TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
「本日の課目。」
板垣がモニターを切り替える。
山岳地帯。
深い渓谷。
一本の橋だけが両岸をつないでいた。
「目的地は谷の向こう側。」
「なお、演習中は地形が変化する可能性がある。」
武田は少し首をかしげた。
地形が変わる?
そんな演習は初めてだった。
「以上。」
板垣はそれ以上説明しなかった。
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《シミュレーション開始》
第一小隊は橋を渡り始める。
第一班。
第二班。
第三班。
第四班。
順番に進んでいく。
武田は第三班の最後尾を歩いていた。
その時だった。
轟音が響く。
橋の中央が崩れ落ちた。
「何だ!?」
武田は振り返る。
向こう岸には第一班と第二班。
こちら側には第三班と第四班。
完全に分断された。
「状況報告。」
一ノ瀬の声が通信へ流れる。
橘が即座に答える。
「第一、第二班は目的地側に取り残されました。」
理沙も報告する。
「第三、第四班は渡れません!」
武田は谷を見下ろいた。
橋は完全に失われている。
飛び越えられる距離ではない。
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その時、通信に雑音が混じった。
《通信障害発生》
一ノ瀬の声が途切れる。
「……各班……判断……」
そこで完全に切れた。
静寂。
武田は息をのんだ。
小隊長の指示が届かない。
朝倉が九条を見る。
「班長……。」
九条は谷の向こうを見つめる。
助けに行きたい。
だが、道はない。
数秒の沈黙。
九条は静かに口を開いた。
「第三班。」
「第四班。」
「ここからは俺が指揮を執る。」
理沙は力強く頷いた。
「了解。」
武田も返事をする。
「了解!」
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BETA反応。
谷沿いの斜面から複数接近。
九条はすぐに地図を見る。
「第四班。」
「後方警戒。」
「了解!」
「第三班。」
「この尾根を使って迂回する。」
朝倉が驚く。
「でも目的地と逆です!」
九条は迷わない。
「今向かえば挟撃される。」
「生き残る道を選ぶ。」
武田はその言葉を聞きながら地図を見た。
確かに遠回りになる。
でも安全だった。
「移動。」
九条が歩き始める。
誰も異論は言わなかった。
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険しい尾根を進む。
視界は悪い。
武田は先頭付近で周囲を警戒していた。
その時、小さな機影が見えた。
「班長!」
「左上!」
九条はすぐに停止を命じる。
全員が身を伏せる。
数秒後。
要撃級の群れが尾根を横切っていく。
誰一人見つからない。
朝倉が小さく息を吐いた。
「危なかった……。」
九条は武田を見る。
短く頷くだけだった。
その頷きだけで十分だった。
武田は、自分の判断が班を救ったことを理解した。
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数十分後。
通信が回復する。
「……第三班、応答しろ。」
一ノ瀬の声だった。
九条はすぐに答える。
「第三班、第四班とも健在。」
短い沈黙のあと、一ノ瀬が言う。
「よかった。」
その一言に、武田は思わず笑みを浮かべた。
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《任務達成》
第一小隊は、全員無事に目的地へ到達した。
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演習終了後。
板垣は九条へ視線を向ける。
「なぜ迂回した。」
九条は答える。
「最短距離は最善ではありません。」
「部隊を失わないことを優先しました。」
板垣は小さく頷く。
「それでいい。」
それだけだった。
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帰り道。
武田は今日の演習を思い返していた。
橋は落ちた。
通信も切れた。
教官も助けてくれない。
それでも第一小隊は止まらなかった。
武田は九条の背中を見る。
班長とは。
命令する人ではない。
仲間が進むべき道を決める人。
そう思いながら、秋風の中を歩き続けた。