・二メートル》

 

板垣は何も言わない。

 

次は朝倉。

 

「行くぞ!」

 

推進器が一気に噴射する。

 

「うおおお!」

 

武御雷は予想以上に高く跳び上がった。

 

「高っ!」

 

次の瞬間。

 

ドンッ!

 

着地の衝撃で脚部が大きく沈み込み、機体は前方へ転倒した。

 

《脚部損傷・戦闘不能》

 

朝倉は頭を抱えた。

 

「またかぁ!」

 

演習室に笑いが広がる。

 

板垣は静かに記録を付ける。

 

「実戦なら。」

 

「終了だ。」

 

朝倉は苦笑いを浮かべながら敬礼した。

 

「はい……。」

 

真壁は慎重に跳ぶ。

 

高さは十分。

 

しかし着地を恐れ、減速しすぎる。

 

武御雷は後ろへ尻もちをついた。

 

結城は空中で姿勢を乱し、横向きに着地する。

 

武田の番になった。

 

深呼吸。

 

推進器を起動する。

 

機体がゆっくり浮き上がる。

 

(高い……。)

 

景色が一気に広がる。

 

演習場全体が見渡せた。

 

「着地。」

 

武田は慌てて姿勢を整える。

 

衝撃。

 

ドンッ。

 

武御雷は何とか立っていた。

 

《着地成功》

 

《姿勢誤差 大》

 

武田は大きく息を吐いた。

 

「立ってる……。」

 

板垣が静かに言う。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「跳躍は五十点。」

 

「着地は三十点。」

 

武田は苦笑した。

 

「まだまだですね。」

 

「そうだ。」

 

板垣は学生全員を見渡す。

 

「覚えておけ。」

 

「跳躍は技術だ。」

 

「着地は技量だ。」

 

誰も言葉を発しない。

 

「空にいる間。」

 

「お前たちは何もできない。」

 

「戦えるのは。」

 

「地に足を着けた瞬間だけだ。」

 

その言葉が武田の胸に残る。

 

訓練終了後。

 

格納庫へ向かう途中、朝倉が肩を落として歩いていた。

 

「また戦闘不能か……。」

 

武田が笑う。

 

「でも、一番高く跳んでた。」

 

「慰めになってねぇ。」

 

五人が笑う。

 

その様子を少し離れた場所から、一ノ瀬が見ていた。

 

九条が気付き、小さく会釈する。

 

一ノ瀬も軽く頷き返した。

 

ライバル同士。

 

言葉はなくても、お互いの成長は見えていた。

 

夕暮れの格納庫。

 

白い武御雷は静かに並んでいる。

 

武田はその姿を見つめながら思った。

 

「飛ぶことはできた。」

 

「でも、まだ自由には飛べない。」

 

衛士への道は、まだ続いている。

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