TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
十月も終わりに近づき、朝の空気は張り詰めるような冷たさを帯びていた。
第一小隊はシミュレーター室へ整列していた。
誰も無駄話はしない。
総合演習最後の課目。
それが今日だと全員が理解していた。
板垣が教壇へ立つ。
「本日の課目。」
大型モニターに広大な演習区域が映し出される。
山岳地帯。
市街地。
河川。
平原。
これまで経験した地形が、一つの演習区域にまとめられていた。
「総合演習。」
「任務は、防衛拠点の確保。」
「以上。」
それだけだった。
朝倉が小さく息を吐く。
「相変わらず説明が少ないな。」
真壁が苦笑する。
「つまり、自分たちで考えろってことだ。」
板垣は何も言わない。
その沈黙が答えだった。
◇
《シミュレーション開始》
第一小隊は山岳地帯から前進を開始する。
「第一班、先行。」
一ノ瀬の声に合わせ、二十機が動き出す。
以前なら、小隊長の指示を待つ場面だった。
しかし今は違う。
橘は地図を確認しながら第二班を右斜面へ展開させる。
「見通しを確保します。」
「了解。」
一ノ瀬は短く返す。
九条も第三班を左側へ誘導した。
「間隔を維持。」
武田たちは自然と隊形を整える。
理沙は最後尾を見回しながら通信を開いた。
「第四班、異常なし。」
「後方も問題ないよ。」
武田はふと気付く。
誰も慌てていない。
命令を待ってもいない。
班長たちが、それぞれ自分の役目を果たしている。
◇
山岳地帯を抜け、市街地へ入る。
橘が静かに報告した。
「前方に違和感があります。」
武田は建物の窓を見上げる。
以前なら敵影を探していただろう。
今は違う。
割れた窓。
倒れた電柱。
見えない場所。
自然と視線が動く。
「武田。」
九条が短く呼ぶ。
「右上。」
武田は屋上へ目を向けた。
わずかな反射光。
「敵反応!」
報告と同時に第一班が進路を変える。
待ち伏せは未然に防がれた。
九条は何も言わない。
武田も振り返らない。
当たり前のように持ち場へ戻る。
その一連の動きは、数か月前にはできなかったものだった。
◇
市街地を突破した第一小隊は河川地帯へ進出する。
理沙が通信を入れる。
「燃料残量、各班七〇パーセント前後。」
橘も続ける。
「弾薬は問題ありません。」
一ノ瀬は短く答える。
「このまま進む。」
判断は迷いなく下された。
誰も異論を口にしない。
信頼が、小隊全体に行き渡っていた。
◇
防衛拠点まで残り一キロ。
突然、警報が鳴り響く。
《多数のBETA反応》
大型モニターに赤い光点が広がる。
武田は思わず息をのんだ。
「……多い。」
これまでの演習とは比べものにならない。
赤い反応は、防衛拠点を包み込むように広がっていた。
一ノ瀬は地図を見つめる。
数秒だけ考え、静かに命じる。
「第一小隊。」
「防衛体勢。」
その一言で、二十機は迷うことなく持ち場へ散っていく。
武田は操縦桿を握り直した。
ここまで学んできたことを試す時が来た。
目の前には、押し寄せるBETA群。
第一小隊最後の演習が、今始まろうとしていた。