異世界の石   作:井ノ中蛙

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第21話 痛い子

 

 

「獣人国へ行ってみる? 」

 

 国境沿いに居るのだから、国を渡ってみるのも良いかと思ってフェリオに聞いてみた。

 

「身分証になるものはお持ちですか? 」

 

 いきなり職質のような事を言い出すフェリオ。

 国境を渡るには、身分証が無いと無理なのだと、当たり前の事を説明されてしまった。

 そんな子供に教えるように言わなくても良いだろう……。

 奴隷は、主人の持ち物と言う扱いなのだとか。

 けれど、フェリオは傭兵ギルドの身分証は持っていた。奴隷に落ちたとしても資格は喪失しないらしい。

 正当な理由もなしにギルド員を除名したりしないそうだ。

 逆に奴隷が傭兵ギルドに登録するのは、面倒らしい。主人の命令には絶対服従の奴隷が護衛の仕事をして、どんな事が起きるか想像すれば分かる。

 護衛が盗賊に早変わりなんて誰にでも予想出来る。

 暗殺に利用されるかも知れないし、奴隷に手引きさせて誘拐されるかも知れない。

 奴隷本人より持ち主の調査が重点的に行われるのだろう。

 

 話を戻すと、リベラの身分証となる物は何もない。

 これでは、国境は越えられない。

 行きたいなら、自分の身分証を作れよ、と言うことか。

 フェリオの目が冷たい。ーーーなんてことはないが、"困った" と顔に書いてあるように見えた。

 

 夕方、町の外れにいる。

 この時間、道行く人影もない。

 日本の田舎なら、何処からか "夕焼け小焼け" のメロディーが防災行政無線のスピーカーから聞こえてきそうな光景だ。

 だから、飛行訓練にはお誂向きだろうと、来た次第である。

 どうせ、初日は、唸って終わりだろうと、高を括った者も多い事だろう。

 自分でも、そんな気はしていた。

 しかし、それは、来た。

 上昇気流のビッグウェーブが身を包み遥か上空へと俺をいざなうかの如き勢いだ。

 

「ひ、ひ、ひぃ〜〜〜! 」

 

「リベラさま〜〜〜! 」

 

 情けない声が漏れたが、きっと聞かれてないと思う。

 ジェットコースターに乗って、下半身から血が逆流してくるような、嫌な感に襲われた。

 急に上昇スピードが落ちる。

 高度なんて分からない。

 フェリオは指先の爪程度の大きさにしか見えない高さだ。

 そして、はじまる急降下。

 

「きゃあああああっっ!!」

 

 慌てて手足をバタバタさせる。

 ピタッと止まる、まるでエレベーターのように。

 恐る恐る下を見ると、まだフェリオは指先程度の大きさだ。

 上下を何度繰り返しただろう。

 やっと、宙に停止する事に成功した。

 自分の鼻息が荒い。

 スースー、スースー、聞こえてくるし、心臓はドクドク、ドクドク、かつてない速さで鼓動を打っていた。

 空は恐い、恐すぎる。

 無事に降りれる気がしない。

 と言うか、トイレに行きたいんだけど。

 空の上から小雨を降らせるわけにもいかず、どうやって軟着陸しようかと考える。

 パントマイムのエスカレーターのように、斜め下にスーッと降りられないだろうか。階段でもいい。

 足を一歩踏み出して、下に1段降りると想像する。

 恐る恐る実行すると、何とか出来てる。

 

「ふうっ…… 」

 

 トテトテと、足を踏み出しながら、降りる目処が立った。

 結構な高さまで上がったから、降りるのはそれなりに時間を要した。

 

「トイレに行きたい…… 」

 

「え、あ、トイレですか? 」

 

 飛べたお祝いでも言う気でいたのか、フェリオは拍子抜けした顔して、町へと、走ってくれた。

 彼の影の中で俺は、ひたすらトイレを我慢していた。

 

 宿屋に着いて難を逃れた訳だけど、フェリオから "スカートで飛ぶのは、止めましょう"、提案される。

 "丸見えでした" と、小さな声で付け加えられた。 

 この性欲怪獣め。

 こっちは、生きるか死ぬかの瀬戸際だったと言うのに。

 その、痛い子を見る目は、やめれ。

 失礼である。

 

 なんでもそうだけど、ものにはコツと言うものがあって、それに気づくと気づかないとでは、大きな差が生まれるようだ。

 昨日のポンコツ飛行の反省を踏まえて、今日は、頭から進むように飛んだ。飛行機のように、水平飛行で地上へ降下しつつ、ギリギリまで高度を下げて、最後だけストン、と地に立つようにした。

 これでスカートの中が見えたりはしないだろう。

 "見違えたようにスムーズでした" とフェリオの褒め方も良い感じだ。

 墜落の恐怖は、常に持つようにしている。

 実際、何があるか分からないから。

 低空だと矢で狙われると、フェリオは言う。

 確かに低空だと、空に浮かぶ的には良さそうに思う。

 しかも、何か高価な物を運ぶ仕事だったりしたら、それ目当てに十分考えられるだろう。

 着陸後も、そのままスムーズに影の中に潜ってしまえば、より安全かもしれない。

 何故か、空飛ぶ仕事やる気満々で色々と考えが暴走してしまった。

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