TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ― 作:自己読み
《友軍前衛部隊、BETA群と交戦》
《増援を要請する》
《防衛拠点方面 大規模敵群接近》
二つの情報が同時に表示される。
シミュレーター内に緊張が走った。
だが、第一小隊の隊列は乱れない。
一ノ瀬は戦況図を見つめる。
友軍前衛部隊は谷間で交戦中。
防衛拠点までは約十分。
敵主力は防衛拠点へ向かっている。
数秒。
その沈黙は、迷いではなかった。
「第一小隊。」
一ノ瀬の声が響く。
「友軍と合流する。」
「ただし、交戦を長引かせるな。」
「敵を引き離し、防衛拠点へ向かう。」
「了解!」
二十人の返答が重なる。
◇
第一小隊は速度を上げ、谷間へ進入した。
爆発音。
砲撃。
友軍部隊は防御陣形を維持していたが、徐々に押し込まれている。
「第一班、左翼!」
「第二班、右側索敵!」
「第三班、中央支援!」
「第四班、後方援護!」
命令と同時に各班が展開する。
橘は敵の流れを読み、接近経路を次々と報告する。
「右斜面、増援三!」
「前方、高速種接近!」
理沙は味方との通信を維持し、負傷機の位置を共有する。
九条は第三班を率い、友軍が離脱するための通路を確保した。
武田もその一角を守る。
敵を追わない。
前へ出過ぎない。
任務は、友軍を救出すること。
それだけを意識した。
◇
「友軍部隊、離脱開始!」
通信が入る。
一ノ瀬は即座に命じる。
「全班、離脱援護!」
第一小隊は後退する友軍を挟むように隊形を組む。
最後の一機が安全圏へ入った瞬間、一ノ瀬が命じた。
「離脱!」
誰一人遅れない。
全機が一斉に進路を変え、防衛拠点へ向かう。
◇
防衛拠点まで残り二キロ。
橘の声が響く。
「敵主力、接近!」
平原の先に、無数のBETA反応。
モニターが赤く染まる。
朝倉が息をのんだ。
「多い……。」
しかし、一ノ瀬の声は落ち着いていた。
「予定どおり迎撃する。」
その一言だけで十分だった。
第一小隊は防衛線を展開する。
橘が敵の進路を読み、理沙が各班との通信を維持する。
九条は第三班を動かし、防衛線の隙間を埋める。
武田も持ち場を守り続けた。
焦りはない。
誰も無理に前へ出ない。
誰も命令を待ちすぎない。
それぞれが、自分の役割を果たしていた。
◇
時間だけが過ぎていく。
敵を全滅させることはできない。
それでも、防衛線は崩れない。
やがて通信が入る。
《友軍主力部隊到着》
その直後。
モニターに白い文字が浮かび上がる。
《任務達成》
シミュレーターの映像が静かに消えた。
◇
候補生たちはコクピットを降り、整列する。
室内は静まり返っていた。
板垣教官は評価表へ目を落とす。
しばらく沈黙が続く。
やがて顔を上げた。
「第一小隊。」
「任務は達成された。」
候補生たちは静かに聞いている。
「敵を追わなかった。」
「友軍を見捨てなかった。」
「防衛拠点も守り抜いた。」
一拍置く。
「……それでいい。」
板垣は候補生たち一人ひとりを見渡した。
「シミュレーター課程で教えることは、ここまでだ。」
その言葉に、誰も声を上げない。
一ノ瀬が号令をかける。
「敬礼!」
二十人の腕が一斉に上がる。
春には揃わなかったその動きは、今は寸分の狂いもなかった。
板垣は静かに敬礼を返す。
その姿を見つめながら、武田は思う。
この一年で学んだものは、操縦技術だけではない。
仲間を信じること。
任務を果たすこと。
そして、一人ではなく、小隊として戦うこと。
そのすべてが、この敬礼の中に込められていた。