TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
「本日の課目。」
板垣はモニターに演習区域を映し出した。
山岳地帯の中央を一本の道路が走る。
その先には、防衛拠点。
左右には二つの進路が表示されていた。
「第一小隊は防衛拠点へ向かえ。」
「ただし、途中で状況は変化する。」
「以上。」
候補生たちはシミュレーターへ乗り込んだ。
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《シミュレーション開始》
第一小隊は予定どおり山道を進む。
序盤は順調だった。
橘が前方を索敵し、理沙が後方を確認する。
九条は第三班を率いて中央を維持する。
武田も落ち着いて周囲を警戒していた。
その時だった。
《友軍部隊より救援要請》
通信が入る。
「こちら第三防衛隊。」
「BETA群と交戦中。」
「支援を要請する。」
武田は思わず一ノ瀬を見る。
朝倉も通信で言った。
「助けに行きましょう!」
しかし、ほぼ同時に別の表示が現れる。
《防衛拠点まで残り八分》
敵の接近も続いている。
友軍を助ければ、防衛拠点への到着は遅れる。
防衛拠点を優先すれば、友軍は孤立する。
通信が静まり返った。
全員が一ノ瀬の判断を待っている。
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一ノ瀬は地図を見つめた。
救援地点。
防衛拠点。
敵の進路。
何度も頭の中で組み立てる。
橘が静かに言う。
「救援へ向かえば、任務達成は困難になります。」
理沙は唇を噛む。
「でも、見捨てるの……?」
朝倉は拳を握る。
「俺は助けたいです。」
九条は誰の意見にも加わらなかった。
ただ一ノ瀬を見ている。
一ノ瀬はゆっくり顔を上げた。
「……防衛拠点へ向かう。」
朝倉が息をのむ。
「小隊長……。」
一ノ瀬は続けた。
「俺たちの任務は、防衛拠点を守ることだ。」
「救援は別部隊へ引き継がれる。」
「第一小隊は任務を優先する。」
その声は静かだった。
だが、迷いは消えていた。
「前進。」
第一小隊は再び歩き始めた。
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防衛拠点へ到着すると、BETA群は目前まで迫っていた。
もし救援へ向かっていたら、到着は間に合わなかっただろう。
第一小隊は直ちに防衛戦を開始する。
橘が敵を捉える。
理沙が各班を支える。
九条が第三班を動かす。
武田も持ち場を守り抜いた。
《任務達成》
表示が浮かび上がる。
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演習終了後。
板垣は一ノ瀬へ尋ねた。
「救援へ向かわなかった理由は。」
一ノ瀬は答える。
「任務を達成できなければ、守れる命を守れません。」
板垣は数秒、一ノ瀬を見つめる。
「苦しい判断だったな。」
「はい。」
「それでいい。」
それだけだった。
---帰り道。
朝倉が一ノ瀬の隣へ並んだ。
「さっきは、すみません。」
一ノ瀬は小さく首を振る。
「謝ることじゃない。」
少し間を置いて、一ノ瀬は空を見上げた。
「俺も助けたかった。」
朝倉は驚いたように顔を上げる。
一ノ瀬は静かに続けた。
「でも、小隊長は気持ちだけで命令しちゃいけない。」
「任務を果たした先に、守れる命がある。」
朝倉はゆっくりとうなずいた。
「……はい。」
二人はそのまま歩き出す。
武田は少し後ろから、その背中を見つめていた。
春、入校したばかりの頃。
訓練場で初めて見た一ノ瀬の背中は、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも遠い存在だった。
今もその背中は変わらず真っ直ぐだった。
けれど、その背中には、迷い、悩み、それでも前へ進む覚悟が刻まれているように見えた。
武田は自然と歩幅を合わせる。
いつか、自分も。
あの背中に少しでも近づける日が来るのだろうか。
澄み切った秋空の下、第一小隊は静かに歩き続けた。