異世界の石   作:井ノ中蛙

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第31話 使い魔

 

 

 

 ミリルシアは飛べない。

 しかし、闇魔法を使うそうで、影には潜れる。

 ギルドへ仕事に行くと告げると、着いて来ると言って聞かなかった。

 前にも一度来た事のあるホントラスの町の魔導士ギルド。

 

「お嬢様自らが働く必要はないと思いますが…… 」

 

「自分で稼ぐと言うのは、とても貴重な事だと思わない? 」

 

「それは、とてもご立派なお考えです 」

 

 周りから見れば独り言を言っているようにしか見えない。

 ミリルシアの疑問は、過去のリベラの行動と照らして言っているのだろう。

 魔国での暮らし振りなど聞いていないが、何となく想像出来るので聞いてはいない。

 

「リンゼイ家ですか……」

 

 配達の仕事はあった。

 隣の町までと近場の配達だ。

 依頼主はと聞いたら、例の矢を射られた事件の屋敷だった。

 断ろうかと思ったが、報酬がとても良い。

 金に釣られたと言われるのは、心外ではあるが、結果的に金に釣られたようなものだ。

 

「矢に射られたのですか? 」

 

 リンゼイ家へ向かい道を歩いていると、影からヌッと頭を出すミリルシア。

 彼女は、昼間でも日差しを防ぐローブやフードを被らない。

 結界を張り日の光から身を護っているそうだ。

 結界はステータスには記されているものの、一度も使った事はないし、使い方も分からない。

 昼間、ヴァンパイアが外をに出る事は滅多にないが、その時はこうして日の光から身を守るそうだ。

 後でやり方を教えてもらう約束をした。

 "何時でもここから見張っておりますのでご安心ください……"

 

 影から聞こえるミリルシアの声。

 

 

「ふむ、聞いている 」

 

 リンゼイ家の門番は意外とすんなり入れてくれた。

 知らない顔なので、前回の事を気にした訳ではないようだ。

 来るのが分かっていたのか、建物の前には黒服を着た男の人が立ってこちらを待っているようだ。

 

「お嬢様、この家の者は、何か企んでいるやもしれません……」

 

「依頼の事ではなくて?」

 

「そうかも知れませんし、そうでないかも知れません…… 」

 

 どちらにせよ、用心したに越した事はない。

 いざとなれば、ミリルシアにお任せくださいと、彼女の鼻息は荒い。

 建物の前で待っていた男の所まで、辿り着くまで、見覚えのある広大な庭を通った。

 チラホラと、警備の姿も見えたが、特に変わった反応を見せるでもなかった。

 

「ようこそ、いらっしゃいました、中へどうぞ 」

 

「はい………」

 

 声をかける前にそう、告げられた。

 建物の中は、予想通りの豪華さだ。

 長い廊下をどんどん進んで行く黒服男。

 やっと止まった扉をノックすると、"お連れしました" と、言った。

 扉を開けると中には入らず、俺に道を譲るように後ろに下がった。

 

「ようこそ、まどう…… 」

 

 部屋の中は、まるで執務室のように奥に立派な机があって、その奥に知らない男が着席していた。

 その手前には、ローテーブルとソファーの応接セットが設えてある。

 男は、若く見えた。

 そして、目鼻立ちの整った俳優のような見た目をしていた。ファッション雑誌で見るような絵に描いたようなイケメンだ。

 その笑顔で迎えてくれた男の顔が歪み、言葉が途中で止まる。

 俺の視界の端を細身の剣の切っ先が、ゆっくりと通り過ぎて行った。

 その後に剣を構えたミリルシアが続く。

 迷わず男の鼻先で、剣はぴたりと止まった。

 

「インキュバス如きが、お嬢様を呼び出しておいて、どんな企みを抱えていたか、洗いざらい言うといい 」

 

 両手を胸の高さにあげ、"いえいえ、何も悪巧みなど考えておりません" と申し開きをする男。

 

「お嬢様、この者は金目当てにお嬢様がここに居ると魔王軍に報告するつもりだったようです 」

 

「インキュバス? 」

 

 鑑定眼で見てみると、確かに男は、インキュバスだった。チェルニアと言う92歳のインキュバスだ。

 因みにミリルシアは103歳。

 この部屋に居る者の年齢を全て足すと277となる。お達者クラブも真っ青の後期高齢者小説の幕開けだ。

 老人が熱い、時代は老人が回している。

 とは言いつつも、見た目は10〜20代、いってても30ちょいなのが、恐ろしい。

 

「ほらほら、色魔の商売道具のお顔に傷がつきますよ?」

 

 剣先でインキュバスの小鼻を押すミリルシア。器用なものだ。

 "あの、その……" と口籠るインキュバスをミリルシアはいたぶるよう。

 

「使い魔にして欲しいと懇願するなら、殺さないでおいて、やらない事はないと思ったのに全く、馬鹿にはガッカリですね……」

 

 剣を振り上げると、物凄い速さで腕を振り下ろす。

 "使い魔に! 使い魔にしてください!"

と喚くインキュバスの首筋に剣先はピタリと当てて、止まった。 

 ファンファーレが鳴って、"インキュバスは仲間になった" とテロップが入る流れ事はない。

 ミリルシアは手際がとても良い。

 隷属の首輪をインキュバスの首に嵌め、逆らえなくしてから、企みを洗いざらい喋らせた。

 このインキュバスは魔女タルヒューズの下で働いていたそうだ。獣人の娘の調教をさせられていたと告白した。

 それがアプリリアかどうかは分からないが。

 屋敷を手に入れたと、喜ぶミリルシア。やってる事は、犯罪にしか思えないのだけど。

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