TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第72話 孤立

 

「本日の課目。」

 

板垣がモニターを切り替える。

 

山岳地帯。

 

深い渓谷。

 

一本の橋だけが両岸をつないでいた。

 

「目的地は谷の向こう側。」

 

「なお、演習中は地形が変化する可能性がある。」

 

武田は少し首をかしげた。

 

地形が変わる?

 

そんな演習は初めてだった。

 

「以上。」

 

板垣はそれ以上説明しなかった。

 

---

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は橋を渡り始める。

 

第一班。

 

第二班。

 

第三班。

 

第四班。

 

順番に進んでいく。

 

武田は第三班の最後尾を歩いていた。

 

その時だった。

 

轟音が響く。

 

橋の中央が崩れ落ちた。

 

「何だ!?」

 

武田は振り返る。

 

向こう岸には第一班と第二班。

 

こちら側には第三班と第四班。

 

完全に分断された。

 

「状況報告。」

 

一ノ瀬の声が通信へ流れる。

 

橘が即座に答える。

 

「第一、第二班は目的地側に取り残されました。」

 

理沙も報告する。

 

「第三、第四班は渡れません!」

 

武田は谷を見下ろいた。

 

橋は完全に失われている。

 

飛び越えられる距離ではない。

 

---

 

その時、通信に雑音が混じった。

 

《通信障害発生》

 

一ノ瀬の声が途切れる。

 

「……各班……判断……」

 

そこで完全に切れた。

 

静寂。

 

武田は息をのんだ。

 

小隊長の指示が届かない。

 

朝倉が九条を見る。

 

「班長……。」

 

九条は谷の向こうを見つめる。

 

助けに行きたい。

 

だが、道はない。

 

数秒の沈黙。

 

九条は静かに口を開いた。

 

「第三班。」

 

「第四班。」

 

「ここからは俺が指揮を執る。」

 

理沙は力強く頷いた。

 

「了解。」

 

武田も返事をする。

 

「了解!」

 

---

 

BETA反応。

 

谷沿いの斜面から複数接近。

 

九条はすぐに地図を見る。

 

「第四班。」

 

「後方警戒。」

 

「了解!」

 

「第三班。」

 

「この尾根を使って迂回する。」

 

朝倉が驚く。

 

「でも目的地と逆です!」

 

九条は迷わない。

 

「今向かえば挟撃される。」

 

「生き残る道を選ぶ。」

 

武田はその言葉を聞きながら地図を見た。

 

確かに遠回りになる。

 

でも安全だった。

 

「移動。」

 

九条が歩き始める。

 

誰も異論は言わなかった。

 

---

 

険しい尾根を進む。

 

視界は悪い。

 

武田は先頭付近で周囲を警戒していた。

 

その時、小さな機影が見えた。

 

「班長!」

 

「左上!」

 

九条はすぐに停止を命じる。

 

全員が身を伏せる。

 

数秒後。

 

要撃級の群れが尾根を横切っていく。

 

誰一人見つからない。

 

朝倉が小さく息を吐いた。

 

「危なかった……。」

 

九条は武田を見る。

 

短く頷くだけだった。

 

その頷きだけで十分だった。

 

武田は、自分の判断が班を救ったことを理解した。

 

---

 

数十分後。

 

通信が回復する。

 

「……第三班、応答しろ。」

 

一ノ瀬の声だった。

 

九条はすぐに答える。

 

「第三班、第四班とも健在。」

 

短い沈黙のあと、一ノ瀬が言う。

 

「よかった。」

 

その一言に、武田は思わず笑みを浮かべた。

 

---

 

《任務達成》

 

第一小隊は、全員無事に目的地へ到達した。

 

---

 

演習終了後。

 

板垣は九条へ視線を向ける。

 

「なぜ迂回した。」

 

九条は答える。

 

「最短距離は最善ではありません。」

 

「部隊を失わないことを優先しました。」

 

板垣は小さく頷く。

 

「それでいい。」

 

それだけだった。

 

---

 

帰り道。

 

武田は今日の演習を思い返していた。

 

橋は落ちた。

 

通信も切れた。

 

教官も助けてくれない。

 

それでも第一小隊は止まらなかった。

 

武田は九条の背中を見る。

 

班長とは。

 

命令する人ではない。

 

仲間が進むべき道を決める人。

 

そう思いながら、秋風の中を歩き続けた。

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