TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
翌朝。
シミュレーター棟には、昨日とは違う緊張感が漂っていた。
大型モニターには今日の課目が映し出されている。
『小隊対抗模擬戦』
第一小隊 対 第二小隊。
武田は静かに画面を見つめた。
朝倉が小さく笑う。
「やっと本番だな。」
真壁は腕を組み、短く答える。
「気を抜くな。」
板垣が教壇へ立つ。
「勝敗条件は目標地点の確保。」
「敵小隊の全滅は必要ない。」
候補生たちの表情が引き締まる。
「開始。」
◇
《シミュレーション開始》
市街地。
第一小隊は一ノ瀬を先頭に進む。
「第一班、前進。」
「第二班、右側を確認。」
「第三班、中央を警戒。」
「第四班、後方警戒。」
四人の班長の声が短く交わる。
余計な通信はない。
武田は左右の建物を確認しながら前進した。
以前なら班長の指示を待っていた。
だが今は違う。
真壁が左へ寄れば、自分は自然と中央を補う。
朝倉が前へ出れば、その背後を埋める。
誰も言葉にしない。
それでも第三班は一つの班として動いていた。
「右ルート、安全。」
橘の報告が入る。
「了解。そのまま進む。」
一ノ瀬が即座に判断する。
隊形は崩れない。
武田は胸の奥で、小さく手応えを感じていた。
(いける。)
◇
その直後だった。
「敵影!」
理沙の声が通信へ響く。
交差点の先。
第二小隊が姿を現した。
「第一班、接触!」
一ノ瀬の指示と同時に両小隊が散開する。
武田は建物の陰へ滑り込み、照準を合わせた。
敵機が一機、路地へ飛び込む。
「武田!」
九条の声。
「右を押さえろ!」
「了解!」
武田は路地へ照準を向ける。
敵機が現れる。
引き金を引いた。
《撃破判定》
「よし!」
朝倉が声を上げる。
だが次の瞬間、橘の通信が飛び込んだ。
「違う!」
「本隊じゃない!」
武田は思わず画面を見た。
撃破したのは、一機だけで突出した敵だった。
その間に。
「第二小隊、前進。」
相馬の落ち着いた声が聞こえる。
建物の反対側。
第二小隊本隊は、すでに別の道路を進んでいた。
「しまった!」
朝倉が向きを変える。
「第三班、追うぞ!」
九条は首を振った。
「追うな。」
「隊形を維持。」
短い指示だった。
第三班は動きを止める。
武田は歯を食いしばった。
追えば追いつけるかもしれない。
だが、小隊は崩れる。
九条はそれを許さなかった。
◇
「第四班、左から回り込む!」
理沙が突破を試みる。
「第二班、援護します!」
橘もすぐに応じた。
一ノ瀬は全体を見渡す。
「第三班、中央を維持。」
「第一班は前へ出る。」
四つの班が一斉に動いた。
第一小隊の連携は乱れていない。
むしろ、今までで一番良かった。
しかし。
「目標確認。」
相馬の声だけが静かに響く。
「確保する。」
第二小隊は戦うためではなく、目標へ向かうために動いていた。
武田はようやく気付く。
(最初から……。)
(俺たちを止めることが目的じゃなかった。)
第二小隊は第一小隊を引きつけ、その間に最短で目標へ到達する。
そのための一機だった。
《目標確保》
《第二小隊 勝利》
静かに表示が切り替わった。
◇
シミュレーター室へ戻る。
誰も声を上げなかった。
朝倉は悔しそうに拳を握る。
「あと少しだった……。」
橘はすでに演習記録を開いている。
理沙はモニターを見つめたまま黙っていた。
九条は腕を組み、画面から目を離さない。
一ノ瀬は相馬の前まで歩み寄る。
相馬が先に敬礼した。
「ありがとうございました。」
一ノ瀬も静かに敬礼を返す。
「ありがとうございました。」
相馬はそれ以上何も言わず、第二小隊のもとへ戻っていく。
勝因を語ることもなければ、敗者を慰めることもない。
武田はその背中を見送った。
悔しさはあった。
だが、それ以上に胸へ残ったのは、一つの疑問だった。
なぜ、自分たちは相馬の狙いに気付けなかったのか。
その答えは、まだ誰にも分からなかった。