TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

78 / 91
第七章 戦場 第69話 索敵

 

朝の訓練場は、濃い霧に包まれていた。

 

シミュレーター室へ入った武田は、大型モニターを見上げる。

 

今日の演習区域は山岳地帯。

 

谷が入り組み、木々が視界を遮る地形だった。

 

板垣はモニターを切り替える。

 

「本日の課目は索敵。」

 

「敵を撃破することが目的ではない。」

 

候補生たちが静かに耳を傾ける。

 

「敵を発見し、接触を避けながら指定地点まで進出しろ。」

 

朝倉が小さく首をかしげた。

 

「戦わないんですか?」

 

板垣は短く答えた。

 

「戦う必要がなければ、戦うな。」

 

その一言に、武田は少し驚いた。

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は山道を進む。

 

左右は深い森。

 

見通しは悪い。

 

一ノ瀬は歩調を落とした。

 

「速度を半分。」

 

「周囲の確認を優先する。」

 

武田はゆっくりと視線を巡らせる。

 

昨日までとは違う。

 

敵がいない。

 

だからこそ落ち着かない。

 

「何も見えませんね。」

 

朝倉が通信で呟く。

 

その時だった。

 

「止まれ。」

 

橘の声。

 

第二班が一斉に足を止める。

 

橘は前方の斜面を見つめていた。

 

「……違和感があります。」

 

理沙が尋ねる。

 

「何が?」

 

「風です。」

 

誰も意味が分からなかった。

 

橘は静かに説明する。

 

「あの辺りだけ、木の揺れ方が違います。」

 

武田も目を凝らす。

 

確かに、一か所だけ枝葉の動きが不自然だった。

 

橘は通信を開く。

 

「一ノ瀬小隊長。」

 

「前方三百メートル。」

 

「敵が潜伏している可能性があります。」

 

「確認する。」

 

一ノ瀬はすぐに隊列を変更した。

 

第三班を迂回させる。

 

第四班は後方を警戒。

 

第一班は正面を維持する。

 

数十秒後。

 

センサーが反応した。

 

《BETA反応確認》

 

武田は思わず息をのむ。

 

本当にいた。

 

「すごい……。」

 

朝倉も驚きを隠せない。

 

橘は振り返らない。

 

ただ前を見たまま言った。

 

「敵は、見つけようとしても見えません。」

 

「違和感を探してください。」

 

その言葉が武田の胸に残った。

 

◇

 

第一小隊はBETAとの接触を避けながら進路を変更する。

 

戦闘は起きない。

 

だが、一度も敵に発見されることなく目的地へ到達した。

 

《任務達成》

 

静かな電子音が響く。

 

◇

 

演習終了後。

 

板垣は結果だけを確認した。

 

「敵の撃破数。」

 

大型モニターに表示される。

 

 

 

朝倉が苦笑した。

 

「一体も倒してません。」

 

板垣は候補生たちを見渡す。

 

「だからどうした。」

 

室内が静まる。

 

「任務は達成した。」

 

「それで十分だ。」

 

武田ははっとした。

 

敵を倒さなかった。

 

それでも成功だった。

 

「戦わないことも、戦術だ。」

 

板垣はそれだけ言うと教壇を離れた。

 

◇

 

帰り道。

 

武田は山の方を見上げた。

 

敵を探していたつもりだった。

 

でも橘が見ていたのは敵ではない。

 

風。

 

木々。

 

地形。

 

その小さな違和感だった。

 

武田は静かに思う。

 

敵を撃つ前に。

 

まず、敵を見つけなければならない。

 

その当たり前のことを、今日ようやく理解した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。