TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第66話 第一小隊

 

九月。

 

夏の暑さも少しずつ和らぎ始めていた。

 

応用シミュレーション課程、最終日。

 

第一小隊は、いつものようにシミュレーター室へ整列する。

 

誰も特別なことは口にしない。

 

だが、この三か月で積み重ねてきたものが、それぞれの表情に表れていた。

 

板垣が教壇へ立つ。

 

「本日をもって、応用シミュレーション課程を終了する。」

 

静かな声が室内に響く。

 

「最後の課目だ。」

 

大型モニターに演習区域が映し出される。

 

市街地。

 

河川。

 

森林。

 

この三か月で何度も見てきた地形だった。

 

「課目。」

 

「目標地点の制圧。」

 

「以上。」

 

板垣はそれ以上説明しなかった。

 

 

《シミュレーション開始》

 

「第一小隊、前進。」

 

一ノ瀬の号令で二十機が動き出す。

 

通信は少ない。

 

橘は右側を確認し、必要な情報だけを伝える。

 

理沙は最後尾を見守りながら、班員の動きを整える。

 

九条は第三班を率い、全体との間隔を保つ。

 

武田は自然と周囲へ視線を巡らせていた。

 

誰かの指示を待つことはない。

 

自分の役目を理解し、その役目を果たす。

 

それが今の第一小隊だった。

 

目標地点を目前にして、敵影が現れる。

 

「第一班、前へ。」

 

「第二班、援護。」

 

「第三班、中央維持。」

 

「第四班、後方警戒。」

 

四人の班長の声が交差する。

 

武田は敵機へ照準を向ける。

 

だが、視界の端では真壁が左を押さえ、朝倉が前へ出ている。

 

(任せられる。)

 

そう思えた。

 

だから武田は、自分が見るべき方向へ視線を戻した。

 

《課目達成》

 

表示が浮かぶ。

 

誰も歓声を上げなかった。

 

それぞれが静かにシミュレーターから降りる。

 

 

板垣は演習記録を確認し、ゆっくりと候補生たちを見渡した。

 

「七月。」

 

「お前たちは四つの班だった。」

 

誰も動かない。

 

「八月。」

 

「小隊になろうとした。」

 

武田は自然と一ノ瀬たち四人の班長へ目を向ける。

 

板垣は静かに続けた。

 

「そして今日。」

 

短い沈黙。

 

「第一小隊として戦っていた。」

 

その一言だけだった。

 

だが、一ノ瀬は小さく目を閉じた。

 

橘も。

 

九条も。

 

理沙も。

 

誰も表情は変えない。

 

それでも、その言葉の重みは十分に伝わっていた。

 

「以上。」

 

板垣は教壇を降りる。

 

 

訓練終了後。

 

武田たちはシミュレーター棟を後にする。

 

朝倉が空を見上げた。

 

「終わっちまったな。」

 

「応用シミュレーション。」

 

真壁が笑う。

 

「まだ終わりじゃない。」

 

「次は総合演習だ。」

 

理沙が振り返る。

 

「もっと忙しくなるよ!」

 

橘は小さくため息をつく。

 

「その前に教範を読み直さないと。」

 

その言葉に、理沙が笑った。

 

「また教範?」

 

橘も少しだけ口元を緩める。

 

少し前なら、それだけで驚いたかもしれない。

 

武田はそんな四人を見ながら歩く。

 

一ノ瀬は少し前を歩いていた。

 

その背中を追う班長たち。

 

さらにその後ろを歩く二十人。

 

武田は思う。

 

七月、初めて小隊として動いた日。

 

あの時見えていたのは、「四つの班」だった。

 

今、目の前にいるのは違う。

 

一つの方向へ歩く、二十人だった。

 

九月の風が、静かに吹き抜けた。

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