異世界の石   作:井ノ中蛙

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第15話 ネズミより猫

 

 

「フェリオです…… 」

 

 満月の夜まであと3日となった日の夕方、カトリーナは奴隷の男の人を買って店に連れてきた。

 いきなり、のことに目を白黒させるしかない。

 

「血吸用? 」

 

「他に何か仕事させるといいかしら? ヴァンパイアは手間がかかるからね、もっと、稼いで貰わないとねぇ…… 」

 

「え、ええと…… 」

 

 いやいやいや、相当稼いでいると思うのだけど。

 魔法陣に使う特種なインク作りだって、魔力を注ぐの覚えてから、ずっと手伝ってるし、鑑定の仕事は黙ってこちらに回ってくるし。

 受け付けもやってるし、この前は、しつこく値切る客を、闇の腕を使って追い返したりもした。

 カトリーナお得意の嫌味攻撃にしては、ちょっとどうかと、思うのだけど。

 

「手間賃代わりに、ちょっと味見させて貰うからね…… 」

 

 ちゃっかり、自分もご相伴に預かってる。

 

 フェリオは、21歳の人族の男。

 鍛えているらしく、相応に筋肉のついた体をしている。

 単にカトリーナの趣味じゃないのかと、勘繰りたくなる。

 ここだけの話、カトリーナは齢209になる。人族で言うところのアラフォーなのだとか。

 寿命が300歳前後と言われているから、もう良い歳である。

 見た目は30歳前後だから7倍すると実年齢と言う訳だ。

 うん、もう訳が分からないよ。

 きっとフェリオは、ちょっと年上のお姉さん位に思っているのだろうけど、実年齢聞いたら腰抜かすぞ、と言うオチが待っている訳だ。

 明日の朝、ミゼンが来たらまた騒ぐだろうな。

 血を吸うところを見せてと言いださなければいいけど。

 

 翌日、案の定、ミゼンが店に来ると大袈裟に驚いた。

 奴隷の存在は庶民にとっては、ちょっと微妙なものであるらしい。

 主に金持ちが持つもので、庶民はまかり間違って奴隷に落とされたら大変と、奴隷は他人事ではない身近にある不幸の一つであるらしい。

 とは言え、若い娘のミゼン、男の奴隷に興味が無い訳でもないらしい。

 "どんな感じの男?"、"若いの?"、"強そう?" と、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 昨夜、カトリーナが寝室に連れていったと言うと "あー" と残念そうな声を漏らした。

 

「先生、凄いみたいだから…… 」

 

「サキュバスだから?」

 

「そうじゃないの? 娼館でも有名みたいよ…… 」

 

「あー…… 」

 

 "それな" と言いかけて飲み込んだ。

 今朝の様子だとフェリオは大丈夫そうだったけど、棚のポーションが減ってるからきっと、使ったんだと怪しむミゼン。

 確かにカトリーナが持ち出したのは見てる。なるほど、フェリオに使ったのか。

 フェリオのフェリオがどうなったのだろう。

 腫れちゃったとか?

 それとも勃たなくなった?

 それとも……。

"男の人のアレって折れちゃうの?" と聞かれたから、"折れない、骨が有るわけではないし筋肉もない、ただの風船みたいなものだから" と教えておいた。

 この世界の人族は、西洋系が殆どで、東洋系の人は見たこともない。

 場所が変われば違うかもしれないが。

 なので、下半身は、いわゆるフニャ〇ン系だ。膨張はそれほどでもないが、マックス状態でも硬さはそれほどでもないらしい。

 触って確かめた訳ではないから、"らしい" としか言えない。

 今さら、触りたくもないでしょ。

 他人のチ〇コ触りたい男子、いたら挙手を求む。

 まず、居ないと思うのだけど、実際が違わないことを、祈るばかりだ。

 

「へぇ、あれが先生の好みなんだ……」

 

 お店の営業がはじまって、倉庫部屋へ物を取りに行ったミゼンは、フェリオを見かけたそうだ。

 俺にそう告げた。

 若くて戦えそうで、同族女子から見て見た目もまあまあ、頭の中が余程軽くない限り、高かったのでは?と、ミゼンは予想した。

 値段は知らない。

 買ったのはカトリーナだから。

 あ、あと、店では俺もちゃんと "先生" と呼んでいるから。

 

 お店兼住居の家は、普通の家より少し広い。

 施術室と作業部屋、倉庫部屋があるものの、それでも空いてる部屋があった。

 でなければ、俺も住み込みで来れなかった。 フェリオはカトリーナの部屋に囲われてるから、部屋は要らない。

 なんやかんや言っても一番楽しそうなのは、カトリーナなのは間違いない。

 

 魔法の練習は、順調だ。

 けれど空を飛ぶのは魔法ではなくて能力(スキル)の方だ。

 仕事の幅がぐっと広がると、カトリーナも勧めるのだけど、空を飛ぶより重要なのは、飛ぶ事より、安全に降りられる事だと思う。 

 普通、墜落したら死ぬ。

 ヴァンパイアだから、大丈夫なんてたかを括っていると、取り返しのつかない事になるやもしれず。

 "飛翔" のスキルの前に "不死" のスキルを先に習得すべきだと思った。

 あの、体をバラバラにして、また元の姿に戻ると言うヤツだと思う。

 コウモリだったり、ネズミだったり、あれなら、怪我をしても元に戻れる筈だ。

 故に "不死" と称されているスキルなのだろう。

 さすがに、これはカトリーナもやり方やコツは知らないそうだ。

 どちらかと言えば、サキュバスが知ってる方がおかしい。

 

「ふん〜〜!うむ〜〜!」

 

なのでまた、 息張りながら魔力を頭に集中させたり、胸に集中させたりしている。

 やはり、全身なのだろう。

 そう思ったやさき、ハタと気づいた。

 全身バラバラにしたら、石の体、出て来てしまうのではないだろうかと。

 小さなネズミサイズでは、下手したら零れ落ちたりしないだろうか。

 そのまま、また地面に転がる石に逆戻りは絶対に嫌だ。

 たぶん、コウモリでもダメな気がする。

 "不死" のスキルが使えないとなると、怪我しても、元通りとはならない。

 ヴァンパイアとしては、かなりポンコツに成り下がるしかないだろう。

 けど、この体を失うのだけは避けたい。

 

「…………。」

 

 その日はずっと、その事ばかり考えていた。

 元々元気には、見えない俺が更に元気が無いと、相当具合が悪く見えたのだろう。

 夕方、仕事終わりにミゼンが心配して聞いてきた。

 正直に全てを明かす訳にはいかないので、ちょっと困った。

 体をバラバラにするスキルの練習で、ネズミじゃないものが良いと思うが、何が良いか迷ってる事にした。

 

「ネズミか…… ネズミより猫の方が良いんじゃない? ネズミは追い払うけど、猫なら撫でたくなるわよ? 」

 

「猫ね…… 」

 

 猫とは思わなかった。

 猫サイズなら、石の体も余裕で取り込めるから弾かれないだろう。

 意外と相談して良かった。

 悩みが解決した。

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