TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第59話 連携

 

八月。

 

夏の日差しは一段と強くなり、シミュレーター棟までの舗装路には陽炎が揺れていた。

 

応用シミュレーションも一か月が過ぎ、第一小隊は毎日のように訓練を繰り返していた。

 

「本日の課目。」

 

板垣がモニターを切り替える。

 

「市街地突破。」

 

「目標は最短時間ではない。」

 

候補生たちが画面を見る。

 

板垣は続けた。

 

「小隊を崩すな。」

 

それだけだった。

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

「第一小隊、前進。」

 

一ノ瀬の号令で二十機が動き出す。

 

武田は第三班の最後尾から周囲を確認する。

 

交差点。

 

狭い路地。

 

倒壊した建物。

 

先月なら、それぞれの班が別々に動いていた場所だった。

 

「第一班、右へ。」

 

一ノ瀬の指示が飛ぶ。

 

その直後だった。

 

「第二班、速度合わせます。」

 

橘が先に動く。

 

一ノ瀬は返事をしない。

 

必要がないからだ。

 

第三班も自然と隊形を修正する。

 

「第三班、間隔維持。」

 

九条の指示に、武田たちはすぐ応じた。

 

少し遅れて理沙の声が入る。

 

「第四班、最後尾確認!」

 

「了解!」

 

通信はそれだけだった。

 

武田は少しだけ違和感を覚える。

 

(少ない。)

 

それなのに、小隊は乱れない。

 

それぞれが、次に必要な動きを考えていた。

 

◇

 

市街地を抜ける直前。

 

突然、警報が鳴る。

 

《前方障害物》

 

瓦礫が道路を塞いでいた。

 

一ノ瀬が口を開く前に、橘が通信へ入る。

 

「第二班、左側に迂回路があります。」

 

「確認済みです。」

 

一ノ瀬は短く答える。

 

「第一班、左へ。」

 

「第三、第四班も続け。」

 

「了解。」

 

小隊は速度を落とすことなく進路を変えた。

 

誰も慌てない。

 

誰も指示を重ねない。

 

自然と隊形が整っていく。

 

《課目達成》

 

表示が浮かんだ。

 

◇

 

訓練後。

 

板垣は演習記録を見つめていた。

 

「一ノ瀬。」

 

「はい。」

 

「通信回数は。」

 

一ノ瀬が画面を確認する。

 

「前回より三割減っています。」

 

「そうだ。」

 

板垣は静かに頷いた。

 

「余計な通信が減った。」

 

候補生たちは結果を見る。

 

板垣は画面を閉じた。

 

「互いの動きが見えてきた証拠だ。」

 

その一言だけ残し、教壇を降りた。

 

◇

 

教室へ戻る途中。

 

朝倉が大きく伸びをする。

 

「今日は楽だったな。」

 

「楽?」

 

武田が聞き返す。

 

「前はさ、班長の指示を待ってばっかりだっただろ。」

 

朝倉は笑う。

 

「今日は、次に何をするか何となく分かった。」

 

武田は少しだけ考える。

 

確かにそうだった。

 

九条が指示を出す前に、真壁は位置を修正していた。

 

理沙の班も、橘の班も同じだった。

 

誰か一人が引っ張ったわけではない。

 

二十人全員で動いていた。

 

前を歩く一ノ瀬たち四人の班長は、何かを話しながら歩いている。

 

笑い声は聞こえない。

 

けれど、その背中には初日のような張り詰めた空気もなかった。

 

武田はその姿を静かに見つめながら、仲間たちと並んで歩き出した。

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