TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
コックピットの中は静かだった。
武田は操縦桿を握る手に力を込める。
《実戦戦術シミュレーター 起動》
《戦域データ読込完了》
《敵性データ反映完了》
無機質な音声だけが耳に響く。
深呼吸を一つ。
鼓動が少し速い。
通信回線が開いた。
「第三班、応答。」
九条の落ち着いた声だった。
「武田、異常なし。」
「朝倉、異常なし!」
「真壁、異常なし。」
「結城、異常ありません。」
全員の返答を確認すると、九条は短く続ける。
「目的を忘れるな。」
「五分間、生き残る。」
「了解。」
武田は復唱した。
敵を倒すことではない。
生き残ること。
板垣がそう言った。
それだけのことなのに、今までの訓練とは重みが違って聞こえた。
視界が切り替わる。
荒野。
崩れた高架橋。
焼け焦げた車両。
風が砂埃を巻き上げていた。
あまりにも静かだった。
朝倉が通信で呟く。
「……何もいないな。」
武田も同じことを思った。
結城がセンサーを確認する。
「反応なし。」
真壁が周囲を見回す。
「静かすぎる。」
九条は歩を止めなかった。
「警戒を維持。」
五機はゆっくりと前進する。
武御雷の足音だけが荒野へ響いた。
一歩。
また一歩。
時間だけが過ぎていく。
武田は時計を見る。
開始から三十秒。
何も起こらない。
「本当にいるのか……。」
その瞬間だった。
「反応!」
結城の声が鋭く響く。
全員が身構える。
「前方!」
武田は長刀へ手を掛ける。
しかし。
何も見えない。
「どこだ?」
朝倉が叫ぶ。
結城が首を振る。
「違います!」
「前じゃない!」
「地下です!」
直後。
大地が揺れた。
轟音。
土砂が噴き上がる。
武田の目の前で地面が裂けた。
「うわっ!」
土煙の中から、黒い影が一斉に現れる。
戦車級。
一体ではない。
十。
二十。
さらに後ろから次々と這い出してくる。
叫び声はない。
唸り声もない。
ただ、一直線にこちらへ向かってくる。
その無音が、武田の背筋を凍らせた。
「迎撃!」
九条の号令。
武御雷が一斉に抜刀する。
「武田、左!」
「了解!」
最前列の戦車級へ長刀を振り下ろす。
硬い感触。
一体目を切り裂く。
「やれる!」
朝倉の声が弾んだ。
二体目。
三体目。
第三班は隊形を維持しながら戦車級を迎え撃つ。
「右良し!」
「左クリア!」
結城の報告も落ち着いている。
武田は一瞬だけ安堵した。
(思ったより……。)
その考えを、真壁の声が断ち切る。
「武田!」
「何だ!」
「まだ来る。」
武田が視線を上げる。
土煙の向こう。
さらに大きな影が三つ。
地面を抉りながら一直線に迫ってくる。
「突撃級!」
結城の声が震えた。
九条が即座に命令する。
「散開!」
「正面を空けるな!」
第三班は左右へ展開する。
突撃級が中央を駆け抜ける。
地面が揺れる。
武田は紙一重でかわした。
「速い……!」
朝倉が振り返る。
「武田!」
「大丈夫だ!」
だが、その瞬間。
結城が息を呑んだ。
「新たな反応!」
「後方!」
「要撃級!」
誰もその姿を見ていなかった。
戦車級と突撃級に意識を奪われていた。
武田が振り返る。
そこには、長い腕を振り上げた要撃級がいた。
距離が近すぎる。
避けられない。
武田の身体が強張る。
動けない。
「武田!」
朝倉の叫び。
次の瞬間。
武田の武御雷が横から強く突き飛ばされた。
視界が回転する。
「朝倉!」
武田が叫ぶ。
朝倉の機体が、自分のいた場所へ滑り込んでいた。
要撃級の腕が振り下ろされる。
激しい衝撃音。
画面の端で朝倉の武御雷が吹き飛ぶ。
通信が乱れた。
『ぐっ……!』
朝倉の声。
そして。
《朝倉候補生 戦死判定》
赤い文字が、静かに表示された。
武田の思考が止まる。
朝倉が。
今。
目の前で――。
「武田!」
九条の声が飛ぶ。
「戻れ!」
しかし武田の耳には届いていなかった。
朝倉を助けなければ。
その思いだけで操縦桿を握り直す。
武御雷が一歩踏み出した。
その瞬間――。
真壁の悲鳴にも似た声が通信へ響く。
「武田! 行くな!!」