異世界の石   作:井ノ中蛙

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第35話 熱中症

 

 

 

「ペダリスまで、まだまだかなり遠いんじゃないのかしら? 」

 

「はい、お嬢様がそうご指示下さったので…… 」

 

 この頃、チェルニアはミリルシアにこたえる際に良く "お嬢様" と単語を混ぜるようになった。

 効果はどれほどなのか、一度ちゃんと聞いてみたいものだ。

 

 検問所の一件以来、ミリルシアは、少し大人しくなった気がする。

 本人なりに、やり過ぎたと反省しているようだ。

 そのせいで、大きく南に大回りする事になったのだから。

 次はとフェリオ、ラーラ、ミシェネの3人だけで検問所に挑むようにしようと話がついている。

 俺とミリルシアはフェリオの影の中に潜ってやり過ごした方が安全だろうとなった。

 思えば、はじめからそうすれば良かったのに、ミリルシアの勢いに流されてしまった。しかしもう、後の祭りだ。

 

 道を外れ、南下すると、ミリルシアの地図の通り、遠くに町が見えてきた。

 人族の国なのに魔族の持っている地図の方が細かくて正確なのは、不思議ではあるが、空を飛べる者がつくった地図と地上で生活している者が作った地図を比べてはいけないのかも知れない。

 

 チェルニアはインキュバスだ。

 魔眼が持つものの、魔力自体、さほど持っていないからか、魔法の方は初級レベルの魔法レベルに留まっている。

 下僕のラーラとミシェネは魔法を使う所を見た事もないらしい。

 周りには魔法が使えないと言っているそうだ。

 使い方によっては、初級魔法でも切り札になり得るらしい。

 魔族の全てが魔法を使える訳ではないので、それでも通用する場合が無いとは言い切れない。

 使えない筈の魔法で攻撃されれば、それは、脅威どころの騒ぎでは済まないだろう。

 因みに使えるのは水魔法だとか。

 魔法を使えない魔族は、魔力を身体強化に使って、強力な身体能力で攻撃を仕掛けると言うのがセオリーらしいが、チェルニアは身体強化も出来ないそうだ。

 気の毒になるが、どっこい、それで92年間も生きのびている。

 強き者が生き延びるのではなくて、要領が良い者が長生き出来るのだなと、彼を見ていると思った。

 初めは警戒していたが、隷属の首輪のせいか、インキュバスの態度はとても好意的だ。

 インキュバスの魅了は、ヴァンパイアに効果はないと聞いて安心した。

 非常に心外な事に、一瞬、惚れてまうやろと、思う瞬間が何度かあった。

 凄く頼りになると言うか、頼もしく、かつ、優しく思えてしまうのだ。

 インキュバス恐るべし、である。

 自称、見た目は女、心は男と勝手に思っていたのに、男に抱かれてもいいと思わせるのだから、隷属の首輪が無かったら、陥落待ったなしだ。

 後で冷静になって、自分はどうかしてたと思い、頰をパンパンして我に返るのが恒例になっていた。

 なぜかフェリオは、そうは思ってないらしい。

 護衛として戦力を期待したらしいが、全く使い物にはならないと分かり、男の風上にも置けない奴と、評価は著しく低い。

 心まで剣士なのか。

 本性はリベラ抱きたいマンなのに、生意気だろう。

 

 

 

「そこは砂漠のようです……」

 

「え、 砂漠? 」

 

 ポルギュスカ帝国の地図、南の方は町どころか、何もない所がある。

 そこは何かとミリルシアに聞いたら砂漠だそうだ。

 雨乞い魔法を使うには、とても良いシチュエーションだ。

 とは言え、結界をマスターしてないヴァンパイアには、暑さはキツ過ぎる。

 なぜ、出来ないのだろう。

 国境を越えるまでには、マスターしておきたいところだ。

 

 

 ………なんて甘く考えていた過去の自分に説教してやりたい気分になる。

 あれから、約ひと月近く経った。

 そして南の要所、ペダリスの町に到着した。

 結界は出来ないでいる。

 何か決定的な思い違いでもしているのだろうか。

 出来ない理由が分からない。

 簡単にできると、たかを括っていてこのザマとは情けない。

 季節は夏一直線だと言うのに。

 暑い、暑い、暑い、あつい………。

 

「お、お嬢様? どうかなされました? お嬢様、 お嬢様!」

 

 

 どうやら俺は、熱中症で倒れたらしい。

 それもそうだ。

 暑いなか、厚手のローブを頭から被って、我慢比べのゲームをしているわけではないのに、汗は蒸発せず、服をビショビショにしていたのだから。

 気が付いたら、知らないベッドの上に寝かされていた。

 顔と手がヒリヒリするから、火傷していると思う。

 運ばれる際に日の光に当たったのだろう。

 問題は、服が取り払われ、下着姿だと言う事か。

 

「お嬢様、気がつかれましたか? 」

 

 世話はミシェネがしてくれたらしい。

 部屋の外でフェリオが警戒の為に番をしているそうだ。

 

「お茶をお持ちしますね…… 」

 

  本当なら、氷の入った炭酸飲料で喉を焼きながら、飲み干したいのだけど、それは無理なはなしだ。

 迂闊に生水を飲めば腹を下すような生活の中で、沸騰したお湯で作るお茶が一番、安全と言われている。

 それか、ビードとか言う苦いビールの出来損ないのような酒の2択しかない。

 酒なら他に葡萄酒もある。

 暑い中、冷えてもいない酒を飲むほど鬱憤は溜まってない。

 お茶をフーフー冷まして飲む。

 少し頭が回るようになると、治癒魔法を自分にかければ良いと、思いついた。

 部屋の窓を少しだけ開けて、雲一つない空を恨めしく見上げる。

 つくづく、ヴァンパイアには厳しい世界だ。

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