TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
《演習継続》
防衛拠点を中心に、赤い敵影が次々と表示される。
第一小隊は、それぞれの持ち場へ展開した。
「第一班、正面を抑える。」
「第二班、右側面へ。」
「第三班、左側面。」
「第四班、後方警戒。」
一ノ瀬の指示は短い。
その言葉だけで、二十機が動く。
もう細かな説明は必要なかった。
◇
戦車級が最初の防衛線へ到達する。
「射撃開始。」
一斉射撃。
先頭集団が崩れる。
だが、その後ろから新たな群れが押し寄せた。
武田は照準を合わせる。
一発。
撃破。
もう一発。
撃破。
無駄撃ちはない。
敵だけを追うこともない。
右。
左。
味方。
残弾。
退路。
自然と視線が動いていた。
◇
「右側面、敵増加!」
橘の報告。
「確認。」
一ノ瀬は即座に答える。
「第二班で対応。」
「第三班は現在位置を維持。」
九条は短く命じた。
「持ち場を離れるな。」
「了解。」
武田は前へ出ようとは思わなかった。
自分が守るべき場所は、ここだ。
その判断に迷いはない。
◇
攻撃は三十分以上続いた。
敵は途切れない。
理沙の声が通信へ流れる。
「第四班、弾薬補給完了!」
「後方異常なし!」
その明るい声だけで、不思議と緊張が和らぐ。
朝倉が笑う。
「助かる!」
「まだ終わってないよ!」
理沙が笑い返す。
そのやり取りに、武田の肩から少しだけ力が抜けた。
◇
突然、左側の警戒センサーが鳴る。
武田は反射的に視線を向けた。
建物の陰。
わずかな土煙。
「班長!」
「左から来ます!」
九条は即座に応じる。
「迎撃準備。」
第三班が一斉に向きを変える。
数秒後。
建物の陰からBETA群が姿を現した。
もし発見が遅れていたら、防衛線の側面を突破されていただろう。
「射撃。」
短い命令。
第三班の射撃が敵を押し返す。
戦線は維持された。
九条は武田を見る。
何も言わない。
ただ一度、小さく頷いた。
武田も頷き返す。
それだけだった。
◇
《残り時間 一分》
敵の勢いは衰えない。
それでも第一小隊の隊形は崩れなかった。
一ノ瀬は前を見据えたまま言う。
「最後まで持ち場を守れ。」
「了解!」
二十人の声が重なる。
武田はその声を聞きながら操縦桿を握り締めた。
一年前なら、不安しかなかった。
今は違う。
隣には朝倉がいる。
真壁がいる。
九条がいる。
そして、この小隊なら守り切れるという確かな信頼があった。
《残り十秒》
九。
八。
七。
敵が迫る。
六。
五。
四。
誰も持ち場を離れない。
三。
二。
一。
《任務達成》
静かな電子音がシミュレーター室に響いた。
◇
ハッチが開く。
誰も歓声を上げなかった。
静かな達成感だけが残る。
板垣は演習記録を確認する。
長い沈黙。
候補生たちは黙って待つ。
やがて板垣は顔を上げた。
「総合演習課程。」
一拍置く。
「終了。」
再び沈黙が流れる。
板垣は教壇を離れかけ、足を止めた。
候補生たちへ振り返る。
「……よくやった。」
それだけ言い残し、静かに部屋を出ていった。
誰も声を出さない。
けれど、その一言だけで十分だった。
◇
訓練棟を出ると、冷たい秋風が頬を撫でた。
朝倉が空を見上げる。
「あと半年か。」
武田も空を見上げる。
春、期待と不安を抱えて校門をくぐった日。
初めて剣を握った日。
何度も失敗を重ねた演習。
相馬との敗北。
第一小隊として積み重ねてきた時間。
そのすべてが、今の自分につながっている。
遠くの空を、実戦部隊の戦術機が編隊を組んで飛んでいく。
武田はその姿を目で追った。
まだ届かない。
だが、いつか必ず。
「ああ。」
小さく答えると、武田は仲間たちと並んで歩き出した。
秋の空は、どこまでも高く澄み渡っていた。
第七章 戦場 完