TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
八月。
夏の日差しは一段と強くなり、シミュレーター棟までの舗装路には陽炎が揺れていた。
応用シミュレーションも一か月が過ぎ、第一小隊は毎日のように訓練を繰り返していた。
「本日の課目。」
板垣がモニターを切り替える。
「市街地突破。」
「目標は最短時間ではない。」
候補生たちが画面を見る。
板垣は続けた。
「小隊を崩すな。」
それだけだった。
◇
《シミュレーション開始》
「第一小隊、前進。」
一ノ瀬の号令で二十機が動き出す。
武田は第三班の最後尾から周囲を確認する。
交差点。
狭い路地。
倒壊した建物。
先月なら、それぞれの班が別々に動いていた場所だった。
「第一班、右へ。」
一ノ瀬の指示が飛ぶ。
その直後だった。
「第二班、速度合わせます。」
橘が先に動く。
一ノ瀬は返事をしない。
必要がないからだ。
第三班も自然と隊形を修正する。
「第三班、間隔維持。」
九条の指示に、武田たちはすぐ応じた。
少し遅れて理沙の声が入る。
「第四班、最後尾確認!」
「了解!」
通信はそれだけだった。
武田は少しだけ違和感を覚える。
(少ない。)
それなのに、小隊は乱れない。
それぞれが、次に必要な動きを考えていた。
◇
市街地を抜ける直前。
突然、警報が鳴る。
《前方障害物》
瓦礫が道路を塞いでいた。
一ノ瀬が口を開く前に、橘が通信へ入る。
「第二班、左側に迂回路があります。」
「確認済みです。」
一ノ瀬は短く答える。
「第一班、左へ。」
「第三、第四班も続け。」
「了解。」
小隊は速度を落とすことなく進路を変えた。
誰も慌てない。
誰も指示を重ねない。
自然と隊形が整っていく。
《課目達成》
表示が浮かんだ。
◇
訓練後。
板垣は演習記録を見つめていた。
「一ノ瀬。」
「はい。」
「通信回数は。」
一ノ瀬が画面を確認する。
「前回より三割減っています。」
「そうだ。」
板垣は静かに頷いた。
「余計な通信が減った。」
候補生たちは結果を見る。
板垣は画面を閉じた。
「互いの動きが見えてきた証拠だ。」
その一言だけ残し、教壇を降りた。
◇
教室へ戻る途中。
朝倉が大きく伸びをする。
「今日は楽だったな。」
「楽?」
武田が聞き返す。
「前はさ、班長の指示を待ってばっかりだっただろ。」
朝倉は笑う。
「今日は、次に何をするか何となく分かった。」
武田は少しだけ考える。
確かにそうだった。
九条が指示を出す前に、真壁は位置を修正していた。
理沙の班も、橘の班も同じだった。
誰か一人が引っ張ったわけではない。
二十人全員で動いていた。
前を歩く一ノ瀬たち四人の班長は、何かを話しながら歩いている。
笑い声は聞こえない。
けれど、その背中には初日のような張り詰めた空気もなかった。
武田はその姿を静かに見つめながら、仲間たちと並んで歩き出した。