「一度、見てみるか……」
襲撃して来る素振りもない。
かと言って、援軍を呼ぶでもなし、兄の元へ帰るでもない。
関係が切れていると見て間違いなさそうだ。
きっと、攫われる前の記憶がないのだろう。
ヴァンパイアである自覚さえ薄く、何処まで分かっているのか怪しい。
関わらないに越した事はないが、かと言って、放置して置くのは惜しい。
魔王軍奇襲部隊のエース、ヴァンパイア兄妹だ、兄は死に物狂いで探しているだろう。
何も知らぬ妹を囲い、兄に知らせれば謝礼は間違いないだろう。
まさか、魔王軍から金を得られる事になろうとは、思わなかった。
本当に当人か確認するのは必要だ。
魔眼持ちを調達するのすら難儀な人族の国。
だから、魔族である自分が楽して生きられる。そう考えれば仕方ないか。
自ら動いて、鑑定眼で本人か確認するしかなさそうだ。
「何か依頼でも出して呼べれば良いのだがな…… 」
「それでしたら、如何様にも…… 」
チェルニアの問いかけにリンゼイ家の執事は、手際よく提案を持ち出すのだった。
◇◇◇◇
「ワオルーの町じゃ、ダメってこと?」
「いえ、ダメとは言いませんが、護衛の以来が殆どなので、森に近いホントラスの町でしたら……」
「ホントラスかぁ……… 」
あの町に良い印象がないのだけど。
矢で射られた印象が強過ぎて、他に特に覚えていることがない。
森に近い町は他にもある。
フェリオは、気を遣って魔導士ギルドのある町を挙げたようだ。
ギルドでも配達の仕事ばかり受けるので、わざわざ他の町からも依頼が来るようになっていた。
ギルドの裏手では見送る男性の数が増えてる気がする。
たまたま居合わせたにしては、数が多い気がするが、自意識過剰と言われるのも嫌なので、気にしない事にしてる。
ガーターベルトに膝上まである長い靴下を一度試した事があった。
暑くなり途中で断念した。
冬なら全然良いと思う。
少なくとも、今ではないのだけは確かだ。装着するのもやはり大変で、いちいち紐を結ぶのは、下着を着けない状態でやるものではないと、痛感した。
部屋からフェリオを追い出してやってみたが、誰かに手伝って貰って着ける物だと思った。
男の前で着ける作業をはじめたら、襲われるのは間違いなしだ。
手際が良くないのかもしれないし、側使いがいるような、身分の人が着ける物なのかもしれない。
伸縮する生地でも出回れば、ストッキングのような物が作られるかもしれないが、いつのことになるやら、分からない。
膝下を紐で縛る靴下もあるし、足首上の所で縛る物もある。
けど、血流が阻害されるのが嫌なのと、動く際に腱が当たって痛くなるから、不採用。
下着だって、腰骨の上で縛るだけじゃなくて、両足のももの付け根でも縛るようになっていて、セクシーさの欠片もない物だ。
前後ろがあるのを知らなくて、最近、湯浴み場の前の脱衣場で、教えてくれた人がいて、知った。
なるほど、確かにお尻側に来る方が膨らんでいるように見えた。
体が小さかった頃に着けてた下着は前後ろが無かったから、気をつける習慣が欠落していたらしい。
さすがに胸当ては、間違わないけどね。紐を首にかけて、吊るような形の胸当ては、背中側で縛るから、面倒臭い。
紐を足して前で縛ると良いと服屋のおばさんに教えて貰ってから、少し楽になった。
女性でいるのは、大変なのだと毎日、実感してる。
「別に構わないかな、町を移っても……」
最近、喋る言葉にも気をつけるようにしている。
語尾に "わ" をつけると、わざとらしくなるのは、何故だろう。
「いえ、リベラさまがお嫌いな討伐依頼が多くなると思うので…… 」
兄の追跡があるといけないので、同じ町に長く留まるのは、良くないだろう。
この町に滞在して1週間を越えて2週間目に入っていた。
当初のギルドに入るという目的も果たせた。
これで国境を越えて違う国にも渡れるだろう。路銀とかの問題は別になるが。
正直、気はすすまないが、何となく嫌だと子供みたいな事を言うつもりはない。
フェリオが行きたいと言うなら、行くだけだ。
この町に居続ける理由もないのだから。
ギルドにひと言くらい言っておくべきだと、フェリオが言うものだから、ホントラスの町に移ると告げたら、酷く残念な顔をされた。
そんな顔を向けながらも引き留めるような事は言わない。
たぶん、そのような決まりでもあるのだろう。
久し振りにフェリオの影の中に潜って乗り合い馬車で移動した。
それなりにギルドの仕事で稼いだから、懐はまあまあ温かい。
ちょっとお金持ちの家の娘は、髪を乾かす魔道具を持っているのだと聞いた。
確かにそれは欲しい気がする。
現代日本のように毎日髪を洗う人自体、殆ど居ないそうだが、長い髪でいるの事が金持ちであると言っているようなものなのだとか。
肩にかかる程度で切るのが普通と聞いて、リベラはやはり金持ちなのだと思った。
肩甲骨を覆う程度に伸ばした髪を持つリベラを相手にすると、商人は皆笑顔で接するのは、その為だろう。
昼間はローブのフードに隠れて見えないからそんな事はないのだけどね。