TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
九月。
夏の暑さも少しずつ和らぎ始めていた。
応用シミュレーション課程、最終日。
第一小隊は、いつものようにシミュレーター室へ整列する。
誰も特別なことは口にしない。
だが、この三か月で積み重ねてきたものが、それぞれの表情に表れていた。
板垣が教壇へ立つ。
「本日をもって、応用シミュレーション課程を終了する。」
静かな声が室内に響く。
「最後の課目だ。」
大型モニターに演習区域が映し出される。
市街地。
河川。
森林。
この三か月で何度も見てきた地形だった。
「課目。」
「目標地点の制圧。」
「以上。」
板垣はそれ以上説明しなかった。
◇
《シミュレーション開始》
「第一小隊、前進。」
一ノ瀬の号令で二十機が動き出す。
通信は少ない。
橘は右側を確認し、必要な情報だけを伝える。
理沙は最後尾を見守りながら、班員の動きを整える。
九条は第三班を率い、全体との間隔を保つ。
武田は自然と周囲へ視線を巡らせていた。
誰かの指示を待つことはない。
自分の役目を理解し、その役目を果たす。
それが今の第一小隊だった。
目標地点を目前にして、敵影が現れる。
「第一班、前へ。」
「第二班、援護。」
「第三班、中央維持。」
「第四班、後方警戒。」
四人の班長の声が交差する。
武田は敵機へ照準を向ける。
だが、視界の端では真壁が左を押さえ、朝倉が前へ出ている。
(任せられる。)
そう思えた。
だから武田は、自分が見るべき方向へ視線を戻した。
《課目達成》
表示が浮かぶ。
誰も歓声を上げなかった。
それぞれが静かにシミュレーターから降りる。
◇
板垣は演習記録を確認し、ゆっくりと候補生たちを見渡した。
「七月。」
「お前たちは四つの班だった。」
誰も動かない。
「八月。」
「小隊になろうとした。」
武田は自然と一ノ瀬たち四人の班長へ目を向ける。
板垣は静かに続けた。
「そして今日。」
短い沈黙。
「第一小隊として戦っていた。」
その一言だけだった。
だが、一ノ瀬は小さく目を閉じた。
橘も。
九条も。
理沙も。
誰も表情は変えない。
それでも、その言葉の重みは十分に伝わっていた。
「以上。」
板垣は教壇を降りる。
◇
訓練終了後。
武田たちはシミュレーター棟を後にする。
朝倉が空を見上げた。
「終わっちまったな。」
「応用シミュレーション。」
真壁が笑う。
「まだ終わりじゃない。」
「次は総合演習だ。」
理沙が振り返る。
「もっと忙しくなるよ!」
橘は小さくため息をつく。
「その前に教範を読み直さないと。」
その言葉に、理沙が笑った。
「また教範?」
橘も少しだけ口元を緩める。
少し前なら、それだけで驚いたかもしれない。
武田はそんな四人を見ながら歩く。
一ノ瀬は少し前を歩いていた。
その背中を追う班長たち。
さらにその後ろを歩く二十人。
武田は思う。
七月、初めて小隊として動いた日。
あの時見えていたのは、「四つの班」だった。
今、目の前にいるのは違う。
一つの方向へ歩く、二十人だった。
九月の風が、静かに吹き抜けた。