TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
八月。
夏休みに入った訓練校は静かだった。
それでもシミュレーター棟だけは、朝から普段とは違う空気に包まれていた。
武田が棟内へ入ると、見慣れない候補生たちが整列している。
制服は同じ。
だが、肩章の色が違う。
「他の小隊か……。」
朝倉が小さく呟いた。
「思ったより人数いるな。」
理沙は興味深そうに辺りを見回している。
「みんな緊張してるね。」
橘は相手ではなく、演習区域のモニターを見つめていた。
九条は何も言わない。
ただ静かに相手小隊を観察していた。
◇
「整列。」
板垣の号令が響く。
シミュレーター室は静まり返った。
「本日より合同訓練を開始する。」
候補生たちの表情が引き締まる。
「他小隊との優劣を競うことが目的ではない。」
板垣は全員を見渡した。
「他者から学べ。」
「そして、自分たちを知れ。」
短い説明だった。
だが、その言葉は武田の胸に残った。
◇
「第二小隊長。」
板垣が名前を呼ぶ。
一人の候補生が前へ出る。
「相馬隼人です。」
落ち着いた声だった。
必要以上に大きくも、小さくもない。
武田は自然とその姿を見た。
姿勢はまっすぐ。
視線は正面。
無駄な動きが一つもない。
「第一小隊長。」
「一ノ瀬です。」
一ノ瀬も前へ出る。
二人は向かい合う。
「本日の訓練、よろしく頼む。」
相馬が静かに敬礼する。
一ノ瀬も敬礼を返した。
「こちらこそ。」
それだけだった。
挑発もない。
笑顔もない。
それでも互いを認め合っていることが、武田には伝わった。
◇
午前。
最初に演習を行うのは第一小隊だった。
第二小隊は後方から見学する。
《シミュレーション開始》
一ノ瀬の号令で小隊が前進する。
第二班が先行して安全を確認する。
第三班が左右を警戒。
第四班が後方を支える。
通信は最小限。
必要な言葉だけが流れる。
武田も自然と隊形へ溶け込んでいた。
演習終了。
《課目達成》
板垣は何も言わない。
相馬も表情を変えなかった。
◇
続いて第二小隊。
武田たちは後方モニターから演習を見る。
開始と同時に、相馬の声が響いた。
「前進。」
それだけだった。
武田は画面を見つめる。
速い。
それだけではない。
班が迷わない。
交差点では止まる前に隊形が変わる。
障害物が現れる前に迂回が始まる。
まるで全員が次の動きを知っているようだった。
朝倉が思わず息を漏らす。
「……速ぇ。」
武田も同じことを思った。
自分たちと大きく変わらないはずなのに。
何かが違う。
その「何か」は、まだ分からなかった。
◇
訓練が終わり、候補生たちが装備を片付け始める。
武田たちがシミュレーター室を出ようとした時だった。
「一ノ瀬。」
相馬が呼び止める。
一ノ瀬が振り返る。
「明日は合同演習だ。」
「よろしく頼む。」
一ノ瀬は小さく頷いた。
「ああ。」
二人は敬礼を交わす。
それだけで会話は終わった。
武田はその背中を見送る。
朝倉が隣で苦笑した。
「強そうだな。」
武田は静かに頷く。
窓の外では、夏の青空がどこまでも広がっていた。
明日、その空の下で、第一小隊は初めて他小隊と向き合うことになる。