TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
八月も終わりに近づいていた。
大型モニターには、再び同じ文字が表示される。
『第一小隊 対 第二小隊』
シミュレーター室は静まり返っていた。
武田は隣に立つ朝倉を見る。
朝倉は笑っていた。
「今度は負けねぇ。」
その声に、前回のような焦りはなかった。
◇
板垣が前へ出る。
「前回と同じ条件で実施する。」
「変更点はない。」
一拍置く。
「始めろ。」
◇
《シミュレーション開始》
第一小隊が市街地へ進入する。
一ノ瀬は前だけを見ていない。
第二班。
第三班。
第四班。
三人の班長の位置を確認しながら前進する。
「第一班、速度維持。」
「第二班、右側確認。」
「了解。」
橘は即座に応じる。
「第三班、中央警戒。」
「了解。」
九条の声も落ち着いている。
「第四班、後方異常なし!」
理沙の明るい声が続いた。
武田は周囲へ視線を配る。
目の前だけを見ない。
昨日決めた役割を思い出す。
敵を追う者。
周囲を見る者。
目標を見る者。
全員が同じ景色を見ない。
それが第一小隊の答えだった。
◇
「敵影!」
建物の陰から一機が姿を現す。
前回と同じ。
武田は反射的に照準を合わせた。
だが、撃たない。
その代わり、周囲を見る。
建物の奥。
さらにもう一つの路地。
「九条班長!」
「左奥にも反応があります!」
九条はすぐに応じた。
「確認。」
「第一班へ。」
武田の報告は一ノ瀬へ伝わる。
「橘。」
「はい。」
「右を維持。」
「九条。」
「左を押さえてくれ。」
「了解。」
一ノ瀬の指示が飛ぶ。
第一小隊は、囮に引き寄せられなかった。
◇
その頃。
第二小隊。
相馬はモニターを見つめる。
「……読まれたか。」
初めて小さく呟いた。
「予定を変更する。」
その一言で第二小隊が動き出す。
第一小隊も負けてはいない。
だが、相馬もまた修正してくる。
◇
両小隊は目標地点目前で再び交錯した。
理沙が第四班を率いて敵を引きつける。
橘は冷静に退路を確保する。
第三班は中央を維持し、一ノ瀬の進路を守る。
武田は左右を確認しながら前進した。
焦りはなかった。
自分には自分の役目がある。
その意識だけが頭にあった。
「第一班、前へ!」
一ノ瀬が目標へ踏み込む。
その直後だった。
「第二小隊、目標確保。」
相馬の声が静かに響く。
《第二小隊 勝利》
表示が切り替わる。
第一小隊は、また負けた。
だが前回とは違う。
誰も悔しさだけで俯いてはいなかった。
◇
演習終了後。
相馬は一ノ瀬の前まで歩み寄る。
「ありがとうございました。」
敬礼。
一ノ瀬も敬礼を返す。
「ありがとうございました。」
相馬は一瞬だけ第一小隊へ視線を向けた。
「前回より良かった。」
それだけ言い残し、第二小隊のもとへ戻っていく。
朝倉が小さく息を吐いた。
「また負けたな。」
真壁は苦笑する。
「でも、追いついてきた。」
武田は演習記録のモニターを見つめた。
前回は、何もできずに終わった。
今回は違う。
第二小隊は途中で作戦を修正してきた。
それだけ第一小隊を警戒していたということだ。
武田は静かに拳を握る。
まだ届かない。
第二小隊との差は、まだそこにある。
それでも、その差は確かに縮まっていた。
◇
夕暮れ。
校舎を茜色の光が包み込む。
演習を終えた候補生たちは、それぞれ寮へ戻っていく。
武田もその列に加わる。
だが、寮へ続く道の途中で足を止めた。
静かに踵を返し、訓練場へ向かう。
誰もいない訓練場。
武田は壁に掛けられた木剣を手に取ると、軽く一礼した。
ゆっくりと構える。
一歩踏み込み、木剣を振る。
乾いた音が静かな訓練場に響く。
もう一振り。
さらにもう一振り。
第二小隊との差。
今日の演習で見えた自分の未熟さ。
その答えを探すように、武田は木剣を振り続ける。
誰かに見せるためではない。
誰かに褒められるためでもない。
ただ、昨日の自分より一歩でも前へ進むために。
日が沈み、訓練場に薄暗さが広がっても、木剣を振る音だけは途切れることがなかった。