TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第80話 最終総合評価 前編

 

 一月。

 

 シミュレーター課程最終評価、最終日。

 

 まだ陽が昇りきらない訓練校は、静かな緊張感に包まれていた。

 

 武田は食堂の窓から外を眺める。

 

 一面の雪景色。

 

 春、期待と不安を胸に入校したあの日とは違う。

 

 目の前には、同じ時間を積み重ねてきた仲間たちがいる。

 

「いよいよ最後だな。」

 

 朝倉が湯飲みを置き、小さく息を吐く。

 

「終わると思うと、少し寂しいな。」

 

「まだ終わってない。」

 

 真壁が静かに返す。

 

「最後まで気を抜くな。」

 

「分かってるよ。」

 

 朝倉は苦笑しながら立ち上がった。

 

 一ノ瀬も席を立つ。

 

「行こう。」

 

 その一言で、第一小隊は食堂を後にした。

 

 

 シミュレーター室。

 

 二十機のコクピットが整然と並ぶ。

 

 候補生たちは静かに整列していた。

 

 板垣教官が教壇へ立つ。

 

 いつもと変わらない表情。

 

 しかし、その場の空気はこれまでとは違っていた。

 

「最終総合評価を実施する。」

 

 大型モニターが起動する。

 

 映し出されたのは、これまで見たどの演習区域よりも広大な戦域だった。

 

 山岳地帯。

 

 森林。

 

 河川。

 

 市街地。

 

 防衛拠点。

 

 これまで経験したすべての地形が一つにつながっている。

 

 さらに演習区域の各所には、複数の友軍部隊と敵予想進路が表示されていた。

 

 教室が静まり返る。

 

「制限時間、九十分。」

 

「任務は演習中に更新される。」

 

 一拍置く。

 

「以上。」

 

 板垣はそれ以上何も説明しなかった。

 

 候補生たちは無言のままコクピットへ乗り込む。

 

 武田は操縦席に腰を下ろし、静かに操縦桿を握った。

 

 これまで学んできたことを信じるしかない。

 

 

《シミュレーター課程 最終総合評価》

 

《演習開始》

 

 武御雷部隊が雪原へ展開する。

 

「第一班、先行。」

 

 一ノ瀬の号令。

 

「第二班、右側索敵。」

 

 橘が即座に応じる。

 

「第三班、中央を維持。」

 

 九条の声が落ち着いて響く。

 

「第四班、後方警戒。」

 

 理沙も短く返答した。

 

 二十機は乱れることなく雪原を進んでいく。

 

 その動きには迷いがない。

 

 班長が判断し、小隊長が全体を統率する。

 

 春とは別の部隊だった。

 

 

 山岳地帯へ入ると、視界は一気に狭くなった。

 

 尾根の向こうは見えない。

 

 吹雪が断続的にセンサーを乱す。

 

 橘から通信が入る。

 

「熱源反応なし。」

 

「ただし、索敵範囲が制限されています。」

 

「了解。」

 

 一ノ瀬は速度を落とすよう命じた。

 

 その判断に、誰も異論を挟まない。

 

 武田は九条とともに左側の斜面を警戒していた。

 

 雪を踏みしめる足音。

 

 風の音。

 

 センサーが拾う微かな反応。

 

 そのすべてへ意識を向ける。

 

 ふと、尾根の上に違和感を覚えた。

 

「九条班長。」

 

「尾根上部、不自然な反応があります。」

 

 九条も同じ方向へ視線を向ける。

 

「……確認。」

 

 次の瞬間。

 

 センサーへ複数の熱源が映し出された。

 

「伏兵。」

 

 九条は即座に通信を開く。

 

「小隊長、尾根上に敵部隊を確認。」

 

「数、十。」

 

 一ノ瀬の返答は迷いがなかった。

 

「交戦するな。」

 

「第二班、迂回路を確認。」

 

「第三班、その場で監視。」

 

「第一班は前進を継続する。」

 

「了解。」

 

 敵を倒すことが目的ではない。

 

 任務を達成すること。

 

 第一小隊は、その判断を共有したまま静かに動き続ける。

 

 

 演習開始から二十五分。

 

 突然、全機の通信機へ警報が鳴り響いた。

 

《緊急入電》

 

《友軍前衛部隊、BETA群と交戦》

 

《増援を要請する》

 

 それとほぼ同時に、新たな表示が現れる。

 

《防衛拠点方面 大規模敵群接近》

 

 戦況が、一変した。

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