TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第62話 敗北

 

翌朝。

 

シミュレーター棟には、昨日とは違う緊張感が漂っていた。

 

大型モニターには今日の課目が映し出されている。

 

『小隊対抗模擬戦』

 

第一小隊 対 第二小隊。

 

武田は静かに画面を見つめた。

 

朝倉が小さく笑う。

 

「やっと本番だな。」

 

真壁は腕を組み、短く答える。

 

「気を抜くな。」

 

板垣が教壇へ立つ。

 

「勝敗条件は目標地点の確保。」

 

「敵小隊の全滅は必要ない。」

 

候補生たちの表情が引き締まる。

 

「開始。」

 

 

《シミュレーション開始》

 

市街地。

 

第一小隊は一ノ瀬を先頭に進む。

 

「第一班、前進。」

 

「第二班、右側を確認。」

 

「第三班、中央を警戒。」

 

「第四班、後方警戒。」

 

四人の班長の声が短く交わる。

 

余計な通信はない。

 

武田は左右の建物を確認しながら前進した。

 

以前なら班長の指示を待っていた。

 

だが今は違う。

 

真壁が左へ寄れば、自分は自然と中央を補う。

 

朝倉が前へ出れば、その背後を埋める。

 

誰も言葉にしない。

 

それでも第三班は一つの班として動いていた。

 

「右ルート、安全。」

 

橘の報告が入る。

 

「了解。そのまま進む。」

 

一ノ瀬が即座に判断する。

 

隊形は崩れない。

 

武田は胸の奥で、小さく手応えを感じていた。

 

(いける。)

 

 

その直後だった。

 

「敵影!」

 

理沙の声が通信へ響く。

 

交差点の先。

 

第二小隊が姿を現した。

 

「第一班、接触!」

 

一ノ瀬の指示と同時に両小隊が散開する。

 

武田は建物の陰へ滑り込み、照準を合わせた。

 

敵機が一機、路地へ飛び込む。

 

「武田!」

 

九条の声。

 

「右を押さえろ!」

 

「了解!」

 

武田は路地へ照準を向ける。

 

敵機が現れる。

 

引き金を引いた。

 

《撃破判定》

 

「よし!」

 

朝倉が声を上げる。

 

だが次の瞬間、橘の通信が飛び込んだ。

 

「違う!」

 

「本隊じゃない!」

 

武田は思わず画面を見た。

 

撃破したのは、一機だけで突出した敵だった。

 

その間に。

 

「第二小隊、前進。」

 

相馬の落ち着いた声が聞こえる。

 

建物の反対側。

 

第二小隊本隊は、すでに別の道路を進んでいた。

 

「しまった!」

 

朝倉が向きを変える。

 

「第三班、追うぞ!」

 

九条は首を振った。

 

「追うな。」

 

「隊形を維持。」

 

短い指示だった。

 

第三班は動きを止める。

 

武田は歯を食いしばった。

 

追えば追いつけるかもしれない。

 

だが、小隊は崩れる。

 

九条はそれを許さなかった。

 

 

「第四班、左から回り込む!」

 

理沙が突破を試みる。

 

「第二班、援護します!」

 

橘もすぐに応じた。

 

一ノ瀬は全体を見渡す。

 

「第三班、中央を維持。」

 

「第一班は前へ出る。」

 

四つの班が一斉に動いた。

 

第一小隊の連携は乱れていない。

 

むしろ、今までで一番良かった。

 

しかし。

 

「目標確認。」

 

相馬の声だけが静かに響く。

 

「確保する。」

 

第二小隊は戦うためではなく、目標へ向かうために動いていた。

 

武田はようやく気付く。

 

(最初から……。)

 

(俺たちを止めることが目的じゃなかった。)

 

第二小隊は第一小隊を引きつけ、その間に最短で目標へ到達する。

 

そのための一機だった。

 

《目標確保》

 

《第二小隊 勝利》

 

静かに表示が切り替わった。

 

 

シミュレーター室へ戻る。

 

誰も声を上げなかった。

 

朝倉は悔しそうに拳を握る。

 

「あと少しだった……。」

 

橘はすでに演習記録を開いている。

 

理沙はモニターを見つめたまま黙っていた。

 

九条は腕を組み、画面から目を離さない。

 

一ノ瀬は相馬の前まで歩み寄る。

 

相馬が先に敬礼した。

 

「ありがとうございました。」

 

一ノ瀬も静かに敬礼を返す。

 

「ありがとうございました。」

 

相馬はそれ以上何も言わず、第二小隊のもとへ戻っていく。

 

勝因を語ることもなければ、敗者を慰めることもない。

 

武田はその背中を見送った。

 

悔しさはあった。

 

だが、それ以上に胸へ残ったのは、一つの疑問だった。

 

なぜ、自分たちは相馬の狙いに気付けなかったのか。

 

その答えは、まだ誰にも分からなかった。

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