TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
朝の点呼を終えた学生たちは、いつものシミュレーター棟ではなく、実機演習格納庫前へ整列していた。
第三班の隣には、第一班の姿もある。
「合同訓練か。」
武田が小さくつぶやく。
朝倉は少し嬉しそうに笑った。
「一ノ瀬たちと一緒なんて初めてだな。」
九条は静かに前を見据えた。
「班同士で競うためじゃない。」
「互いに学ぶためだ。」
武田も小さく頷く。
やがて板垣が前へ出た。
「本日は第一班、第三班による合同機動訓練を実施する。」
学生たちの表情が引き締まる。
「課目は着地。」
朝倉が首を傾げた。
「昨日もやりましたよ?」
板垣は静かに答える。
「昨日は、跳ぶことを学んだ。」
「今日は、その先だ。」
演習場のモニターへ地形図が映し出される。
谷を越えた先には、瓦礫や障害物が点在する市街地訓練区域。
「着地後三秒以内に隊形を整えろ。」
「四秒目には敵が来る。」
静かな声だった。
しかし、その一言で演習室の空気が変わる。
《訓練開始》
最初は第一班。
一ノ瀬の号令が響く。
「跳躍。」
五機が同時に宙へ舞う。
高さも速度も揃っている。
着地。
一秒。
二秒。
三秒。
五機は無駄なく扇形の隊形を作り上げた。
朝倉が思わず息を漏らす。
「速ぇ……。」
武田も目を奪われる。
着地した瞬間には、もう次の動きへ移っていた。
板垣は短く告げた。
「合格。」
続いて第三班。
九条が通信を開く。
「昨日と同じだ。」
「落ち着いていこう。」
「了解!」
朝倉が元気よく返事をする。
「三。」
「二。」
「一。」
「跳躍。」
五機が空へ舞う。
昨日より高さも揃っている。
着地。
武田は長刀へ手を掛ける。
真壁が右翼へ展開する。
結城が左翼を支える。
朝倉は後方へ回る。
だが、武田の初動がわずかに遅れた。
《三・八秒》
《課目未達成》
訓練終了。
武田は悔しそうに操縦桿を握った。
「あと少しだった……。」
コックピットを降りると、一ノ瀬が静かに歩み寄ってきた。
「惜しかったですね。」
武田は少し驚く。
「見てたのか。」
「ええ。」
一ノ瀬は穏やかに頷いた。
「着地はとても良くなっていました。」
少し間を置く。
「でも。」
「着地したことで安心してしまいましたね。」
武田は何も言えなかった。
その通りだった。
一ノ瀬は演習場を見つめたまま続ける。
「着地は終わりではありません。」
「そこから戦いが始まるんです。」
そう言って軽く会釈すると、第一班のもとへ戻っていった。
武田はその背中を見送る。
悔しい。
それでも、不思議と前を向くことができた。
追いつきたい。
その思いは、また一つ強くなっていた。
午後。
合同訓練は続く。
第一班と第三班は交互に演習を繰り返した。
互いの動きを見て、学び、修正する。
九条は第一班の隊形移行を観察し、自分たちの動きへ取り入れる。
一ノ瀬も第三班の跳躍の間合いを見ながら、班員へ静かに助言していた。
競い合う。
だが、それ以上に学び合う。
それが今日の合同訓練だった。
訓練終了後。
板垣が学生たちを前へ集める。
「覚えておけ。」
全員が姿勢を正す。
「着地は目的ではない。」
「戦うための準備だ。」
少し間を置く。
「着地した瞬間から。」
「お前たちは、もう戦場にいる。」
誰も声を発しない。
その言葉を胸へ刻み込む。
夕暮れ。
武田と一ノ瀬は格納庫を出るタイミングが重なった。
武田が声を掛ける。
「今日はありがとうございました。」
一ノ瀬は少しだけ微笑む。
「お礼を言われることはしていません。」
「私も、第三班から学ぶことがありましたから。」
武田は少し照れくさそうに笑った。
「次は負けません。」
一ノ瀬は静かに頷く。
「ええ。」
「私も負けるつもりはありません。」
二人は互いに敬礼を交わし、それぞれの班へ戻っていく。
その様子を見ていた九条が小さく笑った。
「いいライバルだ。」
武田も笑顔で頷く。
「ああ。」
「だから、もっと強くなれる。」
夕日に照らされた二つの班の背中は、昨日より少しだけ近く見えた。