TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第七章 戦場 第75話 総合演習・後編

 

《演習継続》

 

防衛拠点を中心に、赤い敵影が次々と表示される。

 

第一小隊は、それぞれの持ち場へ展開した。

 

「第一班、正面を抑える。」

 

「第二班、右側面へ。」

 

「第三班、左側面。」

 

「第四班、後方警戒。」

 

一ノ瀬の指示は短い。

 

その言葉だけで、二十機が動く。

 

もう細かな説明は必要なかった。

 

 

戦車級が最初の防衛線へ到達する。

 

「射撃開始。」

 

一斉射撃。

 

先頭集団が崩れる。

 

だが、その後ろから新たな群れが押し寄せた。

 

武田は照準を合わせる。

 

一発。

 

撃破。

 

もう一発。

 

撃破。

 

無駄撃ちはない。

 

敵だけを追うこともない。

 

右。

 

左。

 

味方。

 

残弾。

 

退路。

 

自然と視線が動いていた。

 

 

「右側面、敵増加!」

 

橘の報告。

 

「確認。」

 

一ノ瀬は即座に答える。

 

「第二班で対応。」

 

「第三班は現在位置を維持。」

 

九条は短く命じた。

 

「持ち場を離れるな。」

 

「了解。」

 

武田は前へ出ようとは思わなかった。

 

自分が守るべき場所は、ここだ。

 

その判断に迷いはない。

 

 

攻撃は三十分以上続いた。

 

敵は途切れない。

 

理沙の声が通信へ流れる。

 

「第四班、弾薬補給完了!」

 

「後方異常なし!」

 

その明るい声だけで、不思議と緊張が和らぐ。

 

朝倉が笑う。

 

「助かる!」

 

「まだ終わってないよ!」

 

理沙が笑い返す。

 

そのやり取りに、武田の肩から少しだけ力が抜けた。

 

 

突然、左側の警戒センサーが鳴る。

 

武田は反射的に視線を向けた。

 

建物の陰。

 

わずかな土煙。

 

「班長!」

 

「左から来ます!」

 

九条は即座に応じる。

 

「迎撃準備。」

 

第三班が一斉に向きを変える。

 

数秒後。

 

建物の陰からBETA群が姿を現した。

 

もし発見が遅れていたら、防衛線の側面を突破されていただろう。

 

「射撃。」

 

短い命令。

 

第三班の射撃が敵を押し返す。

 

戦線は維持された。

 

九条は武田を見る。

 

何も言わない。

 

ただ一度、小さく頷いた。

 

武田も頷き返す。

 

それだけだった。

 

 

《残り時間 一分》

 

敵の勢いは衰えない。

 

それでも第一小隊の隊形は崩れなかった。

 

一ノ瀬は前を見据えたまま言う。

 

「最後まで持ち場を守れ。」

 

「了解!」

 

二十人の声が重なる。

 

武田はその声を聞きながら操縦桿を握り締めた。

 

一年前なら、不安しかなかった。

 

今は違う。

 

隣には朝倉がいる。

 

真壁がいる。

 

九条がいる。

 

そして、この小隊なら守り切れるという確かな信頼があった。

 

《残り十秒》

 

九。

 

八。

 

七。

 

敵が迫る。

 

六。

 

五。

 

四。

 

誰も持ち場を離れない。

 

三。

 

二。

 

一。

 

《任務達成》

 

静かな電子音がシミュレーター室に響いた。

 

 

ハッチが開く。

 

誰も歓声を上げなかった。

 

静かな達成感だけが残る。

 

板垣は演習記録を確認する。

 

長い沈黙。

 

候補生たちは黙って待つ。

 

やがて板垣は顔を上げた。

 

「総合演習課程。」

 

一拍置く。

 

「終了。」

 

再び沈黙が流れる。

 

板垣は教壇を離れかけ、足を止めた。

 

候補生たちへ振り返る。

 

「……よくやった。」

 

それだけ言い残し、静かに部屋を出ていった。

 

誰も声を出さない。

 

けれど、その一言だけで十分だった。

 

 

訓練棟を出ると、冷たい秋風が頬を撫でた。

 

朝倉が空を見上げる。

 

「あと半年か。」

 

武田も空を見上げる。

 

春、期待と不安を抱えて校門をくぐった日。

 

初めて剣を握った日。

 

何度も失敗を重ねた演習。

 

相馬との敗北。

 

第一小隊として積み重ねてきた時間。

 

そのすべてが、今の自分につながっている。

 

遠くの空を、実戦部隊の戦術機が編隊を組んで飛んでいく。

 

武田はその姿を目で追った。

 

まだ届かない。

 

だが、いつか必ず。

 

「ああ。」

 

小さく答えると、武田は仲間たちと並んで歩き出した。

 

秋の空は、どこまでも高く澄み渡っていた。

 

第七章 戦場 完

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