TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
一月。
シミュレーター課程最終評価、最終日。
まだ陽が昇りきらない訓練校は、静かな緊張感に包まれていた。
武田は食堂の窓から外を眺める。
一面の雪景色。
春、期待と不安を胸に入校したあの日とは違う。
目の前には、同じ時間を積み重ねてきた仲間たちがいる。
「いよいよ最後だな。」
朝倉が湯飲みを置き、小さく息を吐く。
「終わると思うと、少し寂しいな。」
「まだ終わってない。」
真壁が静かに返す。
「最後まで気を抜くな。」
「分かってるよ。」
朝倉は苦笑しながら立ち上がった。
一ノ瀬も席を立つ。
「行こう。」
その一言で、第一小隊は食堂を後にした。
◇
シミュレーター室。
二十機のコクピットが整然と並ぶ。
候補生たちは静かに整列していた。
板垣教官が教壇へ立つ。
いつもと変わらない表情。
しかし、その場の空気はこれまでとは違っていた。
「最終総合評価を実施する。」
大型モニターが起動する。
映し出されたのは、これまで見たどの演習区域よりも広大な戦域だった。
山岳地帯。
森林。
河川。
市街地。
防衛拠点。
これまで経験したすべての地形が一つにつながっている。
さらに演習区域の各所には、複数の友軍部隊と敵予想進路が表示されていた。
教室が静まり返る。
「制限時間、九十分。」
「任務は演習中に更新される。」
一拍置く。
「以上。」
板垣はそれ以上何も説明しなかった。
候補生たちは無言のままコクピットへ乗り込む。
武田は操縦席に腰を下ろし、静かに操縦桿を握った。
これまで学んできたことを信じるしかない。
◇
《シミュレーター課程 最終総合評価》
《演習開始》
武御雷部隊が雪原へ展開する。
「第一班、先行。」
一ノ瀬の号令。
「第二班、右側索敵。」
橘が即座に応じる。
「第三班、中央を維持。」
九条の声が落ち着いて響く。
「第四班、後方警戒。」
理沙も短く返答した。
二十機は乱れることなく雪原を進んでいく。
その動きには迷いがない。
班長が判断し、小隊長が全体を統率する。
春とは別の部隊だった。
◇
山岳地帯へ入ると、視界は一気に狭くなった。
尾根の向こうは見えない。
吹雪が断続的にセンサーを乱す。
橘から通信が入る。
「熱源反応なし。」
「ただし、索敵範囲が制限されています。」
「了解。」
一ノ瀬は速度を落とすよう命じた。
その判断に、誰も異論を挟まない。
武田は九条とともに左側の斜面を警戒していた。
雪を踏みしめる足音。
風の音。
センサーが拾う微かな反応。
そのすべてへ意識を向ける。
ふと、尾根の上に違和感を覚えた。
「九条班長。」
「尾根上部、不自然な反応があります。」
九条も同じ方向へ視線を向ける。
「……確認。」
次の瞬間。
センサーへ複数の熱源が映し出された。
「伏兵。」
九条は即座に通信を開く。
「小隊長、尾根上に敵部隊を確認。」
「数、十。」
一ノ瀬の返答は迷いがなかった。
「交戦するな。」
「第二班、迂回路を確認。」
「第三班、その場で監視。」
「第一班は前進を継続する。」
「了解。」
敵を倒すことが目的ではない。
任務を達成すること。
第一小隊は、その判断を共有したまま静かに動き続ける。
◇
演習開始から二十五分。
突然、全機の通信機へ警報が鳴り響いた。
《緊急入電》
《友軍前衛部隊、BETA群と交戦》
《増援を要請する》
それとほぼ同時に、新たな表示が現れる。
《防衛拠点方面 大規模敵群接近》
戦況が、一変した。