TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第74話 総合演習・前編

 

十月も終わりに近づき、朝の空気は張り詰めるような冷たさを帯びていた。

 

第一小隊はシミュレーター室へ整列していた。

 

誰も無駄話はしない。

 

総合演習最後の課目。

 

それが今日だと全員が理解していた。

 

板垣が教壇へ立つ。

 

「本日の課目。」

 

大型モニターに広大な演習区域が映し出される。

 

山岳地帯。

 

市街地。

 

河川。

 

平原。

 

これまで経験した地形が、一つの演習区域にまとめられていた。

 

「総合演習。」

 

「任務は、防衛拠点の確保。」

 

「以上。」

 

それだけだった。

 

朝倉が小さく息を吐く。

 

「相変わらず説明が少ないな。」

 

真壁が苦笑する。

 

「つまり、自分たちで考えろってことだ。」

 

板垣は何も言わない。

 

その沈黙が答えだった。

 

 

《シミュレーション開始》

 

第一小隊は山岳地帯から前進を開始する。

 

「第一班、先行。」

 

一ノ瀬の声に合わせ、二十機が動き出す。

 

以前なら、小隊長の指示を待つ場面だった。

 

しかし今は違う。

 

橘は地図を確認しながら第二班を右斜面へ展開させる。

 

「見通しを確保します。」

 

「了解。」

 

一ノ瀬は短く返す。

 

九条も第三班を左側へ誘導した。

 

「間隔を維持。」

 

武田たちは自然と隊形を整える。

 

理沙は最後尾を見回しながら通信を開いた。

 

「第四班、異常なし。」

 

「後方も問題ないよ。」

 

武田はふと気付く。

 

誰も慌てていない。

 

命令を待ってもいない。

 

班長たちが、それぞれ自分の役目を果たしている。

 

 

山岳地帯を抜け、市街地へ入る。

 

橘が静かに報告した。

 

「前方に違和感があります。」

 

武田は建物の窓を見上げる。

 

以前なら敵影を探していただろう。

 

今は違う。

 

割れた窓。

 

倒れた電柱。

 

見えない場所。

 

自然と視線が動く。

 

「武田。」

 

九条が短く呼ぶ。

 

「右上。」

 

武田は屋上へ目を向けた。

 

わずかな反射光。

 

「敵反応!」

 

報告と同時に第一班が進路を変える。

 

待ち伏せは未然に防がれた。

 

九条は何も言わない。

 

武田も振り返らない。

 

当たり前のように持ち場へ戻る。

 

その一連の動きは、数か月前にはできなかったものだった。

 

 

市街地を突破した第一小隊は河川地帯へ進出する。

 

理沙が通信を入れる。

 

「燃料残量、各班七〇パーセント前後。」

 

橘も続ける。

 

「弾薬は問題ありません。」

 

一ノ瀬は短く答える。

 

「このまま進む。」

 

判断は迷いなく下された。

 

誰も異論を口にしない。

 

信頼が、小隊全体に行き渡っていた。

 

 

防衛拠点まで残り一キロ。

 

突然、警報が鳴り響く。

 

《多数のBETA反応》

 

大型モニターに赤い光点が広がる。

 

武田は思わず息をのんだ。

 

「……多い。」

 

これまでの演習とは比べものにならない。

 

赤い反応は、防衛拠点を包み込むように広がっていた。

 

一ノ瀬は地図を見つめる。

 

数秒だけ考え、静かに命じる。

 

「第一小隊。」

 

「防衛体勢。」

 

その一言で、二十機は迷うことなく持ち場へ散っていく。

 

武田は操縦桿を握り直した。

 

ここまで学んできたことを試す時が来た。

 

目の前には、押し寄せるBETA群。

 

第一小隊最後の演習が、今始まろうとしていた。

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