TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第61話 他小隊

 

八月。

 

夏休みに入った訓練校は静かだった。

 

それでもシミュレーター棟だけは、朝から普段とは違う空気に包まれていた。

 

武田が棟内へ入ると、見慣れない候補生たちが整列している。

 

制服は同じ。

 

だが、肩章の色が違う。

 

「他の小隊か……。」

 

朝倉が小さく呟いた。

 

「思ったより人数いるな。」

 

理沙は興味深そうに辺りを見回している。

 

「みんな緊張してるね。」

 

橘は相手ではなく、演習区域のモニターを見つめていた。

 

九条は何も言わない。

 

ただ静かに相手小隊を観察していた。

 

◇

 

「整列。」

 

板垣の号令が響く。

 

シミュレーター室は静まり返った。

 

「本日より合同訓練を開始する。」

 

候補生たちの表情が引き締まる。

 

「他小隊との優劣を競うことが目的ではない。」

 

板垣は全員を見渡した。

 

「他者から学べ。」

 

「そして、自分たちを知れ。」

 

短い説明だった。

 

だが、その言葉は武田の胸に残った。

 

◇

 

「第二小隊長。」

 

板垣が名前を呼ぶ。

 

一人の候補生が前へ出る。

 

「相馬隼人です。」

 

落ち着いた声だった。

 

必要以上に大きくも、小さくもない。

 

武田は自然とその姿を見た。

 

姿勢はまっすぐ。

 

視線は正面。

 

無駄な動きが一つもない。

 

「第一小隊長。」

 

「一ノ瀬です。」

 

一ノ瀬も前へ出る。

 

二人は向かい合う。

 

「本日の訓練、よろしく頼む。」

 

相馬が静かに敬礼する。

 

一ノ瀬も敬礼を返した。

 

「こちらこそ。」

 

それだけだった。

 

挑発もない。

 

笑顔もない。

 

それでも互いを認め合っていることが、武田には伝わった。

 

◇

 

午前。

 

最初に演習を行うのは第一小隊だった。

 

第二小隊は後方から見学する。

 

《シミュレーション開始》

 

一ノ瀬の号令で小隊が前進する。

 

第二班が先行して安全を確認する。

 

第三班が左右を警戒。

 

第四班が後方を支える。

 

通信は最小限。

 

必要な言葉だけが流れる。

 

武田も自然と隊形へ溶け込んでいた。

 

演習終了。

 

《課目達成》

 

板垣は何も言わない。

 

相馬も表情を変えなかった。

 

◇

 

続いて第二小隊。

 

武田たちは後方モニターから演習を見る。

 

開始と同時に、相馬の声が響いた。

 

「前進。」

 

それだけだった。

 

武田は画面を見つめる。

 

速い。

 

それだけではない。

 

班が迷わない。

 

交差点では止まる前に隊形が変わる。

 

障害物が現れる前に迂回が始まる。

 

まるで全員が次の動きを知っているようだった。

 

朝倉が思わず息を漏らす。

 

「……速ぇ。」

 

武田も同じことを思った。

 

自分たちと大きく変わらないはずなのに。

 

何かが違う。

 

その「何か」は、まだ分からなかった。

 

◇

 

訓練が終わり、候補生たちが装備を片付け始める。

 

武田たちがシミュレーター室を出ようとした時だった。

 

「一ノ瀬。」

 

相馬が呼び止める。

 

一ノ瀬が振り返る。

 

「明日は合同演習だ。」

 

「よろしく頼む。」

 

一ノ瀬は小さく頷いた。

 

「ああ。」

 

二人は敬礼を交わす。

 

それだけで会話は終わった。

 

武田はその背中を見送る。

 

朝倉が隣で苦笑した。

 

「強そうだな。」

 

武田は静かに頷く。

 

窓の外では、夏の青空がどこまでも広がっていた。

 

明日、その空の下で、第一小隊は初めて他小隊と向き合うことになる。

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