TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第65話 再戦

 

八月も終わりに近づいていた。

 

大型モニターには、再び同じ文字が表示される。

 

『第一小隊 対 第二小隊』

 

シミュレーター室は静まり返っていた。

 

武田は隣に立つ朝倉を見る。

 

朝倉は笑っていた。

 

「今度は負けねぇ。」

 

その声に、前回のような焦りはなかった。

 

 

板垣が前へ出る。

 

「前回と同じ条件で実施する。」

 

「変更点はない。」

 

一拍置く。

 

「始めろ。」

 

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊が市街地へ進入する。

 

一ノ瀬は前だけを見ていない。

 

第二班。

 

第三班。

 

第四班。

 

三人の班長の位置を確認しながら前進する。

 

「第一班、速度維持。」

 

「第二班、右側確認。」

 

「了解。」

 

橘は即座に応じる。

 

「第三班、中央警戒。」

 

「了解。」

 

九条の声も落ち着いている。

 

「第四班、後方異常なし!」

 

理沙の明るい声が続いた。

 

武田は周囲へ視線を配る。

 

目の前だけを見ない。

 

昨日決めた役割を思い出す。

 

敵を追う者。

 

周囲を見る者。

 

目標を見る者。

 

全員が同じ景色を見ない。

 

それが第一小隊の答えだった。

 

 

「敵影!」

 

建物の陰から一機が姿を現す。

 

前回と同じ。

 

武田は反射的に照準を合わせた。

 

だが、撃たない。

 

その代わり、周囲を見る。

 

建物の奥。

 

さらにもう一つの路地。

 

「九条班長!」

 

「左奥にも反応があります!」

 

九条はすぐに応じた。

 

「確認。」

 

「第一班へ。」

 

武田の報告は一ノ瀬へ伝わる。

 

「橘。」

 

「はい。」

 

「右を維持。」

 

「九条。」

 

「左を押さえてくれ。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬の指示が飛ぶ。

 

第一小隊は、囮に引き寄せられなかった。

 

 

その頃。

 

第二小隊。

 

相馬はモニターを見つめる。

 

「……読まれたか。」

 

初めて小さく呟いた。

 

「予定を変更する。」

 

その一言で第二小隊が動き出す。

 

第一小隊も負けてはいない。

 

だが、相馬もまた修正してくる。

 

 

両小隊は目標地点目前で再び交錯した。

 

理沙が第四班を率いて敵を引きつける。

 

橘は冷静に退路を確保する。

 

第三班は中央を維持し、一ノ瀬の進路を守る。

 

武田は左右を確認しながら前進した。

 

焦りはなかった。

 

自分には自分の役目がある。

 

その意識だけが頭にあった。

 

「第一班、前へ!」

 

一ノ瀬が目標へ踏み込む。

 

その直後だった。

 

「第二小隊、目標確保。」

 

相馬の声が静かに響く。

 

《第二小隊 勝利》

 

表示が切り替わる。

 

第一小隊は、また負けた。

 

だが前回とは違う。

 

誰も悔しさだけで俯いてはいなかった。

 

 

演習終了後。

 

 相馬は一ノ瀬の前まで歩み寄る。

 

「ありがとうございました。」

 

 敬礼。

 

 一ノ瀬も敬礼を返す。

 

「ありがとうございました。」

 

 相馬は一瞬だけ第一小隊へ視線を向けた。

 

「前回より良かった。」

 

 それだけ言い残し、第二小隊のもとへ戻っていく。

 

 朝倉が小さく息を吐いた。

 

「また負けたな。」

 

 真壁は苦笑する。

 

「でも、追いついてきた。」

 

 武田は演習記録のモニターを見つめた。

 

 前回は、何もできずに終わった。

 

 今回は違う。

 

 第二小隊は途中で作戦を修正してきた。

 

 それだけ第一小隊を警戒していたということだ。

 

 武田は静かに拳を握る。

 

 まだ届かない。

 

 第二小隊との差は、まだそこにある。

 

 それでも、その差は確かに縮まっていた。

 

 

 夕暮れ。

 

 校舎を茜色の光が包み込む。

 

 演習を終えた候補生たちは、それぞれ寮へ戻っていく。

 

 武田もその列に加わる。

 

 だが、寮へ続く道の途中で足を止めた。

 

 静かに踵を返し、訓練場へ向かう。

 

 誰もいない訓練場。

 

 武田は壁に掛けられた木剣を手に取ると、軽く一礼した。

 

 ゆっくりと構える。

 

 一歩踏み込み、木剣を振る。

 

 乾いた音が静かな訓練場に響く。

 

 もう一振り。

 

 さらにもう一振り。

 

 第二小隊との差。

 

 今日の演習で見えた自分の未熟さ。

 

 その答えを探すように、武田は木剣を振り続ける。

 

 誰かに見せるためではない。

 

 誰かに褒められるためでもない。

 

 ただ、昨日の自分より一歩でも前へ進むために。

 

 日が沈み、訓練場に薄暗さが広がっても、木剣を振る音だけは途切れることがなかった。

 

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