「あ、杖…… 」
「きっと魔導士なのでしょう…… 」
隣の町に着いたのは昼過ぎ、影から出て、屋台の食べ物を買い食いして小腹を満たしていた。
フェリオの影に隠れるようにしてしゃがんで食べていたら、杖を持った人歩いているのを見かけた。
魔導士が普通にいる。
傭兵が傭兵ギルドに所属するように、魔導士も魔導士ギルドに籍を置いている。
フェリオから、そう聞かされた。
人前だから、いきなり影に潜ったりはしないものの、小腹がおさまったら、宿屋を探す事にした。
安物のローブは、2枚重ねでも少し心許ないが、仕方ない。
値は張るが、革製のローブなら頑丈そうなのだけど、今買うのは違う。
順番としては、収入源を確保する方が先であるはずだ。
宿屋の受け付けでは、1人部屋で良いとフェリオが言い出したが、2人部屋を取った。
何か勘違いしてるらしい。
毎晩ラブラブで寝られるとか思われては困る。
アレは満月の夜だけの話なのだから。
部屋に入るなりそう告げたら、"奴隷は本来、床で寝るものなので" と、言われてしまった。
奴隷は一般庶民より一段落ちる存在であるのを忘れていた。
これみよがしに、首輪や手枷をつけさせる主人もいるのだとか。
金持ちの良く分からないアピールの道具にする気はないと言ったら、"お優しいご配慮に感謝します" と跪かれてしまった。
何だか酷く居心地が悪いのだけど。
"何か仕事を見つけようと思うのだけど、何が良いとかある?" 話題を変えようとそう聞いた。
まず勧めてきたのは、魔導士だ。
けれど、フェリオは自分が働いて養います、とか言い出すから、ちょっと困った。
頼れる男は嫌いじゃないけど、リップサービスとして、受け取っておこうか。
奴隷が主人におべんちゃらを使うのは無くはないだろうし。
立場が逆だとして、女の奴隷が男の主人にどんな態度をとるか考えれば、一目瞭然だ。
悪いが俺はチョロくなんかないんだからね。
話が逸れたが、傭兵のように魔導士の護衛は稼ぎが良くて有名らしい。
業界に身を置いた事のあるフェリオ情報だ。
けれど、戦闘とかはやりたくないから、護衛はするつもりはない。
カトリーナからは、空を飛べれば仕事に苦労しないと言われたと告げると、"飛べるのですか?" と驚かれた。
「練習すれば出来る筈なんだけど……」
「誰でも練習すれば出来るものではないと思いますが…… 」
「鑑定眼で見て素質があるのは分かってるから…… 」
「それは凄いです…… 飛べたら、間違いなく仕事には困らないでしょう、 いや、金持ちから雇いたいと金を積まれるかも知れません 」
「雇われる? 悪くはなさそうだけど…… 護衛やれって言われたら、断れなくなるパターンじゃない? 」
「あー…… そうですね…… 」
空を飛べたら、見張とか奇襲とか、便利で安全に出来るのにと、口惜しそうに呟くフェリオ。
魔王軍もそうしてるみたいだから、間違いではないと思うよ。
やはり、空飛ぶ魔導士が一番金になるのは間違いないようだ。
しかし、その前にしておかなければならない事がある。
体をバラバラにして元に戻る練習だ。
飛翔も不死もどちらもスキルだから、誰にも教えを乞えるものではない。
自分のセンスと努力だけで勝ち取るしかないものだ。
また色々、考察を重ねて会得するしかない。
以前、ミゼンに猫がいいと良いヒントを貰った体の分解だけど、魔力を何処に集中させたら良いのか全く分からなかった。
"別に手伝う事はない" と告げたら、フェリオは床に手をついて腕立て伏せをはじめた。
やはり、体を維持するのに日頃から鍛えているようだ。
片腕でも猫2匹分にはなるのではないか。
頭は1匹で少し足りない気もするが、首を足して2匹か、胸と腹で4匹、腰が3匹に片足で3匹とか、合わせて19匹にもなる。
この体だと、16〜17で十分だろう。
手足も細いし、けど、胸の分はプラスしないといけないか。
なんとく、筋肉を纏ったフェリオと比べだら、少ない頭数で済むだろうと、考えてから、行ったら、いきなり出来た。
バラバラバラと、床とベッドに数匹の黒猫が降り立つ。
服の中に半分以上入ってて、出てくるのに、まごついた。
「リベラさま?」
床にあぐらをかいて座ると黒猫に手を伸ばして頭を撫でるフェリオ。
"にゃあ" と鳴くと猫の鳴き声だ。
「人の言葉は、喋れるのか…… 」
声は自分の声だった。
猫の姿でも言葉を話せるらしい。
影に潜れるかやってみたら、潜れた。
なるほど、10何匹にも分かれても、視界はそれぞれ共有出来てる。
これで1〜2匹足りない状態で人の姿に戻ると子供になると言う事か。
元に戻るのは、どうやるのかと思った瞬間、周りの猫が集まって視界が一瞬黒くなり、高い視点に戻った。
「あ…… やだっ! 」
見下ろすと、フェリオがいた。
それは別にどうでも良い。
服を何も着てないのだ。
振り向くとベッドと床に中身を失った服が落ちていた。
フェリオに目を閉じるよう、命じて服を着た。
よりによって彼の頭の高さが丁度、大事な所だったのが、大きな誤算だった。
きっと、全部見られた。
このラッキースケベ野郎め。