TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
翌日のシミュレーター室。
大型モニターには、新たな演習内容が表示されていた。
『継戦演習』
武田は首をかしげる。
「継戦……?」
聞き慣れない言葉だった。
板垣が教壇へ立つ。
「戦いは、始めることより続けることの方が難しい。」
モニターが切り替わる。
演習区域は広大な平原。
第一小隊は前線基地を出発し、複数の防衛地点を経由しながら最終目標を目指す。
「制限時間は九十分。」
「途中で補給ポイントを利用しても構わない。」
「ただし、補給には時間がかかる。」
板垣は候補生たちを見回した。
「補給するか、前進するか。」
「判断するのは、お前たちだ。」
◇
《シミュレーション開始》
第一小隊は一定の間隔を保ちながら前進する。
序盤は順調だった。
散発的に現れるBETAを各班が確実に撃破していく。
「順調ですね。」
武田が通信で言う。
九条は短く答えた。
「まだ始まったばかりだ。」
◇
開始から三十分。
橘から報告が入る。
「第一班、弾薬残量六〇パーセント。」
「第二班、五五パーセント。」
理沙も続ける。
「第四班も半分くらい!」
武田は画面の残弾表示を見る。
思っていたより減っている。
朝倉が笑う。
「まだ半分もあるじゃん。」
真壁は首を振った。
「あと半分しかない。」
その言葉に武田は黙る。
同じ数字でも、考え方が違う。
◇
さらに前進すると、BETAの数が増え始めた。
武田は確実に狙いを定める。
以前なら連射していた。
だが今日は違う。
一発。
また一発。
無駄撃ちはしない。
それでも残弾は少しずつ減っていく。
橘から通信が入る。
「このままでは最終目標前で弾薬が不足します。」
一ノ瀬は地図を見つめた。
補給ポイントまでは近い。
しかし立ち寄れば時間を失う。
進めば弾薬が足りない可能性がある。
朝倉が通信を入れる。
「小隊長、このまま行きましょう!」
「勢いがあるうちに突破できます!」
一瞬、通信が静かになる。
一ノ瀬は答えた。
「補給ポイントへ向かう。」
朝倉は少し悔しそうだった。
しかし誰も異論は口にしない。
◇
補給には五分を要した。
画面のタイマーだけが静かに減っていく。
武田は落ち着かなかった。
「止まっていていいのかな……。」
理沙が笑う。
「焦っても弾は増えないよ。」
その言葉に武田も思わず笑った。
◇
補給を終えた第一小隊は再び前進する。
最終防衛線では、それまでで最も多いBETA群が待ち受けていた。
だが今度は違う。
十分な弾薬。
十分な体勢。
第一小隊は慌てることなく敵を迎え撃つ。
《任務達成》
静かな電子音が響いた。
◇
演習終了後。
板垣は結果を確認する。
「補給を選択した理由は。」
一ノ瀬が答える。
「任務を最後まで遂行するためです。」
板垣は頷いた。
「その通りだ。」
候補生たちへ視線を向ける。
「戦場では、勢いだけでは勝てない。」
「戦い続けられる者が、生き残る。」
武田は自分の残弾表示を思い出す。
撃つことだけを考えていた頃の自分なら、きっと補給を拒んでいただろう。
今は違う。
任務を終えるまでが戦いなのだ。
シミュレーター室を出ると、夕暮れの空が赤く染まっていた。
武田は静かに歩きながら思う。
戦う力だけでは足りない。
戦い続ける力も、衛士には必要なのだ。