TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第76話 冬の始まり

 

 一月。

 

 朝、窓の外には一面の銀世界が広がっていた。

 

 夜の間に降り積もった雪は、校舎も訓練場も白く覆い、訓練校をいつもより静かに見せていた。

 

 起床ラッパが鳴る。

 

 武田は布団を整え、制服に着替えると、静かに部屋を出た。

 

 春に入校した日とは、まるで違う景色だった。

 

 あの日は、何も分からないまま校門をくぐった。

 

 今は違う。

 

 仲間がいる。

 

 班がある。

 

 第一小隊がある。

 

 そして、シミュレーター課程の最後が近づいていた。

 

◇

 

 朝食を終えた第一小隊は教室へ向かった。

 

 廊下では、他の候補生たちもどこか口数が少ない。

 

 今日、最終評価の日程と内容が通達される。

 

 それを全員が分かっていた。

 

 教室へ入ると、一ノ瀬はすでに席に着いていた。

 

 九条は窓の外の雪を見ている。

 

 橘は資料を確認し、理沙は班員たちにいつもの笑顔を向けていた。

 

 特別な朝のはずなのに、そこにはいつもの第一小隊があった。

 

◇

 

 始業ラッパが鳴る。

 

「起立。」

 

 一ノ瀬の号令で全員が立ち上がる。

 

 板垣教官が教室へ入ってきた。

 

「着席。」

 

 候補生たちが腰を下ろす。

 

 板垣は教壇に立ち、静かに全員を見渡した。

 

「明日より、シミュレーター課程最終評価を開始する。」

 

 教室の空気が引き締まる。

 

「期間は二週間。」

 

「演習内容は、その都度各端末へ表示される。」

 

「評価するのは操縦だけではない。」

 

 一拍置く。

 

「判断。」

 

「連携。」

 

「責任。」

 

「そして、衛士としてどう行動するか。」

 

 武田は自然と背筋を伸ばした。

 

 この一年で教えられてきたことばかりだった。

 

 特別な試験ではない。

 

 今まで積み重ねてきたものを、明日から示すだけだ。

 

「以上。」

 

 板垣はそれ以上何も言わなかった。

 

◇

 

 昼休み。

 

 食堂の一角で、朝倉が味噌汁をすすりながら息を吐いた。

 

「明日からか。」

 

 真壁が静かに答える。

 

「二週間、気は抜けないな。」

 

「分かってるよ。」

 

 朝倉はそう言いながらも、少しだけ笑った。

 

「でも、ここまで来たんだな。」

 

 武田はうなずく。

 

「ああ。」

 

 言葉にすると、それだけだった。

 

 けれど、その短い言葉の中に、春からの時間が詰まっていた。

 

◇

 

 午後は、各機材の点検と評価期間中の確認事項に費やされた。

 

 派手な訓練はない。

 

 それでも、候補生たちの表情はいつもより真剣だった。

 

 明日から始まる最後の二週間。

 

 それを前にして、誰も軽い気持ちではいられなかった。

 

◇

 

 夕方。

 

 候補生たちが寮へ戻っていく。

 

 武田も一度部屋へ戻ると、制服から道着へ着替えた。

 

 木剣を手に取り、静かに訓練場へ向かう。

 

 誰もいない訓練場。

 

 武田は木剣へ一礼した。

 

 構える。

 

 一歩踏み込む。

 

 一振り。

 

 乾いた音が冬の空気に響く。

 

 もう一振り。

 

 さらにもう一振り。

 

 力みはないか。

 

 踏み込みは浅くないか。

 

 一本ごとに、自分自身へ問いかける。

 

 誰かに見せるためではない。

 

 明日の評価のためだけでもない。

 

 いつしか、この積み重ねは武田の日常になっていた。

 

 窓の外では雪が降り続いている。

 

 木剣の音だけが、静かな訓練場に響いていた。

 

 明日から、最後の二週間が始まる。

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