「ん、 何ですか? 誰ですか? 」
目を丸くして、聴き直すフェリオ。
帰り道の傍らフロンジュが、格闘でも実力を見せれると言い出したが、相手が居ないと無理だよね、と話していたら、部屋にフェリオがいた。
娼館には行かなかったらしい。
ちょっと見直した。
「剣士なら相手に不足はないわね……」
自信満々のフロンジュ。
一方、フェリオはスケスケ衣装の女の子相手に格闘戦をしろと言われて、戸惑っている。
宿屋の裏庭、馬車の横で、2人は構える。
「ポーションで治る程度の怪我までは許可します、存分に腕を奮うと良いでしょう…… はじめ!」
ミリルシアの掛け声で2人は戦闘体勢に移る。
やや腰を落として拳を顔の前に置くフェリオに対して、フロンジュは、ピョンピョンと小刻みに小さく跳ねている。
ボクシングの試合で試合開始の前によくボクサーがやるのに似ている。
ーーーシュッ!
いきなりフロンジュが、右足を蹴り上げる。
フェリオの顎を狙ったのか。
しかし、フェリオは半歩下がってこれを躱した。
姿勢を低くして、大きく前に出る。
フロンジュは振り上げた足の勢いのままに後方バク転した。
突進してくるフェリオに、またしても足を振り上げる。
左に逸れて蹴りを躱すフェリオ。
横からフロンジュに迫る。
「ぐっ…… 」
唸り声を漏らして動きが止まったフェリオ。
フロンジュは、お辞儀をするように、上体を倒すと、右足を横に回転させ、フェリオの脇腹に叩き込んだ。
すぐに距離をとるフェリオ。
効いていないのか、丸めた背中からでは様子は伺えない。
「もう来ないの? 」
両手を下ろしてピョンピョンと左右に揺れるフロンジュの目は戦う者のそれだ。
「シュッ 」
フェリオの右ストレート。
簡単にフロンジュに躱される。
まだ、世界を狙うには早過ぎたらしい。
木の下で落ちてくる木の葉掴みか、片手でクワを振り長い畑の畝を耕すなと、訓練方法は多岐に渡る。
重力10倍なんて荒療治もあるだろう。
「あ、 」
12ジャブからのアッパーと、調子よく空振りを重ねたいたフェリオ。
その全てを避けていたフロンジュがつまずいた。
フェリオを甘く見て気を抜いたようには見えない。
その証拠にその後は、手刀でフェリオの拳をいなすような動きをはじめた。
そして、合間に蹴りを挟んで仕留めようとする。
が、蹴りは決まらず、フェリオの攻撃も止まらない。
間に気を抜いたようにカクンと躓くフロンジュ。
パッと、飛び上がると、大きく間合いをあけた。
仕切り直しかと思った刹那。
ーーーパシッ
乾いた音と共にフロンジュがその場に尻もちをついた。
何事かと驚くフロンジュ。
足首に手を宛てていたから、足払いをされたらしい。
そのすぐ目の前には、フェリオが立っていた。
目にも留まらぬ一瞬での移動。
「 "力" 使ったわね? 」
「使うなと言われてない…… 」
「じゃあ、お互い文句言いっこナシね…… 」
「どわっ!」
フロンジュの姿が消えた。
フェリオがその場に尻をつく。
お返しと言うわけか。
ピシッ、バチン、ヒュン、と音しか聞こえず、姿は見えない。
急にドスッと低い音がして、フロンジュがお腹を抑えて跪いた姿で現れた。
いわゆるスーパーサ◯ヤ人同士の戦闘そのまんまだ。界◯拳何倍だろう。
フロンジュの目の前にファイティングポーズを決めたフェリオが現れる。
きっと残心と言うヤツだと思う。
何だかカッコイイんだけど。
「そこまでで、いいわよ フェリオには及ばないみたいね……」
ミリルシアがそう言い放つ。
けれど、悔しそうな顔のフロンジュは抗議しなかった。
敵わないと分かったのだろう。
"負けたわ" "その蹴りは悪くないよ" と親しげな2人。ポーションを使うまでもないと、フロンジュは、尻をパンパンと埃をはたいた。
ミリルシアが言うには、護衛にしても盾の代わりにはなるだろうとのこと。
まさか本当にそうは思ってないが、身体を売って稼がせるよりは、良いと思った。
「フェリオ、勝ったご褒美はフロンジュにする? 」
どうせ今夜はインキュバス組は帰って来ないだろう。
帰ったら帰ったで、インキュバスの餌食になるのは目に見えている。
フロンジュにその事を説明して、了承を得たなら、好きにすれば良いと伝えた。
その後の事は知らない。
翌朝、何となく分かった。
フロンジュはフェリオを受け入れたようだ。
インキュバスよりは良いだろうと思う。
インキュバスを目の前にしたら、どう判断が変わるかは、知らないけど。
女の敵なのは間違いないのだけど、本当に、惚れそうになるから不思議だ。