TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

82 / 91
第七章 戦場 第73話 決断

 

「本日の課目。」

 

板垣はモニターに演習区域を映し出した。

 

山岳地帯の中央を一本の道路が走る。

 

その先には、防衛拠点。

 

左右には二つの進路が表示されていた。

 

「第一小隊は防衛拠点へ向かえ。」

 

「ただし、途中で状況は変化する。」

 

「以上。」

 

候補生たちはシミュレーターへ乗り込んだ。

 

---

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は予定どおり山道を進む。

 

序盤は順調だった。

 

橘が前方を索敵し、理沙が後方を確認する。

 

九条は第三班を率いて中央を維持する。

 

武田も落ち着いて周囲を警戒していた。

 

その時だった。

 

《友軍部隊より救援要請》

 

通信が入る。

 

「こちら第三防衛隊。」

 

「BETA群と交戦中。」

 

「支援を要請する。」

 

武田は思わず一ノ瀬を見る。

 

朝倉も通信で言った。

 

「助けに行きましょう!」

 

しかし、ほぼ同時に別の表示が現れる。

 

《防衛拠点まで残り八分》

 

敵の接近も続いている。

 

友軍を助ければ、防衛拠点への到着は遅れる。

 

防衛拠点を優先すれば、友軍は孤立する。

 

通信が静まり返った。

 

全員が一ノ瀬の判断を待っている。

 

---

 

一ノ瀬は地図を見つめた。

 

救援地点。

 

防衛拠点。

 

敵の進路。

 

何度も頭の中で組み立てる。

 

橘が静かに言う。

 

「救援へ向かえば、任務達成は困難になります。」

 

理沙は唇を噛む。

 

「でも、見捨てるの……?」

 

朝倉は拳を握る。

 

「俺は助けたいです。」

 

九条は誰の意見にも加わらなかった。

 

ただ一ノ瀬を見ている。

 

一ノ瀬はゆっくり顔を上げた。

 

「……防衛拠点へ向かう。」

 

朝倉が息をのむ。

 

「小隊長……。」

 

一ノ瀬は続けた。

 

「俺たちの任務は、防衛拠点を守ることだ。」

 

「救援は別部隊へ引き継がれる。」

 

「第一小隊は任務を優先する。」

 

その声は静かだった。

 

だが、迷いは消えていた。

 

「前進。」

 

第一小隊は再び歩き始めた。

 

---

 

防衛拠点へ到着すると、BETA群は目前まで迫っていた。

 

もし救援へ向かっていたら、到着は間に合わなかっただろう。

 

第一小隊は直ちに防衛戦を開始する。

 

橘が敵を捉える。

 

理沙が各班を支える。

 

九条が第三班を動かす。

 

武田も持ち場を守り抜いた。

 

《任務達成》

 

表示が浮かび上がる。

 

---

 

演習終了後。

 

板垣は一ノ瀬へ尋ねた。

 

「救援へ向かわなかった理由は。」

 

一ノ瀬は答える。

 

「任務を達成できなければ、守れる命を守れません。」

 

板垣は数秒、一ノ瀬を見つめる。

 

「苦しい判断だったな。」

 

「はい。」

 

「それでいい。」

 

それだけだった。

 

---帰り道。

 

朝倉が一ノ瀬の隣へ並んだ。

 

「さっきは、すみません。」

 

一ノ瀬は小さく首を振る。

 

「謝ることじゃない。」

 

少し間を置いて、一ノ瀬は空を見上げた。

 

「俺も助けたかった。」

 

朝倉は驚いたように顔を上げる。

 

一ノ瀬は静かに続けた。

 

「でも、小隊長は気持ちだけで命令しちゃいけない。」

 

「任務を果たした先に、守れる命がある。」

 

朝倉はゆっくりとうなずいた。

 

「……はい。」

 

二人はそのまま歩き出す。

 

武田は少し後ろから、その背中を見つめていた。

 

春、入校したばかりの頃。

 

訓練場で初めて見た一ノ瀬の背中は、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも遠い存在だった。

 

今もその背中は変わらず真っ直ぐだった。

 

けれど、その背中には、迷い、悩み、それでも前へ進む覚悟が刻まれているように見えた。

 

武田は自然と歩幅を合わせる。

 

いつか、自分も。

 

あの背中に少しでも近づける日が来るのだろうか。

 

澄み切った秋空の下、第一小隊は静かに歩き続けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。