TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
翌朝。
まだ夜明け前の校庭には、薄い霧が立ち込めていた。
武田は一人、訓練場の隅で木刀を振っていた。
「九十八。」
汗が額を伝う。
「九十九。」
呼吸を整える。
「百。」
最後の一振りを終えると、木刀をゆっくり下ろした。
富田との約束だった。
素振り百本。
たったそれだけのことだったが、不思議と心は昨日より落ち着いていた。
「朝から熱心だな。」
振り返ると、朝倉が立っていた。
両手をポケットに突っ込み、眠そうな顔をしている。
「起きたのか。」
「お前がうるさいからな。」
朝倉は笑う。
昨日までの沈んだ表情は少しだけ消えていた。
「教官にしごかれたんだろ?」
「百本だけだ。」
「百本を『だけ』って言う奴はいない。」
二人は思わず笑った。
その笑い声を聞きつけたように、真壁と結城も姿を見せる。
「もう始めてたのか。」
「武田さんらしいですね。」
最後に九条が歩いてきた。
五人が自然と並ぶ。
誰かが集めたわけではない。
昨日までなら偶然だったかもしれない。
しかし今日は違った。
誰もが同じ場所へ足を運んでいた。
「行こう。」
九条の一言で、五人は校舎へ向かった。
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シミュレーター室。
板垣はすでに待っていた。
教壇の上には、昨日と同じ資料が並んでいる。
しかし今日は、何も説明しなかった。
学生たちが整列すると、板垣はただ一枚の映像を映し出した。
昨日の戦闘記録だった。
朝倉が武田を突き飛ばす。
武田が戻ろうとする。
隊形が崩れる。
そして全滅。
誰も画面から目を逸らさない。
板垣は静かに言った。
「昨日の敗因は何だ。」
教室は静まり返る。
しばらくして、九条が一歩前へ出た。
「班長である私の指揮不足です。」
板垣は首を横に振る。
「違う。」
今度は朝倉が口を開いた。
「俺が前へ出すぎました。」
「違う。」
武田は拳を握る。
「俺が命令を守れませんでした。」
板垣は武田を見る。
「半分だけ正しい。」
教室の空気が張り詰める。
板垣は戦闘記録を停止した。
映像には、第三班がまだ綺麗な隊形を保っている場面が映っている。
「ここで、お前たちは何を見ていた。」
誰も答えられない。
板垣が続ける。
「敵だ。」
「全員、敵しか見ていなかった。」
モニターを操作する。
今度は頭上から見た戦場が映る。
第三班の動きが一目で分かった。
「武田は朝倉を見ていた。」
「朝倉は武田を見ていた。」
「結城は敵影だけを追っていた。」
「真壁は地形を見ていた。」
「九条は全員を見ようとしていた。」
板垣はそこで一度言葉を切る。
「だが。」
教室が静まり返る。
「誰一人、『班』を見ていなかった。」
武田は息を呑んだ。
班を見る。
その意味が、まだ分からない。
「班とは。」
板垣はモニターを消した。
「五人で一つだ。」
「敵を見る者。」
「味方を見る者。」
「地形を見る者。」
「時間を見る者。」
「全員が同じものを見る必要はない。」
「違うものを見るから、班になる。」
その言葉は、武田の胸へ深く刻まれた。
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午後。
再び実戦戦術シミュレーターが起動する。
《課題》
五分間生存
昨日と同じ文字。
だが、第三班の空気は違っていた。
九条が通信を開く。
「昨日と同じ戦いはしない。」
「真壁。」
「地形警戒を任せる。」
「了解。」
「結城。」
「敵数の報告を優先。」
「はい。」
「朝倉。」
朝倉は笑う。
「今日は飛び出さねぇよ。」
「頼む。」
「武田。」
「はい。」
九条は武田を見た。
「私を見ろ。」
武田は驚く。
「班長を……ですか?」
「違う。」
九条は静かに笑った。
「班を見ろ。」
その一言で、武田の視界が少し変わった気がした。
敵だけではない。
朝倉がどこにいる。
真壁は何を見ている。
結城はどこを警戒している。
九条は何を判断しようとしている。
五人は別々に動いている。
しかし、一つの意思で繋がっている。
《MISSION START》
昨日と同じ荒野。
昨日と同じ風。
昨日と同じ静けさ。
だが、第三班だけが違っていた。
武田は操縦桿を握り直す。
昨日より少しだけ強く。
そして少しだけ、視野を広く。
「第三班。」
九条の落ち着いた声が響く。
「行くぞ。」
五機の武御雷が、再び戦場へ踏み出した。