TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第74話 総合演習・前編

 

十月も終わりに近づき、朝の空気は張り詰めるような冷たさを帯びていた。

 

第一小隊はシミュレーター室へ整列していた。

 

誰も無駄話はしない。

 

総合演習最後の課目。

 

それが今日だと全員が理解していた。

 

板垣が教壇へ立つ。

 

「本日の課目。」

 

大型モニターに広大な演習区域が映し出される。

 

山岳地帯。

 

市街地。

 

河川。

 

平原。

 

これまで経験した地形が、一つの演習区域にまとめられていた。

 

「総合演習。」

 

「任務は、防衛拠点の確保。」

 

「以上。」

 

それだけだった。

 

朝倉が小さく息を吐く。

 

「相変わらず説明が少ないな。」

 

真壁が苦笑する。

 

「つまり、自分たちで考えろってことだ。」

 

板垣は何も言わない。

 

その沈黙が答えだった。

 

◇

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は山岳地帯から前進を開始する。

 

「第一班、先行。」

 

一ノ瀬の声に合わせ、二十機が動き出す。

 

以前なら、小隊長の指示を待つ場面だった。

 

しかし今は違う。

 

橘は地図を確認しながら第二班を右斜面へ展開させる。

 

「見通しを確保します。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬は短く返す。

 

九条も第三班を左側へ誘導した。

 

「間隔を維持。」

 

武田たちは自然と隊形を整える。

 

理沙は最後尾を見回しながら通信を開いた。

 

「第四班、異常なし。」

 

「後方も問題ないよ。」

 

武田はふと気付く。

 

誰も慌てていない。

 

命令を待ってもいない。

 

班長たちが、それぞれ自分の役目を果たしている。

 

◇

 

山岳地帯を抜け、市街地へ入る。

 

橘が静かに報告した。

 

「前方に違和感があります。」

 

武田は建物の窓を見上げる。

 

以前なら敵影を探していただろう。

 

今は違う。

 

割れた窓。

 

倒れた電柱。

 

見えない場所。

 

自然と視線が動く。

 

「武田。」

 

九条が短く呼ぶ。

 

「右上。」

 

武田は屋上へ目を向けた。

 

わずかな反射光。

 

「敵反応!」

 

報告と同時に第一班が進路を変える。

 

待ち伏せは未然に防がれた。

 

九条は何も言わない。

 

武田も振り返らない。

 

当たり前のように持ち場へ戻る。

 

その一連の動きは、数か月前にはできなかったものだった。

 

◇

 

市街地を突破した第一小隊は河川地帯へ進出する。

 

理沙が通信を入れる。

 

「燃料残量、各班七〇パーセント前後。」

 

橘も続ける。

 

「弾薬は問題ありません。」

 

一ノ瀬は短く答える。

 

「このまま進む。」

 

判断は迷いなく下された。

 

誰も異論を口にしない。

 

信頼が、小隊全体に行き渡っていた。

 

◇

 

防衛拠点まで残り一キロ。

 

突然、警報が鳴り響く。

 

《多数のBETA反応》

 

大型モニターに赤い光点が広がる。

 

武田は思わず息をのんだ。

 

「……多い。」

 

これまでの演習とは比べものにならない。

 

赤い反応は、防衛拠点を包み込むように広がっていた。

 

一ノ瀬は地図を見つめる。

 

数秒だけ考え、静かに命じる。

 

「第一小隊。」

 

「防衛体勢。」

 

その一言で、二十機は迷うことなく持ち場へ散っていく。

 

武田は操縦桿を握り直した。

 

ここまで学んできたことを試す時が来た。

 

目の前には、押し寄せるBETA群。

 

第一小隊最後の演習が、今始まろうとしていた。

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