そこは、寒風吹きすさぶ岩だらけの土地だった。
周りをぐるりとそびえ立つ岩に囲まれ、空は歪に切り取られていた。
雲はない。
代わりと言うには語弊かあるが、一匹の巨大な生き物が、そこを住処にしていた。
羽根の生えた恐竜みたいな姿をしており、専ら空から降りて巣に戻ってくる。
ときたま、空に向かい口から、◯めはめ波のようなエネルギー弾を飛ばす所を見ると、言わゆるドラゴンとか言うヤツなのかも知れない。
巣にはガラクタが山となって積み重なっているから、きっと見る者によってはお宝の山だったりするのだろう。
俺は、そんな所にいた。
ドラゴンの巣の近くに居て、生きながらえていられる。理由は、至極単純だ。
そこに転がる目立たない石ころだからだ。
周りを見回しても、似たような石ばかり、しかも、石だから、生きてるかどうかさえも、定かではない。
そもそもなぜ、石なのか。
その辺りから説明して貰わないと、この現実を受け入れる事は、出来ないだろう。
………とか考えてる時期がオレにもありました。
しかし、何にも変わることもなく、時間ばかりが過ぎていくだけ。
体が石だと分かったのは、意識が体から抜け出て幽霊のように宙に浮かんで見下ろせるからだった。
目もなければ、耳もない。
ましてや、物言う口など有るわけがない。
普通、それが石の標準仕様なのだから。
意識体は体から抜け出て、真上に少し浮いた所に固定されてるようで、自由には動き回れる訳ではなかった。
360°ぐるりと見回す事は出来る。
上も下も見るだけは可能だ。
あと音も分かる。
風か吹けば寒さも分かる。
あと、臭いもか。
ドラゴンからは獣臭がするから、居るかいないかは、臭いでも分かった。
巣にいるあいだは、ゴロゴロと寝てばかりいるドラゴン。
喋る訳でもなし、たまに欠伸をするほどに口を開くと、例のエネルギーの大放出を空に向けてするくらいか。
数日ごとに、巣を飛び立つと、何処でなにをしているのかは、分からない。
餌でも食べて来るのだろう。
何を食うのか、知らないが。
ーーーバサバサバサ……
それは月夜の事だった。
羽のはためく音が急に聞こえてきたと思えば、ドラゴンから少し離れた所に数十の鳥か何かが群がるように降りてきた。
とそれは、地上に降りると人の形を纏った。
3人の人の形をしたものが、ドラゴンの巣の近くに現れた。
ーーーゴロゴロゴロ………
それはきっと、ドラゴンが喉を鳴らした音だと思う。
「偉大なる龍、ネプリュディエーナ、その気高き長に、ひれ伏して問う、 我が名はシルベスター・リックス、ヴァンパイアの端くれ…… 」
『血吸の魔族が、なに用か? 』
それは、声ではなかった。
音として発しているのとは違い、言葉が直接頭の中に響いてくるような感じだ。
ヴァンパイアが存在するのも驚きだが、ドラゴンが言葉を発するのも驚きだ。しかもこれ、念話とは言うヤツじゃないのか。
ヴァンパイアは声を発してドラゴンと会話する。 それは、俺にも聞こえてるから、分かった。
いよいよ魔王が復活して、世界を治める時が迫っているそうだ。
ドラゴンにも魔王軍に助力を乞いたいらしい。
ヴァンパイアは言葉を選んで、ドラゴンに告げた。
ドラゴンのこたえは、簡単だ。
"勝手にしろ、協力もしなければ、邪魔もしない"
縄張りを荒らした者には等しく同じ裁きを下すのみ。それだけは忘れるなと、言うだけ言うと、持ち上げた頭を引っ込めて、寝てしまった。
「ネプリュディエーナ!」
「お兄様! 引き返しましょう…… 」
女のヴァンパイアは妹らしい。
残りのもう1人の男は、弟だろうか。
「リベラ様、シルベスター様、 一度引き返し、御報告すべきかと…… 」
弟じゃなくて、家来か何かだったらしい。
3人のヴァンパイアは長居する事なく、早々に引き揚げていった。
体をコウモリに変えて、バサバサと耳障りな翼の音をたてて、夜空へと飛び去っていった。
ドラゴンとかヴァンパイアとかが現存するとか、ここはとんでもない世界だな。
俺は、そんな世界でなぜか石になって、存在している。
全く訳が分からない。
『お喋りな奴め、聞こえておらぬとでも、思っていたのか? 』
ある日、ドラゴンは、俺の方を見てそう念話を送ってきた。
『………。』
ええと、それ、誰に向かって言っているのだろうか。
俺じゃないよな。
だって、喋れる訳じゃないし……。
『貴様しか、おらぬであろう? 』
『いやいやいや、冗談だろ、 だってこっちは石なんだから…… 』
『ほう、 石か? 喋る石とは面白いものだ…… 』
聞こえてる?
ただ、思ってるだけで、聞こえてしまうとでも言うのだろうか?
『聞こえておるぞ、 小さき声で、なかなか気がつかなんだが、こう耳を澄ませば、良く聞こえるな…… 』
『あー……… ど、ドラゴン様、失礼しました…… てっきり聞こえてないものだとばかり…… 』
気がつくとボソボソと何やら念話が聞こえるときがあったと、ドラゴンは話を続けた。
ギョロリと大きな目玉がこちらに向けられるが、何となく焦点が合ってる気がしない。
たぶん、小さすぎて俺がどの石なのかも分かってないのだと思う。
はじめはドラゴンは、魔法で姿を隠してさまよう魔物と思っていたそうだ。
そんな魔物が居るとは知らなかったが、それ以上に、この世界に魔法があると言う事の方が驚きだった。
ドラゴンもヴァンパイアもいる世界だから、魔法があっても不思議ではないのだけど、ドラゴンからその事実を告げられると、驚かずにいられなかった。
『それで、なぜ石でいる? 』
ドラゴンであっても、意思を宿した石など知らないそうだ。
魔法で封印されたり、体が滅んで魔石だけになった者なら、知っていると言う。
しかし、気がついたらこの体だった、俺は生まれながらにして石だったと言うしかなかった。