TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
七月も半ばを迎えた。
第一小隊としての訓練は続いていた。
朝の教室。
武田が席に着くと、朝倉が窓の外を眺めながら呟いた。
「黒木班長ってさ。」
「いつもあんなに元気だけど、緊張しないのかな。」
真壁が肩をすくめる。
「してないんじゃないか。」
「いや、あれは才能だろ。」
そこへ、教室の扉が勢いよく開いた。
「おっはよー!」
黒木理沙だった。
いつものように明るい声が教室へ響く。
「今日は何も落とさないから!」
朝倉が吹き出す。
「昨日も聞いたぞ。」
「今日は本当!」
理沙は笑いながら自分の席へ向かう。
その途中、机の脚に足を引っかけ、小さくよろけた。
「危なっ。」
教室に笑い声が広がる。
理沙も照れくさそうに笑った。
その様子を見ていた武田の口元も、少しだけ緩んだ。
◇
午前の訓練。
「本日の課目。」
板垣が大型モニターを表示する。
市街地の中央には、一機の味方機が停止していた。
「味方機護衛。」
「敵の攻撃から守り、指定地点まで誘導しろ。」
「開始。」
◇
《シミュレーション開始》
第四班は味方機の左側を担当していた。
「第四班。」
「焦らなくていいよ。」
「味方機を見失わないで。」
「了解。」
理沙の声はいつもどおり明るい。
班員たちの返事にも硬さはなかった。
武田たち第三班は少し後方から全体を警戒する。
通信には各班の状況が次々と流れていた。
「第一班、交差点を通過。」
「第二班、右側クリア。」
その直後だった。
「敵影!」
第四班の通信が一瞬だけ慌ただしくなる。
建物の陰から現れた敵機が、味方機へ接近していた。
一人の班員が対応に遅れる。
「班長!」
理沙は迷わなかった。
「第四班、防御!」
四機が一斉に動く。
敵機と味方機の間へ割って入り、進路を塞ぐ。
その間に遅れていた班員も隊形へ戻った。
「左から回る!」
「了解!」
数秒後、敵機は撃破される。
味方機も無事だった。
《課目終了》
◇
シミュレーター室へ戻ると、板垣が結果を確認していた。
「第四班。」
「はい!」
理沙が前へ出る。
「護衛は成功。」
一拍置く。
「だが、一機遅れた。」
理沙は静かに頷く。
「はい。」
板垣の視線が班員へ向くことはなかった。
「班長。」
「はい。」
「どう見る。」
理沙は少しだけ考えた。
「私の確認が足りませんでした。」
板垣は小さく頷く。
「そうか。」
それだけ言うと、次の結果へ目を移した。
◇
休憩時間。
第四班の班員が理沙の前で頭を下げる。
「班長、すみませんでした。」
理沙は首を横に振る。
「謝るのはまだ早いよ。」
班員が顔を上げる。
「どうして遅れたか。」
「建物ばかり見ていて……味方機から目を離しました。」
理沙は笑顔で頷いた。
「分かったなら大丈夫。」
「次は同じ失敗をしなければいい。」
班員の表情から力が抜けた。
「はい!」
その返事は、訓練中よりも力強かった。
◇
武田は給水機の前で、その様子を見ていた。
隣へ九条が立つ。
武田は小さく尋ねた。
「九条班長。」
「黒木班長は……怒らないんですね。」
九条は理沙たちへ視線を向けたまま答える。
「怒る必要がないからだ。」
武田は黙って続きを待つ。
「失敗したことは、本人が一番分かっている。」
少し間を置く。
「ああやって前を向かせるのも、班長の仕事だ。」
武田は理沙を見る。
班員たちはもう笑いながら話していた。
理沙も、その輪の中で笑っている。
だが、その笑顔は訓練前とは少し違って見えた。
武田は何も言わず、その光景を静かに見つめていた。