異世界の石   作:井ノ中蛙

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第37話 ラーラ

 

 

◇◇◇◇◇

 

「アレ見てみろよ! 町の上だけ雨降ってんぞ! 」

 

 荷運びの男は、御者から言われて、荷台の荷物越しに先を見て驚いた。

 まるで雨雲で蓋でもするかのように、町の上にだけ雨雲がたまっている。

 轟々と雨を降らせている様子を見るのは初めての光景だ。

 この季節、ここいら辺に雨が降るなんて聞いたこともない。

 いつも乾燥してカラッカラに干上がっているのが本来の姿だ。

 水が値が高くなるこの時期は、荷台には、幾つもの水の入った木樽が積まれると言うのに。

 運び先は、雨に降られてビショビショと来ている。

 荷物を持ち帰れなんて言われた事は一度もないが、今日だけはそう言われても不思議はない。

 

「こりゃ、どうなってんだ? 」

 

「俺が知るかよ…… 」

 

 御者の言葉に返す荷運びの男の言葉は、独り言のように力が入っていなかった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「珍しい事もあるものですね…… 」

 

 珍しくラーラが声をかけてきた。

 淫獣なのに知能もある。

 よほど長生きなのか、それともチェルニアの教育の賜物なのか。

 殆どは同僚のミシェネの猿真似なのだと言われてそう思っていたけれど、あながちそれだけではないような気もする。

 雨は丸一日降り続け、翌朝にはやんでいた。

 雨が降ったのは吉兆のしらせだと、何故かお祭りのように町の人々は陽気に振る舞っていた。

 ぬかるみにヌルヌルと車輪がとられる中、馬に曳かれて荷馬車は進む。

 もう、軽い気持ちで雨を降らせるのは止めようと、心に誓う俺を乗せて行くのだった。

 

 次の町では、隣りの町で雨が降ったと知らせを聞きつけて、雨乞いの儀式のような事をはじめるとか、ちょっとした騒ぎになりはじめていた。

 我関せず、だ。

 町の人々は、不満を抱えていたようだ。

 畑や作物を盛んに作っているこの町に雨が降らないで、大して畑に力を入れてない隣りの町に雨が降るのかと。

 きっと神様は、町を間違えたのだろう、そんな見当違いの愚痴とも何とも言えない噂が町に流れていた。

 

「お歌、しないの? 」

 

 ラーラの言葉は猿真似などでは、無いと思わせた。

 少し幼稚な言葉遣い、ミシェネが使うわけがないから。

 

「ラーラは雨、降るといい? 」

 

「うん 」

 

 さすが淫獣と、褒めたくなるほどの愛らしい笑顔で頷くラーラ。大概の男なら、抱きしめたくなるほどの可憐な笑顔だ。

 淫獣の素朴な願いに心打たれた訳ではない。

 作物を作る人達の助けになるならと、ばあちゃん子の俺が、思ったとしても責められるいわれはないだろう。

 ヒン◯ルならぬ、ばあちゃんなら、そうした、それが理由だ。

 

 出発の朝、起きがけに雨乞い魔法を歌う。

 この前は寝る前にかけて、夜中から降りはじめたから、そのタイムラグを考慮したわけだ。

 きっと昼前には降り始めるだろう。

 

 それは、間違ってなかった。

 けど、雨雲が集まったのは俺たちの荷馬車の上空だったと言う事を除けば。

 

「この珍妙な雲は何かの呪でしょうか? 」

 

「お嬢様、お歌、したから…… 」

 

 訝しむミリルシアにこたえたのはラーラだった。

 "淫獣の分際で何が分かるのです?" と問い詰められると言葉に詰まるラーラ。

 

「この魔法は、今朝いた町にかけたつもりなんだけど…… 町に戻ってもいい? 」

 

「お嬢様、いつからそのような魔法を?」

 

 "結界も覚えていないのに" とミリルシアの顔に書いてはいないけど。そう見えてしまうのは何故だろう。

 

 雨雲に追われるように町に戻ると、町の人々は歓喜に盛り上がっていた。

 魔法をかけた芭蕉じゃなくて、俺のいる所に雨を降らせる魔法だと、良く分かったよ。

 この町でも一日足留めとなった。

 荷馬車の幌は、一応、油を染み込ませた加工がしてあるらしいけど、殆ど用をなさなかった。

 内側に沁みてきた雨は、アオリ部分から伝わって、荷台に溜まる寸前までいった。

 木箱の上に避難していたから、靴が濡れたりはしないものの、服は皆、しっとり濡れていた。

 

 満月の夜、吸血のあと、フェリオではなくて、ラーラに相手をして貰ってるのもあると思う。

 主人のチェルニアの次位に、俺になついているラーラ。

 魔法は使えないものの、能力(スキル)で偽装し、擬態できる。

 インキュバスのように精を吸って能力の維持をしているらしい。

 人と同じように食事もするが、精が沢山吸えれば、必要ないそうだ。

 魔眼を持たないから魅了は使えない。

 体液には催淫の効果があるとチェルニアから教えて貰った。

 女の身体をしているが、部分的に男にも変えられる。

 本来が形のない姿なので、擬態のアレンジは自由自在のようだ。

 正直に言えば、俺も一匹欲しい位。

 それほど魅力的に思ってる。

 

 毎回、町に寄る事に雨を降らせていたら、何日かかるか分からない。

 最後に雨を降らせてから、既に5日は経っている。

 途中、大きな湖から流れてくる川があったから、それほど水に困っているでもなさそうなので、余計なお世話をするのは止めていただけだ。

 それでなくとも、雨は神様が降らせてくれるもの。

 教会の偉い人が祈りを捧げたから、神様がその願いを聞き入れてくれた結果だと、信じる人が、とても多い。

 "あの荷馬車が来ると雨が降る" なんて噂でも流されたら、とんでもないから。

 聖女じゃないかとか言われ有名になったら、魔族がバレてしまう。

 魔族がバレたら、魔王軍がどうのと、言い出す者がいてもおかしくない。

 こんな人族の国のど真ん中で、逃げる場所などきっとないだろうから。

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