TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第57話 笑顔

 

七月も半ばを迎えた。

 

第一小隊としての訓練は続いていた。

 

朝の教室。

 

武田が席に着くと、朝倉が窓の外を眺めながら呟いた。

 

「黒木班長ってさ。」

 

「いつもあんなに元気だけど、緊張しないのかな。」

 

真壁が肩をすくめる。

 

「してないんじゃないか。」

 

「いや、あれは才能だろ。」

 

そこへ、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「おっはよー!」

 

黒木理沙だった。

 

いつものように明るい声が教室へ響く。

 

「今日は何も落とさないから!」

 

朝倉が吹き出す。

 

「昨日も聞いたぞ。」

 

「今日は本当!」

 

理沙は笑いながら自分の席へ向かう。

 

その途中、机の脚に足を引っかけ、小さくよろけた。

 

「危なっ。」

 

教室に笑い声が広がる。

 

理沙も照れくさそうに笑った。

 

その様子を見ていた武田の口元も、少しだけ緩んだ。

 

 

午前の訓練。

 

「本日の課目。」

 

板垣が大型モニターを表示する。

 

市街地の中央には、一機の味方機が停止していた。

 

「味方機護衛。」

 

「敵の攻撃から守り、指定地点まで誘導しろ。」

 

「開始。」

 

 

《シミュレーション開始》

 

第四班は味方機の左側を担当していた。

 

「第四班。」

 

「焦らなくていいよ。」

 

「味方機を見失わないで。」

 

「了解。」

 

理沙の声はいつもどおり明るい。

 

班員たちの返事にも硬さはなかった。

 

武田たち第三班は少し後方から全体を警戒する。

 

通信には各班の状況が次々と流れていた。

 

「第一班、交差点を通過。」

 

「第二班、右側クリア。」

 

その直後だった。

 

「敵影!」

 

第四班の通信が一瞬だけ慌ただしくなる。

 

建物の陰から現れた敵機が、味方機へ接近していた。

 

一人の班員が対応に遅れる。

 

「班長!」

 

理沙は迷わなかった。

 

「第四班、防御!」

 

四機が一斉に動く。

 

敵機と味方機の間へ割って入り、進路を塞ぐ。

 

その間に遅れていた班員も隊形へ戻った。

 

「左から回る!」

 

「了解!」

 

数秒後、敵機は撃破される。

 

味方機も無事だった。

 

《課目終了》

 

 

シミュレーター室へ戻ると、板垣が結果を確認していた。

 

「第四班。」

 

「はい!」

 

理沙が前へ出る。

 

「護衛は成功。」

 

一拍置く。

 

「だが、一機遅れた。」

 

理沙は静かに頷く。

 

「はい。」

 

板垣の視線が班員へ向くことはなかった。

 

「班長。」

 

「はい。」

 

「どう見る。」

 

理沙は少しだけ考えた。

 

「私の確認が足りませんでした。」

 

板垣は小さく頷く。

 

「そうか。」

 

それだけ言うと、次の結果へ目を移した。

 

 

休憩時間。

 

第四班の班員が理沙の前で頭を下げる。

 

「班長、すみませんでした。」

 

理沙は首を横に振る。

 

「謝るのはまだ早いよ。」

 

班員が顔を上げる。

 

「どうして遅れたか。」

 

「建物ばかり見ていて……味方機から目を離しました。」

 

理沙は笑顔で頷いた。

 

「分かったなら大丈夫。」

 

「次は同じ失敗をしなければいい。」

 

班員の表情から力が抜けた。

 

「はい!」

 

その返事は、訓練中よりも力強かった。

 

 

武田は給水機の前で、その様子を見ていた。

 

隣へ九条が立つ。

 

武田は小さく尋ねた。

 

「九条班長。」

 

「黒木班長は……怒らないんですね。」

 

九条は理沙たちへ視線を向けたまま答える。

 

「怒る必要がないからだ。」

 

武田は黙って続きを待つ。

 

「失敗したことは、本人が一番分かっている。」

 

少し間を置く。

 

「ああやって前を向かせるのも、班長の仕事だ。」

 

武田は理沙を見る。

 

班員たちはもう笑いながら話していた。

 

理沙も、その輪の中で笑っている。

 

だが、その笑顔は訓練前とは少し違って見えた。

 

武田は何も言わず、その光景を静かに見つめていた。

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