次は、重要書類、高価な小物の運搬の仕事だ。
家から家を、ピンポイントで空輸する仕事らしい。
勿論、そんな依頼を出す位だから、御屋敷から御屋敷と考えた方が自然だ。
これは良いと思ったが、生憎、地理に疎いので、ピンポイントが定まらない心配が生じる。
「この依頼ですけど…… 」
詳しく聞いたら、大まかな地図と、届け先の町のギルドで、道の案内を聞けるよう、一筆書いてくれるそうだ。
町だけ、間違えなければ、その町のギルドに聞けば、家は特定出来る。
「じゃ、これにします……」
か
「そうですか、それは助かります…… 」
全然嬉しそうな顔をしてないが、男性職員は、書類に記入しはじめた。
依頼を受けたと名前を書く欄があった。
初めて現地の言葉で "リベラ" と書いた。
お世辞にも、綺麗には見えない字だと思う。
羽根ペンは使い難くて敵わない。
「フェリオ、どうする? 」
仕事に行っている間、ずっと待たせている訳にもいかないだろうと、フェリオに声をかけたら、この町の傭兵ギルドに行ってみるそうだ。
銀貨を少しだけ持たせて、夕方には宿屋に戻るよう伝えた。
奴隷の主人としては、超甘々なのは自覚している。
けれど、意味もなく人を蔑ろにするのは違うと思うから、これでいいとも思っている。
もし、奴隷が増長して来るようなら、その時は考えるしかないだろう。
「では、行きます…… 」
依頼主の御屋敷の場所を何度も説明されて、やっと頭に町の地図が入って来た。
この町には大通りが2本ある。
デンマーク国旗のように、中央からやや西寄りに縦の通りが走っており、横に走る通りはほぼ中央を通っている。
金持ちの集まる地区は、西端の北側寄りの余り広くない地区だ。
更に、金持ち地区は五目並べのように縦2本横2本の通りが走っており、左上の一番広い敷地の御屋敷が、今回の依頼主だそうだ。
要は町で一番北西に位置する屋敷となる。
空輸なので、空から行くのが良いらしい。
歩きで行って、空輸しますと言うのもおかしな話だ。
なので、ギルドの裏手に出て、そこから飛び上がった。
下から "おー" と声があがる。
これで飛べなかったら、笑われるに違いない。
そんなヘマはしませんって。
矢に射られると困るので、高く高くまで上がった。
ローブが風をはらんでめくれるから、足が火傷しないか、心配。
目当ての御屋敷はすぐに分かった。
いきなり、敷地に降りるのも失礼だろうと思い、門番の立つ道沿いに降りる事にする。
と思って降下しはじめたら、スカートがめくり上がって、足首に激痛が走った。
昼間の日の光は、強烈過ぎる。
足を畳んでスカートの中に納めて、手袋をした手で抑えて、ユルユルと降りた。
「あー、火傷してる…… 」
見ると、やはりだった。
オマジナイ治癒魔法で治してから、歩きだす。
「何か用か? 」
門番の男は予想通りの無愛想だ。
魔導士ギルドから、依頼で来たと、渡されてた書類を差し出した。
"ちょっと待ってろ" と言われるも、結構な時間待たされた。
門の所まで黒服の男の人が迎えに来る。
このあとは、屋敷の中で打ち合わせが行われると言う。
なかなかに面倒臭い。
金持ちは何処もそうなのだろうか。
そうなのだろうね。
メンツがあるからね。
あの屋敷行ったらお茶も出なかった、なんて言わせないよと、思ったのか、お茶請けも碌なの出なかったと言われては、恥と思ったのか知らないが、高そうな茶器に上品なお茶が注がれて、上品な小皿にお茶請けのお菓子まで、出てきた。
通された応接室は、調度品はどれも高そうな物で揃えられている。
仄かにいい匂いもしてて、空気さえ高級なものに思えてしまうほどだ。
「こちらの品と、この書をお願いしたいのですが…… 」
黒服の男がトレーに載せて持って来たのは、小さな木箱と紙が数枚だ。
目の前で紙を折り、封筒に入れて、蝋印をしてから渡してきた。
「あの、お届け先ははじめに指定された御屋敷で変わりありませんか? 」
「ホントラスのグレシェディエ家で変わり御座いません 」
「では、このまま向かいます……」
「はい、こちらからお願いします 」
建物の裏手に通されたので、建物から数歩離れてから、上空へと飛び立った。
まだ、手には木箱と封筒を持っている。
影収納まで見せるのは、良くないと思ったから。
その魅力は簡単に気づかれてしまうだろう。
空も飛べて、幾らでも荷物を持てるなら、そんな便利な魔導士なら幾ら金を出しても欲しがるだろう。
大金を得て、悠々自適の生活を手に入れたと喜ぶのも束の間、元を取る勢いで金持ちに使い潰される日々が目に浮かぶようだ。
長い間の努力で貯めた大金は、長く手元に残るが、一瞬で手に入れた大金は一瞬で消えるか、その後にいらぬ苦労を呼び込むように思えてならない。
異世界で一攫千金なんて夢見ても、ドラゴンブレス一発で消し飛んでしまうようなものでは、ないだろうか。