名をカトリーナと言うサキュバスの女性。
彼女は魔眼持ちだそうだ。
魔族は色んな種族に分かれるが、サキュバスやヴァンパイアは大きく分類すると、同じ吸魔族となる。
吸魔族は、普通に魔族持ちであるらしい。
"鑑定眼、使えませんか?便利ですのに" と言われても、有る事すら知らないのに使える筈もない。
使い方を聞いたら、教えてくれることになった。
もちろん、有料で。
ヌォルソーの町にあるのは、グランディーア獣人国の施設ではなく、商人の屋敷だった。
もちろん、獣人国と強い繋がりのある商人に間違いない。
正式に公的な施設と言うわけではないが、事実上そう見なされているだけで十分らしい。
大使館みたいなものを想像してはいけなかったようだ。
俺はこの世界の事を余りにも知らなさ過ぎる。
カトリーナから、魔族の事など聞きながら、獣人国の人達の世話から独立出来ないか、模索しようと思ったのだけど。
「リベラさまなら、空も飛べるようですし、仕事には困らないんと違いますか? 」
「そら? 」
鑑定眼でカトリーナに見て貰うと俺のステータスが分かるそうで、闇魔法に土魔法、それと魔眼に飛翔のスキルを持っているのだ言う。
確かに奇襲して来た者達は皆、空に浮かんでいた。
きっと、あの中にも兄がいたのだろう。
兄に出来るのなら、妹にも出来て不思議はない。
それが本当なら、自立の道は意外と簡単かもしれない。
「闇魔法なら、闇収納とかも使えますでしょう? 」
「いえ、知らないけど…… 」
ホムンクルスが魔導書を見ながら教えてくれたのは、攻撃や防御に使う魔法だけだ。
闇収納なんて魔法は聞いたこともない。
カトリーナが言うには、影の中に物を仕舞える魔法らしい。
そもそも闇魔法使いは、影の中に潜れる筈と、不思議な事を言い出した。
初耳過ぎて、驚くしかない。
魔法の説明を聞いていくと、ホムンクルスは魔女側に都合の良い魔法しか教えなかったらしい。
影に収納出来たり、影の中に潜れたら、簡単に逃げられてしまうし、何を持ち出されるか分かったものではない。
やはり、リベラも攫われて連れて来られた口なのだろう。
魔女側も手駒に使いはしても、逃がす気は無かったのが良く分かった。
ますます兄の捜索の手が迫って来るのではないかと、その恐怖を再認識した。
かつての生活に戻るのは、何としても避けたいところだ。
大きな理由はやはり、魔王軍とか言う側に付きたくないから。
どう考えても戦闘に身を投じる事になるだろうし、そんな生活を誰が望むだろうか。
チートスキルでも持って転生してきた勇者じゃあるまいし、こっちは、生身の体に埋め込まれた石でしかないのだから。
何かの拍子に石の体が肉体から撃ち抜かれでもしたら、それで終わりじゃないか。
普通のヴァンパイアとは違うのだから、戦闘なんてもってのほかだ。
闇魔法で影に収納出来て、影に潜れるなら、何処まででも逃げ切れる気しかしない。
「本当にいいんですかい? 」
「ええ、お願いします……」
魔眼の使い方から教えて貰うのだけれど、カトリーナが言うには、仕事の合間にちょっと来て教えられるようなものではないし、客商売で店を空けるのも頻繁には出来ないから、近くに住むか、習いに来て貰った方が良いと言われた。
金を払えば、こちらを優先させる事も可能だろうけど、そこまで獣人国の人達の世話になるのもどうかと思い、カトリーナの店に住み込みで習う事に決めた。
素人でも手伝える仕事はあるからと、カトリーナも乗り気のようだったから、そうしたのだ。
「はい、おはようさん、 まだ眠り足りないんですか? ヴァンパイアさまは寝付きが良くありませんの? 」
早朝、叩き起こされて、店の掃除からはじまり、水汲み、朝食手伝いを言いつけられた。
早い話が"職業:家事手伝い" と言うやつが俺の仕事らしい。
口では柔らかな事を言うが、やらせる事は決して優しくはなかった。
言い方が、ストレートてはなくて、嫌味っぽいのは、彼女の性格なのだろうか。
姑にイビられる嫁の気持ちが分かる気がする。
いや、別に嫁入りした訳でも何でもないし、たまたま人使いの荒いサキュバスに当たったと言うだけだから。
さすがに教えて貰う身だから、表立って逆らうような態度はとらない。
しかし、カトリーナの人使いの荒さは、文句の一つも言いたくなるほどだった。
仕事は屋根の下、処置室で行われるから、ヴァンパイアにも優しい環境だ。
下働き兼受け付け、更には助手と公私に渡り働かされていた女性が出勤してくると、第一声は、"大変でしょう?" だった。
"はい!" とにこやかに返事をしたが、他意はない。