後ろでフェリオが起きそうな気配をさせて、寝返りをうつ。
こんな姿、見せられる筈がないだろう。
俺はいつも外に行くとき着てる黒ローブで、前を隠して部屋を出た。
足音を消して、扉も限りなく音をたてないよう静かに開け閉めする。
「あ、せん……… 」
「誰だい、 あんた! 」
トイレ帰りらしきカトリーナを見つけて声をかけようとしたら、逆に声をあげられた。
「リベラです! なんで、こうなっちゃったのか分からなくて…… 」
「え? リベラ? なんでまた………」
まあ、無理もない。
昨夜まで、中学生だった女の子が大人の女性に化けてしまったのだから。
顔を覗き込んでシゲシゲと確認すると、カトリーナは、納得したようだ。
目を赤くしていたから鑑定眼を使ったのだろう。
「あんた、よほど酷い目に合ってたんだろう? 」
「どうかな、分かんないけど…… 」
カトリーナの見立てでは、体をネズミやコウモリに分解して、再び元の姿に戻る際、頭を落とされたり、体の部位を欠損した状態で、元に戻ろうとすると材料の足りない状態で体をまとめよるしかなくて、子供頃の姿とか、そのサイズで再現可能な姿になる事があるそうだ。
頭でも落とされたまま再生して、今まで生きたのだろうと言うことだ。
血を吸って、本来の姿に戻る力を得たから、この姿に戻っただけだと、先生は言う。
凄い理屈だが、あり得ない話でもないように思える。
ヴァンパイアは普通、血の渇きのあと、欲情の衝動に襲われるものらしい。
だからカトリーナは、俺に角オナを覚えさせて、準備させたのだと明かした。
いや、年齢から相応の経験はあるのが予想つくだろうに。
けど、見た目が子供だから、そこはまた違う対応を考えたのか。
サキュバス仕込みのフェリオには、これでもかと満足させられたから、何の文句も言えないが。
取り敢えず、彼女の服を貸して貰った。
さすがに下着までは借りない。
今日買ってこようと思うから。
「あ、 え、 あのリベラ様は?」
部屋に戻るとフェリオが飛び上がって、驚いた。
昨夜イタズラした中学生が、大人になって戻ってきたのだから無理もない。
「先生の元に戻ると良いわよ 」
「あ、はい、 失礼します…… 」
リベラだと伝えるも、何処か納得してない顔で、そそくさと服を抱えて部屋を出ていくフェリオ。
次の満月の夜の事を思うと憂鬱な気分になるが、今は考えないことにしよう。
その後、ミゼンにも同じように驚かれた。
背がほぼ同じになってるし、その気持ち、分からなくもないか。
昨日までは妹にしか見えなかったのに、今日は自分と変わらない位に成長してるのだから。
目を見開いて、たっぷり30秒は固まって動かなかった。
「り、り、り、リベラ?」
うん、うんと頷くと、駆け寄ってきた。
どしたのよと頭を撫でられるとは思わなかった。
小さい頃は必ずそうされてたが。
血を吸ったら元に戻れたと、悪い呪いが解けたかのような説明をしたら、今度はフェリオの心配がはじまった。
思ったより気に入ってたみたいだ。
「フェリオも全然、元気だから…… 」
「そうなの? 安心したわ…… 」
朝のうちは彼女に店を任せて、俺は影に潜って服を扱うお店へと向かった。
こういう時は、確かに影は便利だ。
下着と上に着る物を見繕って、店に戻って着替えた。
ローブも新調しないけとけないだろう。
子供サイズでは手直しのレベルは越えてると思うから。
大人ボディになって、数日経った。
「そろそろ、何処か違う町に行って貰えんかしら? 」
いきなり、カトリーナからそう言われた。
"出て行って欲しい" と言うことだ。
理由を聞いたら、ちょっと事情が複雑だった。
カトリーナはかつて、ヴァンパイアの屋敷で使用人として働いた過去があるそうだ。
ヴァンパイアについて詳しかったのは、そんな理由からだったらしい。
で、一番の理由はヴァンパイアと暮らすのはそろそろ精神的に負担になってきていると言う。
屋敷で何があったか聞くほど無神経ではないつもりだ。
突然の出て行けに戸惑いながらも、荷物をまとめる事にした。
フェリオと金貨2枚を餞別にくれた。
それが手切れ金なのか、何かを詮索する必要はないと思う。
兄の魔の手がいつ伸びて来るとも分からない。
こうして、ひと月ちょっとの魔法屋さんでの生活は、呆気なく終わりを告げるのだった。
ミゼンには、用事で少し遠くに行くと告げておいた。
カトリーナがそう言えと指示があったから。
血を吸ってこの姿になって、1週間程しか経ってないから、よほど俺の事情を危惧したのだと思う。
詳しい事情を一度も聞いて来ないのだから、分かり易い。
そもそも、はじまりは魔眼や魔法を教えてくれると言う約束だったから、それは十分果たされている。
こちらとしても必要以上、世話になる理由がないのが実情だ。
フェリオをつけてくれたのは、有難い。
来月の血の心配をしなくていいから、少しだけ気が楽に思えた。
あと、現地の人がいれば、何かと相談するのにうってつけだ。