TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第80話 最終総合評価 前編

 

 一月。

 

 シミュレーター課程最終評価、最終日。

 

 まだ陽が昇りきらない訓練校は、静かな緊張感に包まれていた。

 

 武田は食堂の窓から外を眺める。

 

 一面の雪景色。

 

 春、期待と不安を胸に入校したあの日とは違う。

 

 目の前には、同じ時間を積み重ねてきた仲間たちがいる。

 

「いよいよ最後だな。」

 

 朝倉が湯飲みを置き、小さく息を吐く。

 

「終わると思うと、少し寂しいな。」

 

「まだ終わってない。」

 

 真壁が静かに返す。

 

「最後まで気を抜くな。」

 

「分かってるよ。」

 

 朝倉は苦笑しながら立ち上がった。

 

 一ノ瀬も席を立つ。

 

「行こう。」

 

 その一言で、第一小隊は食堂を後にした。

 

◇

 

 シミュレーター室。

 

 二十機のコクピットが整然と並ぶ。

 

 候補生たちは静かに整列していた。

 

 板垣教官が教壇へ立つ。

 

 いつもと変わらない表情。

 

 しかし、その場の空気はこれまでとは違っていた。

 

「最終総合評価を実施する。」

 

 大型モニターが起動する。

 

 映し出されたのは、これまで見たどの演習区域よりも広大な戦域だった。

 

 山岳地帯。

 

 森林。

 

 河川。

 

 市街地。

 

 防衛拠点。

 

 これまで経験したすべての地形が一つにつながっている。

 

 さらに演習区域の各所には、複数の友軍部隊と敵予想進路が表示されていた。

 

 教室が静まり返る。

 

「制限時間、九十分。」

 

「任務は演習中に更新される。」

 

 一拍置く。

 

「以上。」

 

 板垣はそれ以上何も説明しなかった。

 

 候補生たちは無言のままコクピットへ乗り込む。

 

 武田は操縦席に腰を下ろし、静かに操縦桿を握った。

 

 これまで学んできたことを信じるしかない。

 

◇

 

《シミュレーター課程 最終総合評価》

 

《演習開始》

 

 武御雷部隊が雪原へ展開する。

 

「第一班、先行。」

 

 一ノ瀬の号令。

 

「第二班、右側索敵。」

 

 橘が即座に応じる。

 

「第三班、中央を維持。」

 

 九条の声が落ち着いて響く。

 

「第四班、後方警戒。」

 

 理沙も短く返答した。

 

 二十機は乱れることなく雪原を進んでいく。

 

 その動きには迷いがない。

 

 班長が判断し、小隊長が全体を統率する。

 

 春とは別の部隊だった。

 

◇

 

 山岳地帯へ入ると、視界は一気に狭くなった。

 

 尾根の向こうは見えない。

 

 吹雪が断続的にセンサーを乱す。

 

 橘から通信が入る。

 

「熱源反応なし。」

 

「ただし、索敵範囲が制限されています。」

 

「了解。」

 

 一ノ瀬は速度を落とすよう命じた。

 

 その判断に、誰も異論を挟まない。

 

 武田は九条とともに左側の斜面を警戒していた。

 

 雪を踏みしめる足音。

 

 風の音。

 

 センサーが拾う微かな反応。

 

 そのすべてへ意識を向ける。

 

 ふと、尾根の上に違和感を覚えた。

 

「九条班長。」

 

「尾根上部、不自然な反応があります。」

 

 九条も同じ方向へ視線を向ける。

 

「……確認。」

 

 次の瞬間。

 

 センサーへ複数の熱源が映し出された。

 

「伏兵。」

 

 九条は即座に通信を開く。

 

「小隊長、尾根上に敵部隊を確認。」

 

「数、十。」

 

 一ノ瀬の返答は迷いがなかった。

 

「交戦するな。」

 

「第二班、迂回路を確認。」

 

「第三班、その場で監視。」

 

「第一班は前進を継続する。」

 

「了解。」

 

 敵を倒すことが目的ではない。

 

 任務を達成すること。

 

 第一小隊は、その判断を共有したまま静かに動き続ける。

 

◇

 

 演習開始から二十五分。

 

 突然、全機の通信機へ警報が鳴り響いた。

 

《緊急入電》

 

《友軍前衛部隊、BETA群と交戦》

 

《増援を要請する》

 

 それとほぼ同時に、新たな表示が現れる。

 

《防衛拠点方面 大規模敵群接近》

 

 戦況が、一変した。

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