異世界の石   作:井ノ中蛙

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第4話 エルフの集落

 

 

 エルフは山犬の肉や角を持って行ってしまった。

 俺は水辺から離れた木の茂る所に来ていた。

 魔法で飛ばされたとはいえ、一瞬で随分と移動したものだ。

 

 エルフは、この近くに住んでいるらしい。

 週に一度は水浴びに来た。

 他のエルフも来るかと思えば、そうでもなかった。

 日替わりで違うエルフが水浴びにきてくれても大歓迎なのだけどな。

 この水場に来るのは、殆どが魔物。

 たまに、エルフ。

 そんな森の中の滝の落ちる水場だ。

 

『んおおっ! 』

 

 いつも水浴びに来るエルフが呪文を唱えた。

 すると、周りにあった石が集まりはじめる。

 俺はエルフより少し高い所で、群がる石に合流した。

 ええと、これは一体、どういう事だろう。

 

「δ↷≮{⊕>※‰βπ⊗∠∧↶#」

(ゴーレムよ、ついて来い)

 

 石が集まって人の形をとっているらしい。地面に落ちる影で分かった。

 スタスタと木々のあいだを歩いて行くエルフの後をドシン、ドシンと足を地面にめり込ませながら、ゴーレムは進んでいく。

 

 しばらく進むと集落に出た。

 エルフの村だ。

 当たり前だが、いるのはエルフばかり。

 子供も居れば年寄りもいた。

 男のエルフが集まっているのが見える。

 今見えてる景色は、ゴーレムの見ているものだ。

 俺はゴーレムの頭部の一部として取り込まれていた。

 意識はあるものの体の自由は効かない。

 元から体を動かす事は出来なかったから、何も変わらないのだけど。

 

 ゴーレムの主人であるエルフの女は、集まっていた男達に加わって何やら話し込んでいる。

 その間、突っ立ったまま、それを眺めているゴーレム。

 ゴーレムの視点は高く、エルフの建物の屋根ほどの高さがあった。3m程度はあるだろうか。

 ゴーレムを作る魔法を使うとは、エルフの女は、それなりに魔法の腕があるらしい。

 魔法には、詳しくないけれど、ただ放つだけの魔法とは明らかに違うのは分かる。

 

「‰βπ⊗∠∧↶#」

(ついて来い)

 

 話がついたらしい、女はゴーレムを従えて集落の中央を通る道を進んでいった。

 逆方向に向かって子供や年寄りが歩いていく。

 避難でもさせるのだろう。

 

 集落から延びる道をすすんで行くと、エルフの足がピタリと止まった。

 

「√¶∉%≪∼ⅺⅢ+№∅∂∬§»±”△↢*{⊕※⇕⇔」

(お前は、これから近づいて来る魔物は全て殺すのよ)

 

 振り返りそう指示を告げるエルフ。

 ゴーレムは小さく頷いた。

 そのすぐ後だった。

 周りの藪から山犬が飛び出して襲ってきたのは。

 勿論、石の体のゴーレムは、噛みつかれてもびくともしない。

 腕を振り山犬に当てるだけで、グチャリと嫌な音をたててその場に血を流して倒れた。

 山犬だけではない、丸くて独特な模様のイノシシが突進してきた。

 勢いに負けて、半歩だけ下がったゴーレムは、反撃とばかりに、両手を組んで振り下ろした。

 ドゴンと、有り得ない音がして、イノシシの頭部がトマトのように潰れてしまった。

 残った胴体を蹴り飛ばして始末した。

 "パッパラ〜♪"

 頭の中でファンファーレが連続して鳴り続ける。

 フォレストウルフに、ワイルドボア、アイスフォックスと次々に魔物が襲って来る。

 しかし、どれもゴーレムの敵ではなかった。

 

ーーーブヒィ! フギフギフギ……

 

 力士の体に豚の頭の魔物が現れた。

 粗末な布地を腰に巻き、手には棍棒を握っている。

 異様な容姿に違和感しかないが、ドラゴンにヴァンパイアもいるのだから、こんな魔物がいても不思議はないだろう。

 ひょっとしてコイツは、オークとか言うのではないだろうか。

 つぶらな目からは知性を余り感じない。リアル猪八戒か。

 実物を目の当たりにするとは思わなかった。

 棍棒を振り上げるも、ゴーレムの投げた山犬の死骸を受けて仰向けで倒れてしまった。起き上がった所を、今度はエルフの放った矢が顔面に刺さって、再び倒れた。

 老人の顔に小学生の背丈しかない緑色の肌のゴブリンもいた。

 これがヴァンパイアの言っていた魔王軍なのかと、思ったりもしたが、それ以上の強敵は現れなかった。

 

 エルフの主人に指示され、集落へと戻る道すがら、やっと頭の中でレベルが上がった事を告げる声がおさまった。

 どうやら俺は "マジックジュエル" と言うものに進化したらしい。

 ゴーレムの一部になっているので自分の姿は見れないが、どんな姿になったのか期待が膨らむ。

 石が宝石になってもキラキラするだけとは思うけど、石よりは全然マシだろうから。

 

 

「あら、魔石が混じってたのね……」

 

 集落の外れでゴーレムの魔法は解かれて、体は崩れた石の小山になった。

 その中に見つけた魔石をエルフが取り出す。

 それが俺だった。

 魔石と言われる物になったらしい。

 

 魔石は、魔力を操る者全てに有るとされる魔力を宿した石だ。

 ドラゴンからはそう聞いていたが、まさか石から進化してそれになれるとは思わなかった。

 俺が魔石になれたのに一緒にゴーレムになっていた他の石はなぜ、進化しないのだろうか。

 エルフの女は、布地で俺を軽く拭くと小袋にしまった。

 

 その後、何度か魔法でゴーレムになり魔物を倒すを繰り返した。

 頭の中でステータスが上がったとアナウンスは何度もあったが、進化は一度もなかった。

 エルフ達は集落の防衛に注力しているのは分かるが、魔物の襲撃のたびに集落は、少しすつ壊れていっているようだった。

 ゴーレムだけでなく、矢や魔法で防戦しているようだ。

 何人規模なのかも分からないが、何度も襲撃され、徐々に劣勢に追い込まれているのを感じる。

 当初は魔物やゴブリン、オークだけだったが、その上位種も混じるようになって、その比率が回を重ねるごとに増えてきていたからだ。

 オークも武装している者は簡単には倒せなかった。

 剣や盾を使い巧みに攻撃を躱し、迫って来る。

 力任せのゴーレムも1匹、2匹相手なら倒せても、3匹、4匹に囲まれると手こずった。

 一度は片腕を切り落とされる事もあった。まあ、石の集まりだから、次にゴーレムされた時には完全体で復活出来るから心配ないのだが。

 明らかに力の均衡が、崩れつつある。

 今回は何とか凌げても次はどうだろうか。

 そんな不安が頭をもたげはじめると、それはすぐに現実のものとなった。

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