TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
一月。
朝、窓の外には一面の銀世界が広がっていた。
夜の間に降り積もった雪は、校舎も訓練場も白く覆い、訓練校をいつもより静かに見せていた。
起床ラッパが鳴る。
武田は布団を整え、制服に着替えると、静かに部屋を出た。
春に入校した日とは、まるで違う景色だった。
あの日は、何も分からないまま校門をくぐった。
今は違う。
仲間がいる。
班がある。
第一小隊がある。
そして、シミュレーター課程の最後が近づいていた。
◇
朝食を終えた第一小隊は教室へ向かった。
廊下では、他の候補生たちもどこか口数が少ない。
今日、最終評価の日程と内容が通達される。
それを全員が分かっていた。
教室へ入ると、一ノ瀬はすでに席に着いていた。
九条は窓の外の雪を見ている。
橘は資料を確認し、理沙は班員たちにいつもの笑顔を向けていた。
特別な朝のはずなのに、そこにはいつもの第一小隊があった。
◇
始業ラッパが鳴る。
「起立。」
一ノ瀬の号令で全員が立ち上がる。
板垣教官が教室へ入ってきた。
「着席。」
候補生たちが腰を下ろす。
板垣は教壇に立ち、静かに全員を見渡した。
「明日より、シミュレーター課程最終評価を開始する。」
教室の空気が引き締まる。
「期間は二週間。」
「演習内容は、その都度各端末へ表示される。」
「評価するのは操縦だけではない。」
一拍置く。
「判断。」
「連携。」
「責任。」
「そして、衛士としてどう行動するか。」
武田は自然と背筋を伸ばした。
この一年で教えられてきたことばかりだった。
特別な試験ではない。
今まで積み重ねてきたものを、明日から示すだけだ。
「以上。」
板垣はそれ以上何も言わなかった。
◇
昼休み。
食堂の一角で、朝倉が味噌汁をすすりながら息を吐いた。
「明日からか。」
真壁が静かに答える。
「二週間、気は抜けないな。」
「分かってるよ。」
朝倉はそう言いながらも、少しだけ笑った。
「でも、ここまで来たんだな。」
武田はうなずく。
「ああ。」
言葉にすると、それだけだった。
けれど、その短い言葉の中に、春からの時間が詰まっていた。
◇
午後は、各機材の点検と評価期間中の確認事項に費やされた。
派手な訓練はない。
それでも、候補生たちの表情はいつもより真剣だった。
明日から始まる最後の二週間。
それを前にして、誰も軽い気持ちではいられなかった。
◇
夕方。
候補生たちが寮へ戻っていく。
武田も一度部屋へ戻ると、制服から道着へ着替えた。
木剣を手に取り、静かに訓練場へ向かう。
誰もいない訓練場。
武田は木剣へ一礼した。
構える。
一歩踏み込む。
一振り。
乾いた音が冬の空気に響く。
もう一振り。
さらにもう一振り。
力みはないか。
踏み込みは浅くないか。
一本ごとに、自分自身へ問いかける。
誰かに見せるためではない。
明日の評価のためだけでもない。
いつしか、この積み重ねは武田の日常になっていた。
窓の外では雪が降り続いている。
木剣の音だけが、静かな訓練場に響いていた。
明日から、最後の二週間が始まる。