TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第76話 冬の始まり

 

 一月。

 

 朝、窓の外には一面の銀世界が広がっていた。

 

 夜の間に降り積もった雪は、校舎も訓練場も白く覆い、訓練校をいつもより静かに見せていた。

 

 起床ラッパが鳴る。

 

 武田は布団を整え、制服に着替えると、静かに部屋を出た。

 

 春に入校した日とは、まるで違う景色だった。

 

 あの日は、何も分からないまま校門をくぐった。

 

 今は違う。

 

 仲間がいる。

 

 班がある。

 

 第一小隊がある。

 

 そして、シミュレーター課程の最後が近づいていた。

 

 

 朝食を終えた第一小隊は教室へ向かった。

 

 廊下では、他の候補生たちもどこか口数が少ない。

 

 今日、最終評価の日程と内容が通達される。

 

 それを全員が分かっていた。

 

 教室へ入ると、一ノ瀬はすでに席に着いていた。

 

 九条は窓の外の雪を見ている。

 

 橘は資料を確認し、理沙は班員たちにいつもの笑顔を向けていた。

 

 特別な朝のはずなのに、そこにはいつもの第一小隊があった。

 

 

 始業ラッパが鳴る。

 

「起立。」

 

 一ノ瀬の号令で全員が立ち上がる。

 

 板垣教官が教室へ入ってきた。

 

「着席。」

 

 候補生たちが腰を下ろす。

 

 板垣は教壇に立ち、静かに全員を見渡した。

 

「明日より、シミュレーター課程最終評価を開始する。」

 

 教室の空気が引き締まる。

 

「期間は二週間。」

 

「演習内容は、その都度各端末へ表示される。」

 

「評価するのは操縦だけではない。」

 

 一拍置く。

 

「判断。」

 

「連携。」

 

「責任。」

 

「そして、衛士としてどう行動するか。」

 

 武田は自然と背筋を伸ばした。

 

 この一年で教えられてきたことばかりだった。

 

 特別な試験ではない。

 

 今まで積み重ねてきたものを、明日から示すだけだ。

 

「以上。」

 

 板垣はそれ以上何も言わなかった。

 

 

 昼休み。

 

 食堂の一角で、朝倉が味噌汁をすすりながら息を吐いた。

 

「明日からか。」

 

 真壁が静かに答える。

 

「二週間、気は抜けないな。」

 

「分かってるよ。」

 

 朝倉はそう言いながらも、少しだけ笑った。

 

「でも、ここまで来たんだな。」

 

 武田はうなずく。

 

「ああ。」

 

 言葉にすると、それだけだった。

 

 けれど、その短い言葉の中に、春からの時間が詰まっていた。

 

 

 午後は、各機材の点検と評価期間中の確認事項に費やされた。

 

 派手な訓練はない。

 

 それでも、候補生たちの表情はいつもより真剣だった。

 

 明日から始まる最後の二週間。

 

 それを前にして、誰も軽い気持ちではいられなかった。

 

 

 夕方。

 

 候補生たちが寮へ戻っていく。

 

 武田も一度部屋へ戻ると、制服から道着へ着替えた。

 

 木剣を手に取り、静かに訓練場へ向かう。

 

 誰もいない訓練場。

 

 武田は木剣へ一礼した。

 

 構える。

 

 一歩踏み込む。

 

 一振り。

 

 乾いた音が冬の空気に響く。

 

 もう一振り。

 

 さらにもう一振り。

 

 力みはないか。

 

 踏み込みは浅くないか。

 

 一本ごとに、自分自身へ問いかける。

 

 誰かに見せるためではない。

 

 明日の評価のためだけでもない。

 

 いつしか、この積み重ねは武田の日常になっていた。

 

 窓の外では雪が降り続いている。

 

 木剣の音だけが、静かな訓練場に響いていた。

 

 明日から、最後の二週間が始まる。

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