異世界の石   作:井ノ中蛙

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第2話 それでも石は石

 

 

 

 『その前は、どうしておった?』

 

『その前、生まれる前ってこと?』

 

『覚えておらぬか?』

 

 ひょっとして、ドラゴンは前世の記憶があるのが普通なのだろうか。

 それなら、別に驚かせる事もないだろうと、俺はかつて日本と言う国で、人として生きていたことを告げた。

 

『ほう、面白い話であるな……』

 

 日本の事を話すとドラゴンは、興味をそそられたのか、たいそう喜んだ。

 俺は、寝てばかりいるドラゴンの暇潰しの話し相手として重宝がられたらしい。

 

 

 あの後、夜な夜なヴァンパイアが何度か訪ねてきた。

 言う事は同じだった。

 3人で来たり、1人だったり。

 妹ヴァンパイアは、特に熱の入った説得を展開していったが、ドラゴンは一向に興味を示さなかった。

 

 "そのうち、諦めるじゃろうよ"

 

ドラゴンははじめから相手にしていない様子だった。 

 終始、そんな調子だったからヴァンパイアも諦めたのだろう。

 いつしか姿を見せることはなくなった。

 

 

 時の流れは早い。

 石になって、その辺の感覚は、人とはだいぶ変わってきたように思う。

 朝がきて、昼になり、夕日が空を染め、やがて夜になる。

 人であったころ、それが1日であったし、1日1日の積み重ねが、とても長いように感じられた。

 季節が変わり、春は暑い夏になり、暑さがおさまると、秋が訪れ、空から白い物が降る冬となる。

 雪解けと共に温かな日差しが戻って来ると、春となった。

 石になってからは、ひとつの季節が1週間位に思えて、1年がひと月程度にしか感じなくなっていた。

 そう、この世界に来て、もう何年も経っているのに、人の頃の半年程度にしか思えないようになっていた。

 それはドラゴンも同じような感覚らしい。

 

 ヴァンパイアが来なくなって何年経っただろう。

 今度は、違う一行がドラゴンの巣にやって来た。

 ヴァンパイアではないのは、分かる。

 彼等は昼間に来たから。

 

「災厄の根源、呪われし邪悪なドラゴンよ、 覚悟しろ! 」

 

 その者達が、ドラゴン討伐に来たと分かった時には、既に剣を抜いて、ドラゴンにその刃を振り下ろしていた。

 

ーーーゴロゴロゴロ……

 

 喉を鳴らしていたドラゴンは、特に防御するでもなく、飛び退るでもない。

 "ガキンッ" と重い音を響かせて、硬い鱗が襲撃者の剣を弾いた。

 素早い身のこなしで、飛び退る襲撃者。

 ドラゴンはゆっくり頭を上げて、襲撃者に向いた。

 

『無礼にも程があろうと思うがな…… 』

 

 何とも呆れた様子でそう告げた。

 突然、吹き抜けた突風は、ドラゴンのため息か。

 すかざす高速で火の玉がドラゴンに襲いかかった。

 襲撃者の一人が放った魔法だ、初めて見た。

 しかし、ドラゴンに当たるも "バァン" と弾け、すぐに火の玉は霧散してしまった。

 

『………去れ 』

 

 ドラゴンは念話でそう警告した。

 襲撃者一行にその言葉が届いたはすだが、彼等は全く攻撃の手を緩めなかった。

 

 結果、襲撃者達は姿を消して、二度と戻らなかった。

 ドラゴンのブレス一発で、すり鉢のようにぐるりと周りを取り囲んでいた岩の壁の一部が崩れて、空が見えていた。

 今は、絶えずそこから風が吹き込んで来てる。

 逃げたのか死んだのか分からないが、それ以降、襲撃者達の姿を見る事はなかった。

 

『ここも、騒がしくなってきたな…… 』

 

 ドラゴンが愚痴るようになるほど、数年に一度、人族の勇者がドラゴン討伐に来るようになった。

 そうドラゴンから教えて貰った。

 なんでも魔王軍に他のドラゴンも参加しているらしい。

 もちろん、目の前で惰眠をむさぼるネプリュディエーナとは違うドラゴンらしいが。

 彼にしてみれば、人ならぬドラゴン間違いで討伐に来られるのは、迷惑でしかないそうだ。

 まあ、石の俺ですら、同情を禁じえないくらいだから。

 魔王軍対勇者の対立の構図が、繰り広げられているこの世界。

 転生ではなくて、転移で来れたら良かったのに。

 そう呟いたらドラゴンに鼻で笑われた。

 輪廻転生の思想はドラゴンにあるらしい。

 しかし転移とは、ご都合主義も甚だしい身勝手な考えだと、酷評された。

 石の体よりはマシだろうと反論したら、すぐに死ぬ人になりたいとは、どうかしていると、気の毒がられた。

 終わりのある "生" というものの素晴らしさを力説したい所だが、終わりの見えない寿命を持つドラゴンには、まず響かないだろうと、思いとどまった。

 "侘び寂び" とは、日本人特有の美学であるから。

 はじまりかあるものは、いずれ終わりを迎える。

 その長さによって価値が決まるとは思わない。

 それを所詮は人族基準の考えだと、笑うドラゴン。

 しかし暇潰しには悪くないとも言う。

 もし、ドラゴンが100年しか寿命が無いとしたら、どうするか? 

 もっと必死になって、アレもしようコレもしようと、動くのではないか、惰眠をむさぼって何日も過ごすなんて勿体ないと思うのではないか。

 

『そんなに欲張るものではない、出来る事を出来る間だけやればよかろう? 』

 

『いや、番を見つけて、子をもうけて、100年なんて、あっという間だろうな 』

 

『ふむ、番か…… 』

 

 俺の意見に満更でもない様子のドラゴン。

 "雄の気性は荒くてな……" と言う所を見ると、このドラゴン、どうやら雌らしい。

 ドラゴンの雄雌の区別なんて分からないから勘違いしていた。

 確かに名前が、女っぽい気がしないではない。

 

『失礼な石ころだ…… 』

 

 俺は、ドラゴンに怒られてしまった。

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