TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
《シミュレーション開始》
第一小隊は市街地西側の防衛線へ展開した。
目の前にはコンクリート製のバリケード。
左右には倒壊した建物。
後方には、防衛対象となる補給拠点がある。
一ノ瀬の声が通信に流れる。
「第一小隊、配置開始。」
「第一班、中央。」
「第二班、右側面。」
「第三班、左側面。」
「第四班、後方支援。」
各班が迷いなく動く。
第六章で積み上げた連携は、もう自然なものになっていた。
武田は第三班の持ち場につく。
隣では真壁が静かに周囲を見渡している。
朝倉は遮蔽物の位置を確認しながら笑った。
「守るだけってのも、なんか変な感じだな。」
九条が短く返す。
「油断するな。」
「了解。」
朝倉はすぐに表情を引き締めた。
◇
《BETA接近》
警報が鳴り響く。
モニターには赤い反応が次々と現れる。
武田は思わず息をのんだ。
「多い……。」
最初に姿を見せたのは戦車級だった。
一体。
二体。
三体。
その後ろからさらに続く。
一ノ瀬が冷静に指示を飛ばす。
「射撃開始。」
第一小隊の一斉射撃。
先頭の戦車級が次々と撃破される。
武田も照準を合わせ、引き金を引いた。
《撃破判定》
一体。
さらにもう一体。
朝倉が笑う。
「いける!」
だが、その言葉を打ち消すように、警報が再び鳴った。
《第二波接近》
赤い反応が一気に増える。
武田は画面を見つめた。
「まだ来るのか……。」
九条は視線を変えない。
「撃ち続けろ。」
「隊形は維持。」
◇
第二波が防衛線へ迫る。
武田は夢中で引き金を引いた。
敵を減らさなければ。
そう思った。
一歩前へ出る。
もう一歩。
射界が広がる。
その瞬間だった。
「武田。」
九条の声。
短く、鋭い。
「戻れ。」
武田は反射的に振り返る。
自分がいた場所には、小さな隙間が生まれていた。
もし別方向から敵が来ていたら、その穴を突破されていた。
武田は急いで持ち場へ戻る。
鼓動だけが速くなる。
◇
波状攻撃は続いた。
第一小隊は誰一人持ち場を離れない。
橘は敵の接近方向を次々と伝える。
理沙は後方から各班の状況を確認し、支援位置を調整する。
一ノ瀬は全体を見渡しながら、必要な場所へ戦力を配分していた。
武田も今度は前だけを見なかった。
自分の担当区域。
左右の味方。
防衛線。
見るものは敵だけではない。
すると、不思議なことに焦りは消えていった。
《制限時間終了》
《任務達成》
表示が浮かぶ。
第一小隊は防衛線を守り切った。
◇
演習終了後。
板垣は記録映像を映し出した。
武田が前へ出た場面で映像が止まる。
「武田。」
「はい。」
「なぜ前へ出た。」
武田は少し迷いながら答える。
「敵を減らせると思いました。」
板垣は頷く。
「その考え自体は間違いじゃない。」
武田は顔を上げる。
「だが、お前が前へ出た瞬間、防衛線には穴ができた。」
映像には、武田が離れた持ち場が映っていた。
「もし、あそこへ別のBETAが来ていたら。」
板垣はそこで言葉を切る。
答えは誰もが分かっていた。
「防衛とは、敵を倒すことじゃない。」
静かな声が室内に響く。
「守るべき場所を、最後まで守ることだ。」
武田は映像を見つめたまま、小さく頷いた。
今日、自分は敵を倒すことばかり考えていた。
だが、本当に守るべきものは、その先にあった。
シミュレーター室を出る頃には、秋の風が吹いていた。
武田は空を見上げる。
戦うことと、守ること。
その二つは似ているようで、まったく違うものなのだと、初めて実感していた。