TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第75話 総合演習・後編

 

《演習継続》

 

防衛拠点を中心に、赤い敵影が次々と表示される。

 

第一小隊は、それぞれの持ち場へ展開した。

 

「第一班、正面を抑える。」

 

「第二班、右側面へ。」

 

「第三班、左側面。」

 

「第四班、後方警戒。」

 

一ノ瀬の指示は短い。

 

その言葉だけで、二十機が動く。

 

もう細かな説明は必要なかった。

 

◇

 

戦車級が最初の防衛線へ到達する。

 

「射撃開始。」

 

一斉射撃。

 

先頭集団が崩れる。

 

だが、その後ろから新たな群れが押し寄せた。

 

武田は照準を合わせる。

 

一発。

 

撃破。

 

もう一発。

 

撃破。

 

無駄撃ちはない。

 

敵だけを追うこともない。

 

右。

 

左。

 

味方。

 

残弾。

 

退路。

 

自然と視線が動いていた。

 

◇

 

「右側面、敵増加!」

 

橘の報告。

 

「確認。」

 

一ノ瀬は即座に答える。

 

「第二班で対応。」

 

「第三班は現在位置を維持。」

 

九条は短く命じた。

 

「持ち場を離れるな。」

 

「了解。」

 

武田は前へ出ようとは思わなかった。

 

自分が守るべき場所は、ここだ。

 

その判断に迷いはない。

 

◇

 

攻撃は三十分以上続いた。

 

敵は途切れない。

 

理沙の声が通信へ流れる。

 

「第四班、弾薬補給完了!」

 

「後方異常なし!」

 

その明るい声だけで、不思議と緊張が和らぐ。

 

朝倉が笑う。

 

「助かる!」

 

「まだ終わってないよ!」

 

理沙が笑い返す。

 

そのやり取りに、武田の肩から少しだけ力が抜けた。

 

◇

 

突然、左側の警戒センサーが鳴る。

 

武田は反射的に視線を向けた。

 

建物の陰。

 

わずかな土煙。

 

「班長!」

 

「左から来ます!」

 

九条は即座に応じる。

 

「迎撃準備。」

 

第三班が一斉に向きを変える。

 

数秒後。

 

建物の陰からBETA群が姿を現した。

 

もし発見が遅れていたら、防衛線の側面を突破されていただろう。

 

「射撃。」

 

短い命令。

 

第三班の射撃が敵を押し返す。

 

戦線は維持された。

 

九条は武田を見る。

 

何も言わない。

 

ただ一度、小さく頷いた。

 

武田も頷き返す。

 

それだけだった。

 

◇

 

《残り時間 一分》

 

敵の勢いは衰えない。

 

それでも第一小隊の隊形は崩れなかった。

 

一ノ瀬は前を見据えたまま言う。

 

「最後まで持ち場を守れ。」

 

「了解!」

 

二十人の声が重なる。

 

武田はその声を聞きながら操縦桿を握り締めた。

 

一年前なら、不安しかなかった。

 

今は違う。

 

隣には朝倉がいる。

 

真壁がいる。

 

九条がいる。

 

そして、この小隊なら守り切れるという確かな信頼があった。

 

《残り十秒》

 

九。

 

八。

 

七。

 

敵が迫る。

 

六。

 

五。

 

四。

 

誰も持ち場を離れない。

 

三。

 

二。

 

一。

 

《任務達成》

 

静かな電子音がシミュレーター室に響いた。

 

◇

 

ハッチが開く。

 

誰も歓声を上げなかった。

 

静かな達成感だけが残る。

 

板垣は演習記録を確認する。

 

長い沈黙。

 

候補生たちは黙って待つ。

 

やがて板垣は顔を上げた。

 

「総合演習課程。」

 

一拍置く。

 

「終了。」

 

再び沈黙が流れる。

 

板垣は教壇を離れかけ、足を止めた。

 

候補生たちへ振り返る。

 

「……よくやった。」

 

それだけ言い残し、静かに部屋を出ていった。

 

誰も声を出さない。

 

けれど、その一言だけで十分だった。

 

◇

 

訓練棟を出ると、冷たい秋風が頬を撫でた。

 

朝倉が空を見上げる。

 

「あと半年か。」

 

武田も空を見上げる。

 

春、期待と不安を抱えて校門をくぐった日。

 

初めて剣を握った日。

 

何度も失敗を重ねた演習。

 

相馬との敗北。

 

第一小隊として積み重ねてきた時間。

 

そのすべてが、今の自分につながっている。

 

遠くの空を、実戦部隊の戦術機が編隊を組んで飛んでいく。

 

武田はその姿を目で追った。

 

まだ届かない。

 

だが、いつか必ず。

 

「ああ。」

 

小さく答えると、武田は仲間たちと並んで歩き出した。

 

秋の空は、どこまでも高く澄み渡っていた。

 

第七章 戦場 完

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