TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第一部 蒼き日々 第五章 疾風 第42話 空を預ける

 

梅雨入りを間近に控えた朝。

 

演習場には湿った風が吹いていた。

 

第三班の五人はシミュレーター室へ集まる。

 

昨日の跳躍訓練の疲れが、まだ身体に残っていた。

 

朝倉が首を回しながら苦笑する。

 

「飛ぶだけで全身筋肉痛だ。」

 

「着地で力みすぎだ。」

 

真壁が淡々と答える。

 

「分かってるけどよ……。」

 

武田は二人のやり取りを聞きながら、昨日の跳躍を思い返していた。

 

飛ぶことはできた。

 

だが、自由には飛べなかった。

 

板垣の言葉が頭に残っている。

 

――空にいる間、お前たちは何もできない。

 

その意味を、まだ理解しきれていなかった。

 

シミュレーター室へ入ると、板垣が演習区域を表示した。

 

そこには大小さまざまな岩や段差が並び、中央には深い溝が一本走っている。

 

「本日の課目。」

 

板垣が静かに告げる。

 

「障害飛越。」

 

「班単位で実施する。」

 

朝倉が目を輝かせる。

 

「やっと実戦っぽくなってきた!」

 

板垣は朝倉を一瞥する。

 

「違う。」

 

「まだ遊びだ。」

 

室内に小さな笑いが起こる。

 

朝倉は頭をかきながら苦笑した。

 

「はい……。」

 

《訓練開始》

 

九条を先頭に第三班が前進する。

 

最初の障害は幅五メートルの溝だった。

 

「一機ずつ跳ぶ。」

 

九条の指示。

 

「了解。」

 

武田が先頭へ出る。

 

推進器噴射。

 

武御雷が宙へ浮かぶ。

 

着地。

 

成功。

 

続いて真壁。

 

結城。

 

九条。

 

全員が安定した着地を見せる。

 

最後は朝倉。

 

「見てろよ!」

 

推進器を一気に吹かす。

 

武御雷は勢いよく跳び上がった。

 

「高ぇ!」

 

次の瞬間。

 

ドォン!

 

大きな音を立てて着地する。

 

土煙が舞い上がり、演習場を覆った。

 

朝倉は得意げに笑う。

 

「どうだ!」

 

板垣が静かに言う。

 

「死んだ。」

 

朝倉の笑顔が止まる。

 

「え?」

 

「着地音。」

 

「砂煙。」

 

「敵へ位置を知らせた。」

 

板垣はそれだけ言った。

 

「実戦なら最初に狙われる。」

 

朝倉は俯いた。

 

「……はい。」

 

板垣は演習区域を切り替える。

 

「次。」

 

「五機同時跳躍。」

 

五人は顔を見合わせた。

 

「一斉に?」

 

武田がつぶやく。

 

九条は短く頷いた。

 

「やるぞ。」

 

五機が横一列に並ぶ。

 

「三。」

 

「二。」

 

「一。」

 

「跳べ。」

 

五機が同時に空へ舞う。

 

しかし。

 

高さが揃わない。

 

武田は高すぎる。

 

朝倉は前へ飛び過ぎる。

 

結城は着地が遅れる。

 

隊形は大きく崩れた。

 

《課目失敗》

 

九条は静かに息を吐く。

 

「もう一度だ。」

 

その時だった。

 

演習室後方の扉が開く。

 

富田が静かに入ってくる。

 

板垣は軽く会釈する。

 

富田は学生たちを見つめたまま口を開いた。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「空では誰も助けられん。」

 

武田は首を傾げる。

 

「だから。」

 

富田は続けた。

 

「跳ぶ前に助けろ。」

 

それだけ言うと、壁際へ下がった。

 

武田には意味が分からない。

 

だが九条は考え込んでいた。

 

数分後。

 

九条が通信を開く。

 

「作戦を変える。」

 

四人が返事をする。

 

「跳ぶ前に間隔を合わせる。」

 

「着地位置も決める。」

 

「空では修正しない。」

 

「地上で全て終わらせる。」

 

「了解。」

 

五機は再び並ぶ。

 

歩幅を合わせる。

 

速度を合わせる。

 

呼吸を合わせる。

 

九条が静かに数える。

 

「三。」

 

「二。」

 

「一。」

 

「跳べ。」

 

五機が同時に空へ舞う。

 

高さが揃う。

 

姿勢も揃う。

 

着地点もほぼ同じ。

 

ドン――。

 

五機は一斉に着地した。

 

砂煙は最小限。

 

隊形も崩れない。

 

《課目達成》

 

朝倉が拳を握る。

 

「やった!」

 

武田も思わず笑みを浮かべた。

 

板垣は静かに五機を見渡す。

 

「悪くない。」

 

その一言に、五人の表情が明るくなる。

 

訓練終了後。

 

格納庫へ向かう道。

 

武田がぽつりとつぶやく。

 

「空では誰も助けられない……。」

 

九条が頷く。

 

「ああ。」

 

「だから。」

 

「地上で助ける。」

 

真壁が続ける。

 

「跳ぶ前に決める。」

 

結城も笑う。

 

「空で迷ったら、もう遅いですから。」

 

朝倉は頭をかきながら笑った。

 

「また一つ勉強になったな。」

 

五人は並んで歩いていく。

 

その背中を、少し離れた場所から板垣と富田が見つめていた。

 

「どう見ます。」

 

板垣が尋ねる。

 

富田は静かに答えた。

 

「ようやく。」

 

少し間を置く。

 

「五人で飛んだ。」

 

板垣は小さく頷く。

 

「あとは。」

 

「地に足を着けたまま、空のように動ければいい。」

 

初夏の風が演習場を吹き抜ける。

 

第三班はまた一つ、衛士への階段を上っていた。

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