「ラーラは人じゃないかもしません……」
フェリオがそうな事を言い出した。
"人族じゃない" ではなくて "人じゃない" と言うのだから、穏やかではない。
「確かに思考がたまに、読めないことがありました……」
ミリルシアが同意する。
"どうなのですか、チェルニア?" と下僕の主人に視線を向ける。
「ラーラは確かに人ではないですが、人の姿でなくては、目立つと思っただけなのです……」
「マスター…… 」
ラーラはチェルニアの事をそう呼んでいた。
フェリオがなぜそう思ったのか、理由はここでは明かさない事にした。
手でされたにも関わらず、異次元の気持ち良さをもたらしたと、恥ずかしい告白をここで披露するのは、本人にとっても気持ちの良いものではないだろう。
「では、人に化けた何だと?」
ミリルシアの追求にチェルニアは、ラーラに目配せして頷いた。
途端にラーラが溶けだす。
"溶ける" と表現するのが一番適当に思えた。
服はその場に山となり積み重なる。
その下からスライムのような、ピンク色の物体が姿を表した。
鑑定眼で見ていたら、それは、"淫獣" だ。
餅のような丸いだけではなく、チンアナゴのような、触手を何本も生やしてそれが、蠢いていた。
今まで鑑定眼で見ても人族のラーラとした分からなかったのが、今、種族は淫獣、名前は "ラーラと名乗る淫獣" となっていた。
この淫獣、能力(スキル)に偽装を持っていた。
スライムの体の一部が陥没して、人の口のようになる。
その口が喋った。
「マスター、これでいい?」
頷くチェルニア。
「こんな穢らわしい魔物を…… 」
ミリルシアは許し難しと、顔に書いてある。
お怒りのようだ。
もう片割れのメイドも知らなかったようで、その場にペタンと尻をついてしまった。
「ミシェネ、ゴメンね…… 」
淫獣にも知能も感情もあるらしい。
ミリルシアは、俺が害がある訳でもないから、別に良いだろうと言うと、すぐに意見を変えた。
何より今夜は満月の夜なのだから。
チェルニアに淫獣についてを詳しく問いただしたら、人畜無害で、精を少し吸うだけのお手軽快楽発生マシンであると理解した。
フェリオには悪いが、男にされるより、ナンボかマシに思えるのだから仕方がない。
と言うか興味本位で試してみたいだけなのだけれど。
ラーラはすぐに、人の姿に戻った。
いそいそと、服を着る仕草は、人と変わりない。
きっと、人歴が長いのだろう。
苦笑いを浮かべるフェリオ。
チェルニアも何処か安心した様子に見える。
片割れのメイド、ミシェネはラーラと内緒話をはじめていた。
その夜、町の宿屋で過ごした。
フェリオの血を吸い、ポーションで治した。
すぐに襲ってくる欲情の衝動。
寝間着姿のラーラが抱きついてくる。
既に手の指の何本かは人のそれとは、違う形をして、蠢いていた。
フェリオはミリルシアのお相手を務める為に部屋を出て行った。
グラマラスな大人の女の雰囲気のミリルシア。
血を吸う相手はミシェネが見繕って来たのだとか。
その後はフェリオを相手にするのかと思えば、どちらもお召し上がりになられたそうだ。
満月の夜のヴァンパイアは凄い。
因みに、淫獣も凄く良かった。
自在に形を変えられるのは何も触手だけではない。
男にも女にも、人でないものにも、なれる。
凄い体験をさせてもらった。
凄いとしか表現の仕様がない。
R15だしね。
ライブザバン王国の東の端まで、来るのに、何日かかっただろう。
もっと、長い時間を要すると思っていた。
途中で仕事をして稼ぎながら行くものだと、思っていたら、その必要はなかった。
ミリルシアの持つ魔道具の中には木箱一杯の金貨が入っているそうだ。
しかも2大金貨と言われるルベルディア金貨とユーリスタ金貨の両方を大量に持っていた。
なので路銀の金策に足止めなんて事は全く必要がなかった。
むしろその逆で、宿は町で一番高級な所しか選ばず、買い物も金に糸目はつけない素振りを見せる。
魔国では本当の金持ちなのかもしれない。
◇◇◇◇◇
「本気か…… 」
チェルニアは、目を細めて話を聞いていた。
ヴァンパイア2人の会話が後ろから聞こえてきていた。
もちろん、お嬢様とその側使いのメイドの2人だ。
今のポルギュスカ帝国は、あまり近づきたくない情勢だと言うのに、しかも、その先はエルフ国ルシャワンダ森林国を抜け、ユーリスタ神聖国へ行く算段をしているようだ。
きっと、ツテか何かがあるのだろう。
でなければ、ただの無謀としか思えない。
いや、言い出したのは、あの何も知らなそうなお嬢様だ。
意に反する事を言わない側使いが、たしなめるとは想像し難い。
これは、ひょっとすると、ひょっとするかも知れない。
魔王軍と本格的にやり合っているポルギュスカ帝国に魔族が行けばどうなるか。
そこで、チェルニアは、考えるのをやめた。
ミリルシアに考えを悟られるのを警戒したからだ。
何となくではあるが、彼女がこちらの考えを読んでくる時に、息苦しい何かを感じる事に気がついた。
当然、目が紅くそまっているから、魔眼を使っているのが分かる。
鑑定眼の1種なのだと理解出来た。
ヴァンパイアの魔眼なら、満月が近づくにつれて、威力が高まるのだろう。
そして、昼はガタ落ちになるに違いない。
町に着くまで、女の事でも思い浮かべながら、過ごすのが一番だ。
宿屋にはどんな女がいるだろう。
そろそろ精も補給しないと、身が保たない。
ラーラとミシェネにも精集めに行かせるのも、悪くない。
手綱を握る手にも力が入る。
町で女が呼ぶ声が聞こえる気がして仕方ないチェルニアだった。
◇◇◇◇◇