TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第79話 評価八日目

 

 最終評価八日目。

 

 朝の冷たい空気が、候補生たちの頬を刺す。

 

 降り積もった雪は校舎の屋根を白く染め、訓練校は静かな朝を迎えていた。

 

 食堂では朝倉が肩を回しながら苦笑する。

 

「さすがに疲れてきたな。」

 

 理沙も小さく笑う。

 

「みんな同じだよ。」

 

 橘は湯気の立つ味噌汁へ視線を落としたまま言った。

 

「あと少しです。」

 

 真壁は静かにうなずく。

 

「気を抜くには、まだ早い。」

 

 武田は黙って朝食を口へ運ぶ。

 

 右手には新しいテーピングが巻かれていた。

 

 誰も理由は聞かない。

 

 第一小隊にとって、それぞれが積み重ねている努力は、もう特別なことではなかった。

 

 

 シミュレーター室。

 

 板垣教官はいつものように短く告げる。

 

「始めろ。」

 

 候補生たちは静かにコクピットへ乗り込んだ。

 

 モニターが点灯する。

 

---

 

《シミュレーター課程最終評価》

 

《第八日》

 

演習区域:複合地形

 

天候:曇天

 

任務:前線部隊支援および防衛拠点の維持

 

評価項目:状況判断・任務遂行・小隊連携

 

---

 

《シミュレーション開始》

 

 

 第一小隊は前線部隊との合流を目指して前進していた。

 

 その途中、通信が入る。

 

《友軍部隊より支援要請》

 

 ほぼ同時に別の警報が鳴る。

 

《防衛拠点へ敵群接近》

 

 二つの任務。

 

 一つの小隊。

 

 限られた時間。

 

 一ノ瀬は地図を見つめる。

 

「第二班。」

 

「敵群の規模を確認。」

 

「了解。」

 

 橘が索敵を開始する。

 

「第三班。」

 

「友軍との合流経路を確保。」

 

「了解。」

 

 九条が短く応じる。

 

「第四班。」

 

「防衛拠点との通信を維持。」

 

「了解!」

 

 理沙の返事が響く。

 

 武田は九条とともに前へ出る。

 

 状況は刻々と変化していく。

 

 だが、不思議と焦りはなかった。

 

 誰もが自分の役割を理解していたからだ。

 

 

 橘から報告が入る。

 

「敵群は主力ではありません。」

 

「陽動の可能性があります。」

 

 一ノ瀬は即座に判断した。

 

「予定どおり前進。」

 

「友軍と合流後、防衛拠点へ向かう。」

 

 命令は迷いなく伝わる。

 

 第一小隊は隊形を崩さず前進した。

 

 武田は周囲を警戒しながら思う。

 

 半年前なら、この判断はできなかった。

 

 今は違う。

 

 第一小隊全員が同じ目的を理解している。

 

 

 友軍部隊との合流を果たした第一小隊は、防衛拠点へ到着する。

 

 敵群は予想どおり陽動だった。

 

 本命は別方向から接近していた。

 

 しかし、第一小隊はすでに防衛線を展開している。

 

 橘の索敵。

 

 九条の指揮。

 

 理沙の支援。

 

 朝倉の果敢な前進。

 

 そして一ノ瀬の判断。

 

 全てが噛み合う。

 

《任務達成》

 

 静かに表示が浮かび上がった。

 

 

 演習終了後。

 

 候補生たちは整列する。

 

 板垣教官は評価表へ目を通すと、顔を上げた。

 

「第一小隊。」

 

 一ノ瀬たちが返事をする。

 

「判断は適切だった。」

 

 それだけだった。

 

 しかし、その短い一言には重みがあった。

 

 第一小隊の誰もが、その意味を理解していた。

 

 

 夜。

 

 武田はいつものように訓練場で木剣を振っていた。

 

 一振り。

 

 また一振り。

 

 乾いた音だけが静かな空間へ響く。

 

 訓練場の前を九条が通りかかる。

 

 木剣の音に足を止める。

 

 扉の向こうでは、武田が黙々と木剣を振り続けていた。

 

 九条は何も言わない。

 

 静かにその姿を見つめると、そのまま歩き去っていく。

 

 武田は最後まで気付かなかった。

 

 冬の夜。

 

 訓練場には、変わらず木剣の音だけが響き続けていた。

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