TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

91 / 91
第八章 証 第82話 修了

 

 三月。

 

 長かった冬も終わりを迎えようとしていた。

 

 校舎の屋根に積もっていた雪は少しずつ姿を消し、訓練校にも春の気配が漂い始めている。

 

 講堂には全候補生が整列していた。

 

 今日をもって、シミュレーター課程は修了となる。

 

 壇上へ板垣教官が歩み出る。

 

 候補生たちを静かに見渡し、口を開いた。

 

「本日をもって、シミュレーター課程を修了とする。」

 

 講堂は静まり返っている。

 

「春季休暇とする。」

 

「休暇明けより実機課程を開始する。」

 

 一拍置く。

 

「休暇中も体調管理を怠るな。」

 

「以上。」

 

 板垣はそれだけ告げると、一歩下がった。

 

 余計な言葉はない。

 

 それが板垣教官らしかった。

 

 

 修了証書授与。

 

 一人ずつ名前が呼ばれていく。

 

 一ノ瀬。

 

 九条。

 

 橘。

 

 理沙。

 

 朝倉。

 

 真壁。

 

 そして――

 

「武田迅。」

 

「はい。」

 

 武田は壇上へ進み、修了証を受け取る。

 

「ありがとうございました。」

 

 敬礼。

 

 板垣も静かに敬礼を返した。

 

 

 式が終わると、講堂の空気は少しだけ和らいだ。

 

「やっと休みか。」

 

 朝倉が大きく伸びをする。

 

「まずは寝たい。」

 

 真壁が苦笑する。

 

「休み明けには実機だぞ。」

 

「分かってるって。」

 

 朝倉は笑う。

 

「でも少しくらい休ませてくれ。」

 

 理沙も笑顔で言った。

 

「久しぶりに家に帰れるね。」

 

 橘もうなずく。

 

「しっかり休むことも訓練です。」

 

 一ノ瀬は第一小隊を見回した。

 

「春休みが終われば、またここへ戻ってくる。」

 

「実機課程でも、第一小隊として恥ずかしくない訓練をしよう。」

 

「了解。」

 

 全員の返事が重なる。

 

 春に出会った頃とは違う。

 

 自然と息が合う返事だった。

 

 

 夕方。

 

 寮へ戻る途中、武田はふと足を止めた。

 

 歩き慣れた道を外れ、シミュレーター棟へ向かう。

 

 廊下には誰もいない。

 

 静かなシミュレーター室。

 

 扉を開けると、整然と並ぶコクピットが目に入る。

 

 武田はゆっくりと歩き、一機の前で立ち止まった。

 

 春。

 

 初めて操縦桿を握った日。

 

 思うように動かせず悔しさを味わった日。

 

 第二小隊との差を痛感した日。

 

 第一小隊として勝利をつかんだ日。

 

 そして、最終総合評価。

 

 この場所には、一年間の思い出が詰まっていた。

 

 武田は操縦席へそっと手を添える。

 

「……ありがとうございました。」

 

 小さく頭を下げる。

 

 誰もいない部屋に、その言葉だけが静かに溶けていった。

 

 

 外へ出ると、西日に照らされた格納庫が目に入る。

 

 大きな扉は閉ざされたまま。

 

 その向こうには、実機課程で搭乗する戦術機が眠っている。

 

 春休みが明ければ、あの扉が開く。

 

 新しい訓練。

 

 新しい景色。

 

 そして、本物の戦術機。

 

 武田は静かに格納庫を見つめる。

 

 胸の奥に湧き上がるのは、不安ではなかった。

 

 期待だった。

 

 ゆっくりと踵を返す。

 

 短い春休みを終えれば、またこの場所へ戻ってくる。

 

 その日のために。

 

 武田は夕暮れの訓練校を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【完結済】機動戦士ガンダムZZ【放送事故】ハマーン様、軍事回線ジャックでハプニング10連発を世界配信されてしまう(作者:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった)(原作:機動戦士ガンダムZZ)

「俗物が! どこを触っている!!」――第一次ネオ・ジオン抗争、真の敗因は総帥の絶叫と通信事故にあった。▼宇宙世紀0088年。地球圏の全モニターをジャックした「第404号流出音源」。▼そこに記録されていたのは、軍事回線を私物化するジュドー・アーシタと、それに対する総帥ハマーン・カーンの悲鳴と怒号の記録である。▼「ザビ家を超えているぞ!」「万死に値するぞ!」と飛…


総合評価:37/評価:-.--/完結:100話/更新日時:2026年09月18日(金) 18:00 小説情報

機動戦士ガンダム 不死鳥戦記(作者:だいたい大丈夫)(原作:ガンダム)

宇宙世紀0079。ジオン公国の有力名家フロートニック家の長男、カリス・ジークフリード・フロートニック(16歳)は、実家の財力で少尉任官し、私兵を率いてルウム戦役へ出陣した。▼「金の力で遊んでいるお坊ちゃん」と、同期のシャア・アズナブル中尉から冷酷に嘲笑されるカリス。しかし、初陣の激戦の最中、彼は敵の射線が光の道筋として見える「ニュータイプ」の力に覚醒する。▼…


総合評価:685/評価:7.07/連載:45話/更新日時:2026年09月11日(金) 07:00 小説情報

Muv-Luv 戦場に咲く雷花(作者:マルク)(原作:Muv-Luv)

地球外生命体BETAによって地球は滅亡の危機に瀕していた。▼地球の管理神もまたその事実に苦しむ1柱である。▼ある日、神々の会合である議題が挙がった。▼転生者にやらせてみよう。▼その者を神の代行者として人類を救おう。▼しかし事は出来るだけゆっくりとだ。BETA側に神的存在がいないとも限らない。故に、事は静かに、慎ましく、エレガントに運ぶ事。▼作中の主人公がやっ…


総合評価:453/評価:8.19/短編:17話/更新日時:2026年07月04日(土) 18:00 小説情報

転生したら異世界の宇宙最強の龍でした!〜0から星と生命を作り出して一大文明の支配者になったので現代日本へ帰還します。自分は日本が一番暮らしやすい。〜(作者:電動ガン)(オリジナル現代/コメディ)

目覚めたら無だった。何も無い。宇宙さえも。自分の身体を見る。銀色の甲殻、長い尻尾これモンスターだ!?よく見ると俺の他にも二頭のモンスターが。ドラゴンだこれ!!▼俺たち三頭の女神龍は宇宙創成の前の世界にいる。俺たちを生み出した主神の指示で世界を作り生命を繁栄させることとなったけど・・・・・・それ何年掛かるの?▼何億年も掛けて生命が宿れる星を何個も作り、失敗し、…


総合評価:2765/評価:7.62/連載:145話/更新日時:2026年09月15日(火) 22:48 小説情報

【完結】黒いガンダムの宇宙世紀(作者:いずりょう)(原作:ガンダム)

U.C.0070、地球。▼三歳のレン・イズミは、前世で三十五年間を生きた記憶を取り戻す。自分が生まれたのは、人類が宇宙へ進出した未来――宇宙世紀。▼そして九年後には、ジオン公国と地球連邦による一年戦争が始まる。▼レンは原作はある程度知っている。▼ジオン軍のモビルスーツ コロニー落とし サイド7への襲撃▼アムロ・レイがガンダムへ乗り、ホワイトベースの戦いが始ま…


総合評価:1390/評価:6.71/完結:103話/更新日時:2026年08月17日(月) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>