TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第61話 他小隊

 

八月。

 

夏休みに入った訓練校は静かだった。

 

それでもシミュレーター棟だけは、朝から普段とは違う空気に包まれていた。

 

武田が棟内へ入ると、見慣れない候補生たちが整列している。

 

制服は同じ。

 

だが、肩章の色が違う。

 

「他の小隊か……。」

 

朝倉が小さく呟いた。

 

「思ったより人数いるな。」

 

理沙は興味深そうに辺りを見回している。

 

「みんな緊張してるね。」

 

橘は相手ではなく、演習区域のモニターを見つめていた。

 

九条は何も言わない。

 

ただ静かに相手小隊を観察していた。

 

 

「整列。」

 

板垣の号令が響く。

 

シミュレーター室は静まり返った。

 

「本日より合同訓練を開始する。」

 

候補生たちの表情が引き締まる。

 

「他小隊との優劣を競うことが目的ではない。」

 

板垣は全員を見渡した。

 

「他者から学べ。」

 

「そして、自分たちを知れ。」

 

短い説明だった。

 

だが、その言葉は武田の胸に残った。

 

 

「第二小隊長。」

 

板垣が名前を呼ぶ。

 

一人の候補生が前へ出る。

 

「相馬隼人です。」

 

落ち着いた声だった。

 

必要以上に大きくも、小さくもない。

 

武田は自然とその姿を見た。

 

姿勢はまっすぐ。

 

視線は正面。

 

無駄な動きが一つもない。

 

「第一小隊長。」

 

「一ノ瀬です。」

 

一ノ瀬も前へ出る。

 

二人は向かい合う。

 

「本日の訓練、よろしく頼む。」

 

相馬が静かに敬礼する。

 

一ノ瀬も敬礼を返した。

 

「こちらこそ。」

 

それだけだった。

 

挑発もない。

 

笑顔もない。

 

それでも互いを認め合っていることが、武田には伝わった。

 

 

午前。

 

最初に演習を行うのは第一小隊だった。

 

第二小隊は後方から見学する。

 

《シミュレーション開始》

 

一ノ瀬の号令で小隊が前進する。

 

第二班が先行して安全を確認する。

 

第三班が左右を警戒。

 

第四班が後方を支える。

 

通信は最小限。

 

必要な言葉だけが流れる。

 

武田も自然と隊形へ溶け込んでいた。

 

演習終了。

 

《課目達成》

 

板垣は何も言わない。

 

相馬も表情を変えなかった。

 

 

続いて第二小隊。

 

武田たちは後方モニターから演習を見る。

 

開始と同時に、相馬の声が響いた。

 

「前進。」

 

それだけだった。

 

武田は画面を見つめる。

 

速い。

 

それだけではない。

 

班が迷わない。

 

交差点では止まる前に隊形が変わる。

 

障害物が現れる前に迂回が始まる。

 

まるで全員が次の動きを知っているようだった。

 

朝倉が思わず息を漏らす。

 

「……速ぇ。」

 

武田も同じことを思った。

 

自分たちと大きく変わらないはずなのに。

 

何かが違う。

 

その「何か」は、まだ分からなかった。

 

 

訓練が終わり、候補生たちが装備を片付け始める。

 

武田たちがシミュレーター室を出ようとした時だった。

 

「一ノ瀬。」

 

相馬が呼び止める。

 

一ノ瀬が振り返る。

 

「明日は合同演習だ。」

 

「よろしく頼む。」

 

一ノ瀬は小さく頷いた。

 

「ああ。」

 

二人は敬礼を交わす。

 

それだけで会話は終わった。

 

武田はその背中を見送る。

 

朝倉が隣で苦笑した。

 

「強そうだな。」

 

武田は静かに頷く。

 

窓の外では、夏の青空がどこまでも広がっていた。

 

明日、その空の下で、第一小隊は初めて他小隊と向き合うことになる。

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