TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第六章 戦列 第66話 第一小隊

 

九月。

 

夏の暑さも少しずつ和らぎ始めていた。

 

応用シミュレーション課程、最終日。

 

第一小隊は、いつものようにシミュレーター室へ整列する。

 

誰も特別なことは口にしない。

 

だが、この三か月で積み重ねてきたものが、それぞれの表情に表れていた。

 

板垣が教壇へ立つ。

 

「本日をもって、応用シミュレーション課程を終了する。」

 

静かな声が室内に響く。

 

「最後の課目だ。」

 

大型モニターに演習区域が映し出される。

 

市街地。

 

河川。

 

森林。

 

この三か月で何度も見てきた地形だった。

 

「課目。」

 

「目標地点の制圧。」

 

「以上。」

 

板垣はそれ以上説明しなかった。

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

「第一小隊、前進。」

 

一ノ瀬の号令で二十機が動き出す。

 

通信は少ない。

 

橘は右側を確認し、必要な情報だけを伝える。

 

理沙は最後尾を見守りながら、班員の動きを整える。

 

九条は第三班を率い、全体との間隔を保つ。

 

武田は自然と周囲へ視線を巡らせていた。

 

誰かの指示を待つことはない。

 

自分の役目を理解し、その役目を果たす。

 

それが今の第一小隊だった。

 

目標地点を目前にして、敵影が現れる。

 

「第一班、前へ。」

 

「第二班、援護。」

 

「第三班、中央維持。」

 

「第四班、後方警戒。」

 

四人の班長の声が交差する。

 

武田は敵機へ照準を向ける。

 

だが、視界の端では真壁が左を押さえ、朝倉が前へ出ている。

 

(任せられる。)

 

そう思えた。

 

だから武田は、自分が見るべき方向へ視線を戻した。

 

《課目達成》

 

表示が浮かぶ。

 

誰も歓声を上げなかった。

 

それぞれが静かにシミュレーターから降りる。

 

◇

 

板垣は演習記録を確認し、ゆっくりと候補生たちを見渡した。

 

「七月。」

 

「お前たちは四つの班だった。」

 

誰も動かない。

 

「八月。」

 

「小隊になろうとした。」

 

武田は自然と一ノ瀬たち四人の班長へ目を向ける。

 

板垣は静かに続けた。

 

「そして今日。」

 

短い沈黙。

 

「第一小隊として戦っていた。」

 

その一言だけだった。

 

だが、一ノ瀬は小さく目を閉じた。

 

橘も。

 

九条も。

 

理沙も。

 

誰も表情は変えない。

 

それでも、その言葉の重みは十分に伝わっていた。

 

「以上。」

 

板垣は教壇を降りる。

 

◇

 

訓練終了後。

 

武田たちはシミュレーター棟を後にする。

 

朝倉が空を見上げた。

 

「終わっちまったな。」

 

「応用シミュレーション。」

 

真壁が笑う。

 

「まだ終わりじゃない。」

 

「次は総合演習だ。」

 

理沙が振り返る。

 

「もっと忙しくなるよ!」

 

橘は小さくため息をつく。

 

「その前に教範を読み直さないと。」

 

その言葉に、理沙が笑った。

 

「また教範?」

 

橘も少しだけ口元を緩める。

 

少し前なら、それだけで驚いたかもしれない。

 

武田はそんな四人を見ながら歩く。

 

一ノ瀬は少し前を歩いていた。

 

その背中を追う班長たち。

 

さらにその後ろを歩く二十人。

 

武田は思う。

 

七月、初めて小隊として動いた日。

 

あの時見えていたのは、「四つの班」だった。

 

今、目の前にいるのは違う。

 

一つの方向へ歩く、二十人だった。

 

九月の風が、静かに吹き抜けた。

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