異世界の石   作:井ノ中蛙

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第38話 魔服

 

 

 

「……! 」

 

 風が強い。

 風に煽られて荷馬車の幌が大きく歪む。

 砂漠の気候とは変わってきたのを感じる。

 実際に砂漠を見たのは途中の町で一度だけだった。

 砂漠の近くに町を作るメリットがほぼ無いので、そんな過酷な場所にある町は、なかなか無いだけの話だ。

 砂漠の向こうに何かあるとか、理由がない限り、砂漠に足を踏み入れる者もいない。

 地図で見る限り、砂漠の向こうにあるのは海らしい。

 海沿いに村でもあるかも知れない。

 あったとしても、ぐるりと砂漠を避けて大回りしないと砂漠の向こうには行けないから、余程の事がない限り、住んでる人は居ないだろう。

 

 大陸の東側の端が近いらしい。

 海岸沿いを北上すれば、ルシャワンダ森林国に繋がり、ユーリスタ神聖国へ行けるそうだ。

 ルシャワンダ森林国でも魔王軍はちょっかいを出して来ないだろうと、ミリルシアは言うが、エルフの気質を聞いたら、長居したい気にはなれなかった。

 全てがそうとは言わないけれど、基本的に気位が高く、唯我独尊。チームプレーを好まず、個人主義が基本。

 倹約家で社会性に乏しい。

 

 たぶん、エルフのステレオタイプがそうなだけで、その手のエルフが悪目立ちするから、そう思われているだと思う。

 いつぞやのエルフの村は、……確かに倹約家なきはするが、チームプレーで村を守っていたような気が……、しないでもない。

 

 都会のエルフと、田舎のエルフのようにきっと違いはある筈だ。

 行ってみないことには何も分からないのだから、幾ら推察してみた所で時間の無駄だ。

 気を取り直して、結界の練習をはじめよう。

 

 

「あー、確かに波が荒いね…… 」

 

 海岸まで来た。

 まるで日本海のように、海は荒れていた。

 海鳥が凍えそうに翼を畳んで丸くなっていた。

 "嗚呼〜、あー♪" なんて歌い出したりしない。

 北へ帰ろう。

 故郷のある北の町へ。

 

「どうなさいました?」

 

 海を見て目に涙をためていたら、ミリルシアとフェリオとチェルニアとミシェネに心配されてしまった。 ラーラは何が言いたそうな顔をこちらに向けている。

 海には感傷に誘う何かがある。

 白い飛沫をあげて打ちつける波が心の中まで濡らしてしまうようだ。 

 猛烈に会いたくなった。

 前世の家族とか、色んな人に。

 こんな姿になってしまったけれど、俺は元気でやってますと、教えたい衝動に駆られる。けれど、それはまず無理だ。

 石のままで何年過ごしただろう。

 何年どころじゃないか、ゴーレムの崩れた小山の中にいたのも、足して、この体で目覚めるまでの数年も足せば、余裕で何十年は行くだろう。

 前世で死んでからこの世界で生まれるまてに時間が経っていない保証はどこにもないだろうし。

 誰も生きてはいない気がする。

 かと言ってこの世界で会ったのはドラゴンに、エルフの土魔法使い、魔女にホムンクルス位なものか。

 誰とも会いたいとは思わない。

 一体誰と会いたいのかと考えたら、ばあちゃんだと気がついた。

 最後に会えたのは、普通の場所じゃない。きっと、あの世的な特殊な所だろう。

 単純に過去を懐かしんで会いたいと思う気持ちと言うより、今の境遇に何かしら不安を抱えているのではないだろうか。

 だから知らず知らずのうちに、過去の自分より誰か大きな存在の庇護下に入りたいと思っているとか。

 

 海岸沿いに進める道はなかった。

 少し戻って、北に向かう道を馬車は進んだ。

 小さな集落をひとつ、ふたつと、通り過ぎた。

 お世辞にも立派とは言い難い家々が寄り添うように、建っているだけの集落だ。

 海からの風に吹き付けられ、人影はまばらだった。

 

「この辺に町はあるか? 」

 

「このまんま行けば、日が落ちる前にレゴスの町へ着くべよ……」

 

 チェルニアが声をかけた男は、酷く訛った返事を返してきた。

 町があるなら、宿屋もあるだろう。

 デコボコ道を荷馬車は進んだ。

 

 言い忘れたけれど、ミリルシアは、リベラの服も持っていた。

 魔服と言う身体を分解してもついて来る服だ。

 けれど着るのはやめた。

 一度試したら、そうはならなかったから。

 過去のリベラと、今のリベラは何かしら違うらしい。

 宿屋の部屋で、また裸になってしまった。

 驚くミリルシア。

 魔服とは、ヴァンパイア本人の血で染めた糸を使い生地を作り、服に仕立てた物だとか。

 ヴァンパイアは血が大事なのに、そんに大量に抜いて大丈夫なのかと聞いたら、糸を体の中を通して血に潜らるそうだ。

 子供の頃から少しずつ糸を貯め、大人になると服に仕立てるそうだ。

 その魔服が用を為さない理由とは何だろう。

 見た目は前と同じでも、中身が違うからだろうか。

 石の体が埋め込まれたリベラは、前とは別人と、服も判断したと言う事か。

 いくら恥ずかしくても、死ぬよりは良いだろう。それは、そうなのだけど、殺されそうな場面で、裸になるシチュエーションを考えたなら、その後の展開は、絶対にそっち方面になるだろう。

 殺す前に嬲られるとか、余計辛くなるだけとしか思えない。

 裸になった時点で、影に潜って逃げるプランを用意しているから良いのだけど。

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