TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第57話 笑顔

 

七月も半ばを迎えた。

 

第一小隊としての訓練は続いていた。

 

朝の教室。

 

武田が席に着くと、朝倉が窓の外を眺めながら呟いた。

 

「黒木班長ってさ。」

 

「いつもあんなに元気だけど、緊張しないのかな。」

 

真壁が肩をすくめる。

 

「してないんじゃないか。」

 

「いや、あれは才能だろ。」

 

そこへ、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「おっはよー!」

 

黒木理沙だった。

 

いつものように明るい声が教室へ響く。

 

「今日は何も落とさないから!」

 

朝倉が吹き出す。

 

「昨日も聞いたぞ。」

 

「今日は本当!」

 

理沙は笑いながら自分の席へ向かう。

 

その途中、机の脚に足を引っかけ、小さくよろけた。

 

「危なっ。」

 

教室に笑い声が広がる。

 

理沙も照れくさそうに笑った。

 

その様子を見ていた武田の口元も、少しだけ緩んだ。

 

◇

 

午前の訓練。

 

「本日の課目。」

 

板垣が大型モニターを表示する。

 

市街地の中央には、一機の味方機が停止していた。

 

「味方機護衛。」

 

「敵の攻撃から守り、指定地点まで誘導しろ。」

 

「開始。」

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

第四班は味方機の左側を担当していた。

 

「第四班。」

 

「焦らなくていいよ。」

 

「味方機を見失わないで。」

 

「了解。」

 

理沙の声はいつもどおり明るい。

 

班員たちの返事にも硬さはなかった。

 

武田たち第三班は少し後方から全体を警戒する。

 

通信には各班の状況が次々と流れていた。

 

「第一班、交差点を通過。」

 

「第二班、右側クリア。」

 

その直後だった。

 

「敵影!」

 

第四班の通信が一瞬だけ慌ただしくなる。

 

建物の陰から現れた敵機が、味方機へ接近していた。

 

一人の班員が対応に遅れる。

 

「班長!」

 

理沙は迷わなかった。

 

「第四班、防御!」

 

四機が一斉に動く。

 

敵機と味方機の間へ割って入り、進路を塞ぐ。

 

その間に遅れていた班員も隊形へ戻った。

 

「左から回る!」

 

「了解!」

 

数秒後、敵機は撃破される。

 

味方機も無事だった。

 

《課目終了》

 

◇

 

シミュレーター室へ戻ると、板垣が結果を確認していた。

 

「第四班。」

 

「はい!」

 

理沙が前へ出る。

 

「護衛は成功。」

 

一拍置く。

 

「だが、一機遅れた。」

 

理沙は静かに頷く。

 

「はい。」

 

板垣の視線が班員へ向くことはなかった。

 

「班長。」

 

「はい。」

 

「どう見る。」

 

理沙は少しだけ考えた。

 

「私の確認が足りませんでした。」

 

板垣は小さく頷く。

 

「そうか。」

 

それだけ言うと、次の結果へ目を移した。

 

◇

 

休憩時間。

 

第四班の班員が理沙の前で頭を下げる。

 

「班長、すみませんでした。」

 

理沙は首を横に振る。

 

「謝るのはまだ早いよ。」

 

班員が顔を上げる。

 

「どうして遅れたか。」

 

「建物ばかり見ていて……味方機から目を離しました。」

 

理沙は笑顔で頷いた。

 

「分かったなら大丈夫。」

 

「次は同じ失敗をしなければいい。」

 

班員の表情から力が抜けた。

 

「はい!」

 

その返事は、訓練中よりも力強かった。

 

◇

 

武田は給水機の前で、その様子を見ていた。

 

隣へ九条が立つ。

 

武田は小さく尋ねた。

 

「九条班長。」

 

「黒木班長は……怒らないんですね。」

 

九条は理沙たちへ視線を向けたまま答える。

 

「怒る必要がないからだ。」

 

武田は黙って続きを待つ。

 

「失敗したことは、本人が一番分かっている。」

 

少し間を置く。

 

「ああやって前を向かせるのも、班長の仕事だ。」

 

武田は理沙を見る。

 

班員たちはもう笑いながら話していた。

 

理沙も、その輪の中で笑っている。

 

だが、その笑顔は訓練前とは少し違って見えた。

 

武田は何も言わず、その光景を静かに見つめていた。

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