TYPE-X99 建御名方 ― 約束を継ぐ者 ―   作:自己読み

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第八章 証 第82話 修了

 

 三月。

 

 長かった冬も終わりを迎えようとしていた。

 

 校舎の屋根に積もっていた雪は少しずつ姿を消し、訓練校にも春の気配が漂い始めている。

 

 講堂には全候補生が整列していた。

 

 今日をもって、シミュレーター課程は修了となる。

 

 壇上へ板垣教官が歩み出る。

 

 候補生たちを静かに見渡し、口を開いた。

 

「本日をもって、シミュレーター課程を修了とする。」

 

 講堂は静まり返っている。

 

「春季休暇とする。」

 

「休暇明けより実機課程を開始する。」

 

 一拍置く。

 

「休暇中も体調管理を怠るな。」

 

「以上。」

 

 板垣はそれだけ告げると、一歩下がった。

 

 余計な言葉はない。

 

 それが板垣教官らしかった。

 

 

 修了証書授与。

 

 一人ずつ名前が呼ばれていく。

 

 一ノ瀬。

 

 九条。

 

 橘。

 

 理沙。

 

 朝倉。

 

 真壁。

 

 そして――

 

「武田迅。」

 

「はい。」

 

 武田は壇上へ進み、修了証を受け取る。

 

「ありがとうございました。」

 

 敬礼。

 

 板垣も静かに敬礼を返した。

 

 

 式が終わると、講堂の空気は少しだけ和らいだ。

 

「やっと休みか。」

 

 朝倉が大きく伸びをする。

 

「まずは寝たい。」

 

 真壁が苦笑する。

 

「休み明けには実機だぞ。」

 

「分かってるって。」

 

 朝倉は笑う。

 

「でも少しくらい休ませてくれ。」

 

 理沙も笑顔で言った。

 

「久しぶりに家に帰れるね。」

 

 橘もうなずく。

 

「しっかり休むことも訓練です。」

 

 一ノ瀬は第一小隊を見回した。

 

「春休みが終われば、またここへ戻ってくる。」

 

「実機課程でも、第一小隊として恥ずかしくない訓練をしよう。」

 

「了解。」

 

 全員の返事が重なる。

 

 春に出会った頃とは違う。

 

 自然と息が合う返事だった。

 

 

 夕方。

 

 寮へ戻る途中、武田はふと足を止めた。

 

 歩き慣れた道を外れ、シミュレーター棟へ向かう。

 

 廊下には誰もいない。

 

 静かなシミュレーター室。

 

 扉を開けると、整然と並ぶコクピットが目に入る。

 

 武田はゆっくりと歩き、一機の前で立ち止まった。

 

 春。

 

 初めて操縦桿を握った日。

 

 思うように動かせず悔しさを味わった日。

 

 第二小隊との差を痛感した日。

 

 第一小隊として勝利をつかんだ日。

 

 そして、最終総合評価。

 

 この場所には、一年間の思い出が詰まっていた。

 

 武田は操縦席へそっと手を添える。

 

「……ありがとうございました。」

 

 小さく頭を下げる。

 

 誰もいない部屋に、その言葉だけが静かに溶けていった。

 

 

 外へ出ると、西日に照らされた格納庫が目に入る。

 

 大きな扉は閉ざされたまま。

 

 その向こうには、実機課程で搭乗する戦術機が眠っている。

 

 春休みが明ければ、あの扉が開く。

 

 新しい訓練。

 

 新しい景色。

 

 そして、本物の戦術機。

 

 武田は静かに格納庫を見つめる。

 

 胸の奥に湧き上がるのは、不安ではなかった。

 

 期待だった。

 

 ゆっくりと踵を返す。

 

 短い春休みを終えれば、またこの場所へ戻ってくる。

 

 その日のために。

 

 武田は夕暮れの訓練校を後にした。

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