TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
最終評価八日目。
朝の冷たい空気が、候補生たちの頬を刺す。
降り積もった雪は校舎の屋根を白く染め、訓練校は静かな朝を迎えていた。
食堂では朝倉が肩を回しながら苦笑する。
「さすがに疲れてきたな。」
理沙も小さく笑う。
「みんな同じだよ。」
橘は湯気の立つ味噌汁へ視線を落としたまま言った。
「あと少しです。」
真壁は静かにうなずく。
「気を抜くには、まだ早い。」
武田は黙って朝食を口へ運ぶ。
右手には新しいテーピングが巻かれていた。
誰も理由は聞かない。
第一小隊にとって、それぞれが積み重ねている努力は、もう特別なことではなかった。
◇
シミュレーター室。
板垣教官はいつものように短く告げる。
「始めろ。」
候補生たちは静かにコクピットへ乗り込んだ。
モニターが点灯する。
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《シミュレーター課程最終評価》
《第八日》
演習区域:複合地形
天候:曇天
任務:前線部隊支援および防衛拠点の維持
評価項目:状況判断・任務遂行・小隊連携
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《シミュレーション開始》
◇
第一小隊は前線部隊との合流を目指して前進していた。
その途中、通信が入る。
《友軍部隊より支援要請》
ほぼ同時に別の警報が鳴る。
《防衛拠点へ敵群接近》
二つの任務。
一つの小隊。
限られた時間。
一ノ瀬は地図を見つめる。
「第二班。」
「敵群の規模を確認。」
「了解。」
橘が索敵を開始する。
「第三班。」
「友軍との合流経路を確保。」
「了解。」
九条が短く応じる。
「第四班。」
「防衛拠点との通信を維持。」
「了解!」
理沙の返事が響く。
武田は九条とともに前へ出る。
状況は刻々と変化していく。
だが、不思議と焦りはなかった。
誰もが自分の役割を理解していたからだ。
◇
橘から報告が入る。
「敵群は主力ではありません。」
「陽動の可能性があります。」
一ノ瀬は即座に判断した。
「予定どおり前進。」
「友軍と合流後、防衛拠点へ向かう。」
命令は迷いなく伝わる。
第一小隊は隊形を崩さず前進した。
武田は周囲を警戒しながら思う。
半年前なら、この判断はできなかった。
今は違う。
第一小隊全員が同じ目的を理解している。
◇
友軍部隊との合流を果たした第一小隊は、防衛拠点へ到着する。
敵群は予想どおり陽動だった。
本命は別方向から接近していた。
しかし、第一小隊はすでに防衛線を展開している。
橘の索敵。
九条の指揮。
理沙の支援。
朝倉の果敢な前進。
そして一ノ瀬の判断。
全てが噛み合う。
《任務達成》
静かに表示が浮かび上がった。
◇
演習終了後。
候補生たちは整列する。
板垣教官は評価表へ目を通すと、顔を上げた。
「第一小隊。」
一ノ瀬たちが返事をする。
「判断は適切だった。」
それだけだった。
しかし、その短い一言には重みがあった。
第一小隊の誰もが、その意味を理解していた。
◇
夜。
武田はいつものように訓練場で木剣を振っていた。
一振り。
また一振り。
乾いた音だけが静かな空間へ響く。
訓練場の前を九条が通りかかる。
木剣の音に足を止める。
扉の向こうでは、武田が黙々と木剣を振り続けていた。
九条は何も言わない。
静かにその姿を見つめると、そのまま歩き去っていく。
武田は最後まで気付かなかった。
冬の夜。
訓練場には、変わらず木剣の音だけが響き続けていた。