TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第60話 信頼

 

八月。

 

応用シミュレーションは新しい段階へ進んでいた。

 

大型モニターには、複雑な市街地が映し出される。

 

「本日の課目。」

 

板垣が候補生たちを見渡した。

 

「敵情は不明。」

 

「各班で情報を共有し、目標地点を制圧しろ。」

 

「以上。」

 

候補生たちは顔を見合わせる。

 

これまでは敵の配置も進路も示されていた。

 

今回は違う。

 

「開始。」

 

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊が市街地へ進入する。

 

一ノ瀬は周囲を確認しながら前進する。

 

「第一班、停止。」

 

その瞬間だった。

 

橘の通信が入る。

 

「第二班、右側の路地を確認します。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬は短く返す。

 

九条も続いた。

 

「第三班、中央を警戒。」

 

「第四班、後方確認するね!」

 

理沙の明るい声が響く。

 

四つの班が、それぞれの役割を果たしながら前へ進む。

 

しばらくして、橘から再び通信が入った。

 

「右側、安全です。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬はすぐに進路を決める。

 

「右ルートを進む。」

 

誰も異論はなかった。

 

 

目標地点まであと少し。

 

突然、警報音が鳴る。

 

《敵影確認》

 

建物の陰から敵機が現れる。

 

「第一班、応戦。」

 

一ノ瀬が前へ出る。

 

その横を、第三班が自然とカバーに入る。

 

武田は九条の指示を待とうとした。

 

しかし通信は入らない。

 

前を見る。

 

真壁はすでに左へ展開していた。

 

朝倉も右側を警戒している。

 

武田も遅れまいと隊形を合わせた。

 

九条はその様子を一度だけ確認すると、小さく言った。

 

「そのままでいい。」

 

それだけだった。

 

《課目達成》

 

 

シミュレーター室へ戻る。

 

候補生たちが結果を確認していると、板垣が演習記録を再生した。

 

「見ろ。」

 

画面には、敵機が現れた瞬間の映像が映る。

 

板垣は一時停止した。

 

「ここだ。」

 

誰も口を開かない。

 

「第三班。」

 

九条が前へ出る。

 

「指示は。」

 

「出していません。」

 

「なぜだ。」

 

九条は画面を見つめたまま答えた。

 

「班員が動けると判断しました。」

 

板垣は武田たちを見る。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「なぜ動いた。」

 

武田は少し考えた。

 

「……真壁が左へ動いたのが見えました。」

 

「朝倉も右を見ていたので、自分は中央を警戒しました。」

 

板垣は静かに頷く。

 

「それでいい。」

 

候補生たちへ視線を向ける。

 

「連携とは、指示の数ではない。」

 

「互いを見て動けることだ。」

 

その言葉は、教室を静かに包んだ。

 

 

訓練が終わり、武田たちはシミュレーター棟を出る。

 

夕暮れの空には、夏の雲がゆっくり流れていた。

 

朝倉が笑いながら言う。

 

「今日は班長に怒鳴られなかったな。」

 

真壁も笑う。

 

「怒鳴る前に動いたからだろ。」

 

武田は二人のやり取りを聞きながら歩く。

 

少し前では、一ノ瀬、橘、九条、理沙の四人が並んで歩いていた。

 

誰か一人が話し続けるわけではない。

 

短い言葉を交わしながら、自然と歩幅がそろっている。

 

武田はその後ろ姿を見つめる。

 

第一小隊は、少しずつだが確かに前へ進んでいた。

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