TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第60話 信頼

 

八月。

 

応用シミュレーションは新しい段階へ進んでいた。

 

大型モニターには、複雑な市街地が映し出される。

 

「本日の課目。」

 

板垣が候補生たちを見渡した。

 

「敵情は不明。」

 

「各班で情報を共有し、目標地点を制圧しろ。」

 

「以上。」

 

候補生たちは顔を見合わせる。

 

これまでは敵の配置も進路も示されていた。

 

今回は違う。

 

「開始。」

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊が市街地へ進入する。

 

一ノ瀬は周囲を確認しながら前進する。

 

「第一班、停止。」

 

その瞬間だった。

 

橘の通信が入る。

 

「第二班、右側の路地を確認します。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬は短く返す。

 

九条も続いた。

 

「第三班、中央を警戒。」

 

「第四班、後方確認するね!」

 

理沙の明るい声が響く。

 

四つの班が、それぞれの役割を果たしながら前へ進む。

 

しばらくして、橘から再び通信が入った。

 

「右側、安全です。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬はすぐに進路を決める。

 

「右ルートを進む。」

 

誰も異論はなかった。

 

◇

 

目標地点まであと少し。

 

突然、警報音が鳴る。

 

《敵影確認》

 

建物の陰から敵機が現れる。

 

「第一班、応戦。」

 

一ノ瀬が前へ出る。

 

その横を、第三班が自然とカバーに入る。

 

武田は九条の指示を待とうとした。

 

しかし通信は入らない。

 

前を見る。

 

真壁はすでに左へ展開していた。

 

朝倉も右側を警戒している。

 

武田も遅れまいと隊形を合わせた。

 

九条はその様子を一度だけ確認すると、小さく言った。

 

「そのままでいい。」

 

それだけだった。

 

《課目達成》

 

◇

 

シミュレーター室へ戻る。

 

候補生たちが結果を確認していると、板垣が演習記録を再生した。

 

「見ろ。」

 

画面には、敵機が現れた瞬間の映像が映る。

 

板垣は一時停止した。

 

「ここだ。」

 

誰も口を開かない。

 

「第三班。」

 

九条が前へ出る。

 

「指示は。」

 

「出していません。」

 

「なぜだ。」

 

九条は画面を見つめたまま答えた。

 

「班員が動けると判断しました。」

 

板垣は武田たちを見る。

 

「武田。」

 

「はい。」

 

「なぜ動いた。」

 

武田は少し考えた。

 

「……真壁が左へ動いたのが見えました。」

 

「朝倉も右を見ていたので、自分は中央を警戒しました。」

 

板垣は静かに頷く。

 

「それでいい。」

 

候補生たちへ視線を向ける。

 

「連携とは、指示の数ではない。」

 

「互いを見て動けることだ。」

 

その言葉は、教室を静かに包んだ。

 

◇

 

訓練が終わり、武田たちはシミュレーター棟を出る。

 

夕暮れの空には、夏の雲がゆっくり流れていた。

 

朝倉が笑いながら言う。

 

「今日は班長に怒鳴られなかったな。」

 

真壁も笑う。

 

「怒鳴る前に動いたからだろ。」

 

武田は二人のやり取りを聞きながら歩く。

 

少し前では、一ノ瀬、橘、九条、理沙の四人が並んで歩いていた。

 

誰か一人が話し続けるわけではない。

 

短い言葉を交わしながら、自然と歩幅がそろっている。

 

武田はその後ろ姿を見つめる。

 

第一小隊は、少しずつだが確かに前へ進んでいた。

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