TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第81話 最終総合評価 後編

 

 《友軍前衛部隊、BETA群と交戦》

 

 《増援を要請する》

 

 《防衛拠点方面 大規模敵群接近》

 

 二つの情報が同時に表示される。

 

 シミュレーター内に緊張が走った。

 

 だが、第一小隊の隊列は乱れない。

 

 一ノ瀬は戦況図を見つめる。

 

 友軍前衛部隊は谷間で交戦中。

 

 防衛拠点までは約十分。

 

 敵主力は防衛拠点へ向かっている。

 

 数秒。

 

 その沈黙は、迷いではなかった。

 

「第一小隊。」

 

 一ノ瀬の声が響く。

 

「友軍と合流する。」

 

「ただし、交戦を長引かせるな。」

 

「敵を引き離し、防衛拠点へ向かう。」

 

「了解!」

 

 二十人の返答が重なる。

 

 

 第一小隊は速度を上げ、谷間へ進入した。

 

 爆発音。

 

 砲撃。

 

 友軍部隊は防御陣形を維持していたが、徐々に押し込まれている。

 

「第一班、左翼!」

 

「第二班、右側索敵!」

 

「第三班、中央支援!」

 

「第四班、後方援護!」

 

 命令と同時に各班が展開する。

 

 橘は敵の流れを読み、接近経路を次々と報告する。

 

「右斜面、増援三!」

 

「前方、高速種接近!」

 

 理沙は味方との通信を維持し、負傷機の位置を共有する。

 

 九条は第三班を率い、友軍が離脱するための通路を確保した。

 

 武田もその一角を守る。

 

 敵を追わない。

 

 前へ出過ぎない。

 

 任務は、友軍を救出すること。

 

 それだけを意識した。

 

 

「友軍部隊、離脱開始!」

 

 通信が入る。

 

 一ノ瀬は即座に命じる。

 

「全班、離脱援護!」

 

 第一小隊は後退する友軍を挟むように隊形を組む。

 

 最後の一機が安全圏へ入った瞬間、一ノ瀬が命じた。

 

「離脱!」

 

 誰一人遅れない。

 

 全機が一斉に進路を変え、防衛拠点へ向かう。

 

 

 防衛拠点まで残り二キロ。

 

 橘の声が響く。

 

「敵主力、接近!」

 

 平原の先に、無数のBETA反応。

 

 モニターが赤く染まる。

 

 朝倉が息をのんだ。

 

「多い……。」

 

 しかし、一ノ瀬の声は落ち着いていた。

 

「予定どおり迎撃する。」

 

 その一言だけで十分だった。

 

 第一小隊は防衛線を展開する。

 

 橘が敵の進路を読み、理沙が各班との通信を維持する。

 

 九条は第三班を動かし、防衛線の隙間を埋める。

 

 武田も持ち場を守り続けた。

 

 焦りはない。

 

 誰も無理に前へ出ない。

 

 誰も命令を待ちすぎない。

 

 それぞれが、自分の役割を果たしていた。

 

 

 時間だけが過ぎていく。

 

 敵を全滅させることはできない。

 

 それでも、防衛線は崩れない。

 

 やがて通信が入る。

 

《友軍主力部隊到着》

 

 その直後。

 

 モニターに白い文字が浮かび上がる。

 

《任務達成》

 

 シミュレーターの映像が静かに消えた。

 

 

 候補生たちはコクピットを降り、整列する。

 

 室内は静まり返っていた。

 

 板垣教官は評価表へ目を落とす。

 

 しばらく沈黙が続く。

 

 やがて顔を上げた。

 

「第一小隊。」

 

「任務は達成された。」

 

 候補生たちは静かに聞いている。

 

「敵を追わなかった。」

 

「友軍を見捨てなかった。」

 

「防衛拠点も守り抜いた。」

 

 一拍置く。

 

「……それでいい。」

 

 板垣は候補生たち一人ひとりを見渡した。

 

「シミュレーター課程で教えることは、ここまでだ。」

 

 その言葉に、誰も声を上げない。

 

 一ノ瀬が号令をかける。

 

「敬礼!」

 

 二十人の腕が一斉に上がる。

 

 春には揃わなかったその動きは、今は寸分の狂いもなかった。

 

 板垣は静かに敬礼を返す。

 

 その姿を見つめながら、武田は思う。

 

 この一年で学んだものは、操縦技術だけではない。

 

 仲間を信じること。

 

 任務を果たすこと。

 

 そして、一人ではなく、小隊として戦うこと。

 

 そのすべてが、この敬礼の中に込められていた。

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