TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第69話 索敵

 

朝の訓練場は、濃い霧に包まれていた。

 

シミュレーター室へ入った武田は、大型モニターを見上げる。

 

今日の演習区域は山岳地帯。

 

谷が入り組み、木々が視界を遮る地形だった。

 

板垣はモニターを切り替える。

 

「本日の課目は索敵。」

 

「敵を撃破することが目的ではない。」

 

候補生たちが静かに耳を傾ける。

 

「敵を発見し、接触を避けながら指定地点まで進出しろ。」

 

朝倉が小さく首をかしげた。

 

「戦わないんですか?」

 

板垣は短く答えた。

 

「戦う必要がなければ、戦うな。」

 

その一言に、武田は少し驚いた。

 

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は山道を進む。

 

左右は深い森。

 

見通しは悪い。

 

一ノ瀬は歩調を落とした。

 

「速度を半分。」

 

「周囲の確認を優先する。」

 

武田はゆっくりと視線を巡らせる。

 

昨日までとは違う。

 

敵がいない。

 

だからこそ落ち着かない。

 

「何も見えませんね。」

 

朝倉が通信で呟く。

 

その時だった。

 

「止まれ。」

 

橘の声。

 

第二班が一斉に足を止める。

 

橘は前方の斜面を見つめていた。

 

「……違和感があります。」

 

理沙が尋ねる。

 

「何が?」

 

「風です。」

 

誰も意味が分からなかった。

 

橘は静かに説明する。

 

「あの辺りだけ、木の揺れ方が違います。」

 

武田も目を凝らす。

 

確かに、一か所だけ枝葉の動きが不自然だった。

 

橘は通信を開く。

 

「一ノ瀬小隊長。」

 

「前方三百メートル。」

 

「敵が潜伏している可能性があります。」

 

「確認する。」

 

一ノ瀬はすぐに隊列を変更した。

 

第三班を迂回させる。

 

第四班は後方を警戒。

 

第一班は正面を維持する。

 

数十秒後。

 

センサーが反応した。

 

《BETA反応確認》

 

武田は思わず息をのむ。

 

本当にいた。

 

「すごい……。」

 

朝倉も驚きを隠せない。

 

橘は振り返らない。

 

ただ前を見たまま言った。

 

「敵は、見つけようとしても見えません。」

 

「違和感を探してください。」

 

その言葉が武田の胸に残った。

 

 

第一小隊はBETAとの接触を避けながら進路を変更する。

 

戦闘は起きない。

 

だが、一度も敵に発見されることなく目的地へ到達した。

 

《任務達成》

 

静かな電子音が響く。

 

 

演習終了後。

 

板垣は結果だけを確認した。

 

「敵の撃破数。」

 

大型モニターに表示される。

 

 

 

朝倉が苦笑した。

 

「一体も倒してません。」

 

板垣は候補生たちを見渡す。

 

「だからどうした。」

 

室内が静まる。

 

「任務は達成した。」

 

「それで十分だ。」

 

武田ははっとした。

 

敵を倒さなかった。

 

それでも成功だった。

 

「戦わないことも、戦術だ。」

 

板垣はそれだけ言うと教壇を離れた。

 

 

帰り道。

 

武田は山の方を見上げた。

 

敵を探していたつもりだった。

 

でも橘が見ていたのは敵ではない。

 

風。

 

木々。

 

地形。

 

その小さな違和感だった。

 

武田は静かに思う。

 

敵を撃つ前に。

 

まず、敵を見つけなければならない。

 

その当たり前のことを、今日ようやく理解した。

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