TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第77話 評価初日

 

 翌朝。

 

 降り積もった雪が訓練校を白く包んでいた。

 

 シミュレーター室には、二十名の候補生が静かに整列している。

 

 張り詰めた空気の中、板垣教官が教壇へ立った。

 

「始めろ。」

 

 それだけだった。

 

 候補生たちは無言でコクピットへ乗り込む。

 

 武田もシートへ身体を預けると、正面のモニターがゆっくりと点灯した。

 

---

 

《シミュレーター課程最終評価》

 

《第一日》

 

演習区域:山岳地帯

 

天候:降雪

 

任務:偵察ならびに敵情把握

 

制限時間:四十分

 

交戦は必要最小限とする。

 

---

 

 武田は静かに息を吐いた。

 

 任務は敵を倒すことではない。

 

 情報を持ち帰ることだ。

 

《シミュレーション開始》

 

 

 第一小隊は雪の積もる尾根沿いを進んでいた。

 

「第一班、先行。」

 

 一ノ瀬の指示で部隊が動く。

 

 第二班が右側の斜面を確認し、第三班が中央を維持する。

 

 理沙率いる第四班は後方を警戒した。

 

 雪が視界を遮る。

 

 木々の間から吹き込む風が、センサーにも細かなノイズを与えていた。

 

「視界不良。」

 

 橘が報告する。

 

「了解。」

 

 一ノ瀬は歩みを緩めた。

 

「速度を落とす。」

 

 全班が即座に従う。

 

 

 十分後。

 

 武田は尾根の先に視線を止めた。

 

 何かがおかしい。

 

 雪の積もり方が不自然だった。

 

「九条班長。」

 

「左前方、違和感があります。」

 

 九条は双眼センサーを向ける。

 

 数秒。

 

「確認。」

 

 雪の下に隠されたBETA反応が浮かび上がった。

 

 待ち伏せだった。

 

 もしそのまま進んでいれば、第一班が包囲されていた。

 

「小隊長。」

 

 九条が通信を開く。

 

「伏兵を確認。」

 

 一ノ瀬は即座に判断した。

 

「全班停止。」

 

「第二班、別ルートを確認。」

 

「第三班は第一班を援護。」

 

「了解。」

 

 誰も慌てない。

 

 誰も命令を待ち過ぎない。

 

 それぞれが自分の役目を理解して動いていた。

 

 

 別ルートを確保した第一小隊は、交戦を避けながら任務区域へ到達した。

 

 橘が敵配置を記録する。

 

 理沙が周辺の安全を確認する。

 

 武田は尾根の向こうに広がる敵集団を見つめた。

 

「敵群、進行方向は南西。」

 

「数、およそ二個中隊規模。」

 

 情報は一ノ瀬へ集まり、第一小隊は速やかに離脱を開始する。

 

 その途中、朝倉が通信を入れた。

 

「小隊長、追撃してきます!」

 

 後方から数体のBETAが接近していた。

 

 一ノ瀬は即座に命じる。

 

「第四班、時間を稼げ。」

 

「第三班援護。」

 

「第一・第二班は情報を持ち帰る。」

 

 武田は振り返った。

 

 助けに行きたい。

 

 だが任務は違う。

 

 第一小隊は一つの目的のために動いている。

 

 その判断を信じ、武田は前を向いた。

 

 

《任務達成》

 

 モニターに文字が表示される。

 

 情報は無事に持ち帰られた。

 

 制限時間内。

 

 損耗、軽微。

 

 

 シミュレーターから降りた候補生たちは整列する。

 

 板垣教官は評価表へ目を落とした。

 

「任務達成。」

 

「ただし、一件。」

 

 候補生たちの表情が引き締まる。

 

「第三班。」

 

「伏兵の発見は良かった。」

 

 武田は思わず顔を上げる。

 

「だが、報告までに二秒遅い。」

 

「実戦では、その二秒が命取りになる。」

 

「忘れるな。」

 

「……はい!」

 

 武田は力強く返事をした。

 

 厳しい言葉だった。

 

 だが、それは期待の裏返しでもある。

 

「本日の評価は以上。」

 

「明日は今日より難しくなる。」

 

 板垣はそれだけ言うと教室を後にした。

 

 

 夕方。

 

 武田はいつものように道着へ着替え、木剣を手に訓練場へ向かう。

 

 今日指摘された二秒。

 

 その二秒を埋めることは木剣ではできないかもしれない。

 

 それでも、積み重ねるしかない。

 

 一歩。

 

 一振り。

 

 また一歩。

 

 乾いた音が静かな訓練場へ響く。

 

 その音を、少し離れた廊下で富田教官が静かに聞いていた。

 

 扉を開けることはない。

 

 ただ耳を澄ませ、小さくうなずく。

 

「……続けていたか。」

 

 その一言だけを残し、富田教官は静かに歩き去った。

 

 武田は、そのことをまだ知らない。

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