TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第65話 再戦

 

八月も終わりに近づいていた。

 

大型モニターには、再び同じ文字が表示される。

 

『第一小隊 対 第二小隊』

 

シミュレーター室は静まり返っていた。

 

武田は隣に立つ朝倉を見る。

 

朝倉は笑っていた。

 

「今度は負けねぇ。」

 

その声に、前回のような焦りはなかった。

 

◇

 

板垣が前へ出る。

 

「前回と同じ条件で実施する。」

 

「変更点はない。」

 

一拍置く。

 

「始めろ。」

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊が市街地へ進入する。

 

一ノ瀬は前だけを見ていない。

 

第二班。

 

第三班。

 

第四班。

 

三人の班長の位置を確認しながら前進する。

 

「第一班、速度維持。」

 

「第二班、右側確認。」

 

「了解。」

 

橘は即座に応じる。

 

「第三班、中央警戒。」

 

「了解。」

 

九条の声も落ち着いている。

 

「第四班、後方異常なし!」

 

理沙の明るい声が続いた。

 

武田は周囲へ視線を配る。

 

目の前だけを見ない。

 

昨日決めた役割を思い出す。

 

敵を追う者。

 

周囲を見る者。

 

目標を見る者。

 

全員が同じ景色を見ない。

 

それが第一小隊の答えだった。

 

◇

 

「敵影!」

 

建物の陰から一機が姿を現す。

 

前回と同じ。

 

武田は反射的に照準を合わせた。

 

だが、撃たない。

 

その代わり、周囲を見る。

 

建物の奥。

 

さらにもう一つの路地。

 

「九条班長!」

 

「左奥にも反応があります!」

 

九条はすぐに応じた。

 

「確認。」

 

「第一班へ。」

 

武田の報告は一ノ瀬へ伝わる。

 

「橘。」

 

「はい。」

 

「右を維持。」

 

「九条。」

 

「左を押さえてくれ。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬の指示が飛ぶ。

 

第一小隊は、囮に引き寄せられなかった。

 

◇

 

その頃。

 

第二小隊。

 

相馬はモニターを見つめる。

 

「……読まれたか。」

 

初めて小さく呟いた。

 

「予定を変更する。」

 

その一言で第二小隊が動き出す。

 

第一小隊も負けてはいない。

 

だが、相馬もまた修正してくる。

 

◇

 

両小隊は目標地点目前で再び交錯した。

 

理沙が第四班を率いて敵を引きつける。

 

橘は冷静に退路を確保する。

 

第三班は中央を維持し、一ノ瀬の進路を守る。

 

武田は左右を確認しながら前進した。

 

焦りはなかった。

 

自分には自分の役目がある。

 

その意識だけが頭にあった。

 

「第一班、前へ!」

 

一ノ瀬が目標へ踏み込む。

 

その直後だった。

 

「第二小隊、目標確保。」

 

相馬の声が静かに響く。

 

《第二小隊 勝利》

 

表示が切り替わる。

 

第一小隊は、また負けた。

 

だが前回とは違う。

 

誰も悔しさだけで俯いてはいなかった。

 

◇

 

演習終了後。

 

 相馬は一ノ瀬の前まで歩み寄る。

 

「ありがとうございました。」

 

 敬礼。

 

 一ノ瀬も敬礼を返す。

 

「ありがとうございました。」

 

 相馬は一瞬だけ第一小隊へ視線を向けた。

 

「前回より良かった。」

 

 それだけ言い残し、第二小隊のもとへ戻っていく。

 

 朝倉が小さく息を吐いた。

 

「また負けたな。」

 

 真壁は苦笑する。

 

「でも、追いついてきた。」

 

 武田は演習記録のモニターを見つめた。

 

 前回は、何もできずに終わった。

 

 今回は違う。

 

 第二小隊は途中で作戦を修正してきた。

 

 それだけ第一小隊を警戒していたということだ。

 

 武田は静かに拳を握る。

 

 まだ届かない。

 

 第二小隊との差は、まだそこにある。

 

 それでも、その差は確かに縮まっていた。

 

◇

 

 夕暮れ。

 

 校舎を茜色の光が包み込む。

 

 演習を終えた候補生たちは、それぞれ寮へ戻っていく。

 

 武田もその列に加わる。

 

 だが、寮へ続く道の途中で足を止めた。

 

 静かに踵を返し、訓練場へ向かう。

 

 誰もいない訓練場。

 

 武田は壁に掛けられた木剣を手に取ると、軽く一礼した。

 

 ゆっくりと構える。

 

 一歩踏み込み、木剣を振る。

 

 乾いた音が静かな訓練場に響く。

 

 もう一振り。

 

 さらにもう一振り。

 

 第二小隊との差。

 

 今日の演習で見えた自分の未熟さ。

 

 その答えを探すように、武田は木剣を振り続ける。

 

 誰かに見せるためではない。

 

 誰かに褒められるためでもない。

 

 ただ、昨日の自分より一歩でも前へ進むために。

 

 日が沈み、訓練場に薄暗さが広がっても、木剣を振る音だけは途切れることがなかった。

 

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