「お"な"が、い"だい"………」
ヌォルソーの町の町までもうすぐと言う所にまで来たが、そこでいきなり、生理が来た。
朝起きたら下着から寝間着からシーツまで汚してしまった。
オマケに下腹部を襲う鈍痛。
病気じゃないと軽く思っていたが、病気じゃなくて何なのかと、理不尽な痛みに抗議したくなる。
痛いものは痛い。
それは真理である。
これが、初潮なのかどうかも分からない。
ヴァンパイアの生理周期すら、分からないのに。
どれほど痛いか、紳士諸君に説明して差し上げよう。
貴様のお稲荷さんを引っ張って広げて、コロコロと2つ有る玉をメトロノームの重しが丁度当たる位置に固定して、BPM100〜200で周期的にデコピン程度の衝撃を送られ続けるようなものだ。
そのうち吐き気すら催してくるだろう。
耐えるしか術は無いのだから、始末が悪い。
ヴァンパイアの生理は年1回だそうだ。
良く分からないが、凄い周期だと思う。
82歳でくる生理と言うパワーワードに戦慄するがいい。
俺は既に起き上がることすらままならない。
獣人の護衛の人に抱えられて、荷馬車に乗せられた。
出血はそこまで酷く無いそうだ。
気休めを幾ら言われても下腹部の痛みがひく事はないから。
体を冷やすのは良くない、温めると楽になる。
良く効くお茶がある。
どれも試したが、効果はなかった。
唯一、背中を擦られると、ほんの少しだけ、痛みが和らぐ気がする。
「ゔ〜"〜"」
唸る事しか出来ずに一日を過ごした。
"生理は辛い"
それもまた真理である。
胸だってまだ膨らみかけなのに、毛も生えてないのに、それでもくる生理。
自然とは、かくも残酷なものなのか。
この世の全てを呪いながら、眠りについた。
◇◇◇◇
「おめ、和宏か? 」
ばあちゃんだった。
ばあちゃんがそこにいた。
白い雲の上、そこだけ絨毯のように平らになっていた。
丸いちゃぶ台とその横に紫色の座布団の上に座ったばあちゃんがこちらを見ていた。
手には湯飲みを抱えて、湯気をたてたお茶を一口のんだ。
「なんで、和宏がこっちさ来んのよ? ばあちゃん見てらんねがら、神さんさ、言ってやっがらな、 おめは丈夫な体さ貰っで長生ぎすんだぞ……、 分がっだが? 」
「ばあちゃん…… 」
皺だらけの顔を歪ませて笑顔になるばあちゃん。
俺もつられて笑顔になった。
ーーーそんな夢を見た。
◇◇◇◇
「ばあちゃん……… 」
朝、目覚めて最初に口から出たのはその言葉だった。
"いつつつつ………" 一瞬痛みを忘れたが、すぐにぶり返した。
2日目も変わらず下っ腹の痛みとの格闘だった。
"もう嫌だ、許して" と弱音も出たが、それで痛みが割り引かれる訳もない。
ただ同じ痛みが続くのではなくて、周期的に強いのが来る感じだ。
トイレで当て布を替えたり、量は食べられないものの、食事も済ませて横になる。
キリキリと強いのが来ると唸る事しか出来ない。
獣人族の女性はそんなに重い生理は珍しいと、労ってくれるが、もちろん、そんな事で痛みは何ら変わらない。
唸りながら、いつの間にかヌォルソーの町に着いたようだ。
揺れる馬車より、動かないベッドに横になる方が、楽なのは明白だった。
精神的に追い詰められて、泣きそうになった。
気分は拷問されてるのと変わらない。
3日目まで強い痛みに襲われて、4日目になって、やっと痛みが緩んだ気がする。
出血もとても少なくなったし、人族と同じ5日ほどで生理は終わりそう。
これが毎月あったら、とてもじゃないが、耐えられる気がしないのだけど。
年イチでも、辛いと言うのに。
女性の体特有の痛みにノックアウトされそうになりながら、何とか今日も言う日を迎える事が出来ました。
生理中、胸先も痛くて触れなくなるとは思わなかった。
何かとデリケートなのだと、思い知らされた。
6日目の朝、出血は確認されず。
遂に生理は終わりを告げた。
人生初の生理は、玉砕と言う惨々たる結果に終わったが、得られた教訓は計り知れない。
俺は迷わず "避妊の魔法陣" を体に入れる事にした。
そんな便利な魔法陣があるのなら、初めから導入すべきだった。
正直に言わせて貰えば、二度と生理は御免だ。
生理中に襲撃なんて巻き込まれたら、反撃どころか、逃げるのさえもままならない。
生理でコレなんだから、妊娠、出産なんて、耐えられる気がしない。
避妊の魔法陣は、そんなあなたの救世主です。
望まない妊娠からの解放。
82歳で妊娠を恐れるのもどうかと思う貴兄もおられると思うが、ヴァンパイアが適齢期を迎えるのは100歳後半から200歳だと、屋敷に魔法陣を入れに来た業者の女性に聞かされて、初めて知った。
ヴァンパイアの寿命は500〜600と言われているとか。
とんでもない長命種族らしい。
血の純度の違いをとても気にするとかで、純度が高さが能力の高さに比例する。
もちろん、寿命も血の純度の高い方がより長生きする。
と、熱心に説明する彼女は、サキュバス族だそうだ。
平日の仕事終わりに化粧を落として部屋でくつろぐOLのように地味っ子に見える。
"これでも脱いだら凄いんですよ" とか真顔で言いそう。
目も一重で鼻がやや大きくてエラの張った輪郭も相まって、どちらかと言えば、不美人の部類と言わざるを得ない。
もっと妖艶な姿を想像していたのに現実とはこんなにも無慈悲であるらしい。
「ヴァンパイアさま、ですよねぇ?」
「ええ、まあ…… 」
「魔眼使わんくとも、よう分かります……」
変な訛りのある物言いもあって、彼女の話は面白い。
作業しながらだから、俺は下半身を露わにした状態で、台の上で横になり、彼女は筆にインクをつけ、せっせと魔法陣を描いていた。