TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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プロローグ 約束 第八話「敗北」

試験終了から二時間後。

 

技術本部庁舎、第一会議室。

 

窓から差し込む冬の日差しが、長机の上に二つの資料を照らしていた。

 

一冊は、

 

Type-00 武御雷 最終評価報告書

 

もう一冊は、

 

Type-X99 建御名方 最終評価報告書

 

部屋には帝国軍参謀本部、斯衛軍、技術本部、開発局の責任者が顔を揃えていた。

 

誰も感情では話さない。

 

机の上にあるのは、数年に及ぶ試験で積み重ねられた数字だけだった。

 

議長が静かに口を開く。

 

「総合評価を報告する。」

 

一枚目の資料が読み上げられる。

 

「武御雷。」

 

「近接戦闘性能、優秀。」

 

「射撃管制性能、優秀。」

 

「操縦安定性、優秀。」

 

「整備性、優秀。」

 

「量産性、優秀。」

 

一つひとつ、淡々と評価が続く。

 

誰も異論を挟まない。

 

武御雷は、期待された性能をすべて満たしていた。

 

続いて二冊目が開かれる。

 

「建御名方。」

 

「運動性能、極めて優秀。」

 

「回避性能、極めて優秀。」

 

「機体応答性、極めて優秀。」

 

そこで議長の声が止まる。

 

一枚、資料をめくる。

 

「ただし。」

 

「試験衛士全員が、十分な性能を発揮できず。」

 

「現時点での実戦運用は困難と判断する。」

 

部屋は静まり返っていた。

 

誰も武田を見ない。

 

その必要がなかった。

 

結果は、誰の目にも明らかだった。

 

議長がゆっくりと結論を読み上げる。

 

「帝国軍次期主力戦術機として。」

 

「武御雷を正式採用する。」

 

静かな拍手が起こる。

 

短く。

 

控えめな拍手だった。

 

武御雷開発チームが立ち上がり、一礼する。

 

武田も拍手を送った。

 

林雪華は、その横顔を見つめていた。

 

悔しそうな表情はない。

 

怒りもない。

 

ただ静かに拍手を送っている。

 

議長が武田へ視線を向ける。

 

「武田主任。」

 

「ご意見はありますか。」

 

武田は静かに立ち上がった。

 

部屋中の視線が集まる。

 

彼は一度、武御雷の評価書へ目を向けた。

 

そして、ゆっくりと口を開く。

 

「ありません。」

 

その一言で終わるかと思われた。

 

だが武田は続ける。

 

「武御雷は、今の帝国軍に必要な戦術機です。」

 

「性能。」

 

「信頼性。」

 

「量産性。」

 

「どれを取っても素晴らしい。」

 

武御雷開発責任者が、わずかに頭を下げる。

 

武田も軽く会釈を返した。

 

敵ではない。

 

同じ技術者だった。

 

「本日の結果に異論はありません。」

 

会議室に静寂が戻る。

 

武田は一度だけ息をついた。

 

「ですが。」

 

全員が顔を上げる。

 

「戦い方は変わります。」

 

「戦術も変わります。」

 

「衛士も変わります。」

 

「その時代が来た時。」

 

武田は建御名方の評価書へ手を置いた。

 

「この機体が必要になる日も、必ず来ます。」

 

誰も返事をしなかった。

 

否定する者もいない。

 

肯定する者もいない。

 

ただ、その言葉だけが静かに部屋へ残った。

 

会議は終了した。

 

夕暮れ。

 

開発棟の格納庫。

 

建御名方は照明の落ちた格納庫で静かに佇んでいた。

 

黒い装甲は夕日に照らされ、深い藍色に染まっている。

 

武田は機体の足元に立ち、見上げていた。

 

林が隣へ来る。

 

「終わりましたね。」

 

「ああ。」

 

「悔しくありませんか。」

 

武田は少し考え、笑った。

 

「もちろん悔しい。」

 

「何年もかけて作った機体だからね。」

 

林は黙って聞いている。

 

武田は建御名方を見上げたまま続けた。

 

「でも。」

 

「今日負けたのは、この機体じゃない。」

 

「私たちの考え方だ。」

 

冬の夕日が、ゆっくりと傾いていく。

 

「だから、いつか。」

 

武田は黒い装甲へそっと手を置く。

 

「誰かが、この考え方を証明してくれる。」

 

林は小さく笑った。

 

「信じているんですね。」

 

武田も笑う。

 

「ああ。」

 

「この機体じゃない。」

 

「人を。」

 

格納庫の照明が一つずつ消えていく。

 

最後の灯りが落ちる直前。

 

黒い戦術機だけが、静かに闇の中へ溶けていった。

 

その名を呼ぶ者は、もう誰もいなかった。

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